翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第六十六回配信 9-11陰謀論 その1


陰謀論者とは、どんな人なのか?

9/11五周年をむかえ、以前からくすぶっていた
“9-11のテロはアメリカ政府の陰謀だった!"という説が
静かな盛り上がりをみせています。

名門ブリカムヤング大学の物理学の教授、
スティーブ・ジョーンズは、ワールドトレードセンター
(以下WTC)はテルミット爆弾とやらで
意図的に破壊されたのではないか?
という説を唱えだしました。
今年7月末の世論調査でも、アメリカ人の1/3以上が
「アメリカ政府は9-11の攻撃に加わっていた、もしくは、
知っていて防がなかったと考えている」
という結果が出ています。

この9-11陰謀論、

・高空を高速で飛行中の飛行機から
 普通の携帯電話が通話できるはずがない。

・ペンタゴンに飛行機が激突した壁の穴が小さすぎる。

・航空機が激突した
 ワールドトレードセンター(WTC)の
 二つのタワーの倒壊の様子がきれい過ぎるし、
 そもそも激突後の火事だけでビルの鉄骨が
 そんなにもろくなるのはおかしい。

・何もぶつかっていない
 WTC第7棟が倒壊するはずがない。
 などなど一般的な疑問を並べ、そこから一足飛びに

・乗客が犯人と戦って墜落したとされる
 ユナイテッド93便は、
 本当は米軍に撃墜されたんじゃないか?

・WTCやペンタゴンにぶつかったのは航空機ではなく
 ミサイルだったんじゃないか?

・WTCは第7棟もふくめて爆破解体されたんじゃないか?

というような“説”に発展してしまっています。

9-11の謀略を唱える人たちは
“アメリカ政府の不正を暴いてやる!”
と大変な意気込みなんでうっかり本当なのかな?
と思ってしまいそうです。
ただ、陰謀論の側にも
無理のある話が多いような気がするし、
今回は、陰謀説を唱えている人たちが
そもそもどういう人たちなのか、
その人たちがどんなことを言っているのか、
追いかけてみたいと思います。

すずきちが観察した限り、
陰謀論を唱えている人たちに、
大まかに二種類いるようです。

一種類目は、
取材した、内部リークがあった、など一次情報を装って
嘘もしくはいい加減な情報を流す人達。
多くの場合、
もともとユダヤ人陰謀論などを持ちネタにしていて、
9-11の悲劇をネタに更に食いつなごうとしている
職業的な陰謀論者です。
川上陰謀論者と呼ぶことにします。
二種類目は、
真実を暴くんだという使命感はいいんだけど、
いい加減な一次情報をそのまま鵜呑みにし、
あるいは自分なりの
勝手な解釈を更に加えて広めてしまう、
川下陰謀論者です。


実際に、どんな情報が流れているのか?

まずは、川上陰謀論者の生態からみていきましょう。
例えば、映画にもなったユナイテッド93便は、
陰謀論のみなさんによると米軍によって
ペンシルバニア州上空で撃墜されたことになっています。
“説”によると撃墜したのは、
ノースダコタ州空軍F-16で
パイロットは「リック・ギブニー少佐」だそうです。
これを言い出したのは、ドン・デ・グラン-プレ元大佐。
9-11以前から米国政府の陰謀にまつわる本を
いくつかだしている作家です。
なぜノースダコタ州空軍が首都近辺にいたかというと、
ワシントンDCに近いバージニア州ラングレー空軍基地に
訓練のために行っていたとのこと。
この情報については
一般向科学誌ポピュラー・メカニクスが
「9-11神話の正体を暴く」
という企画で追跡取材しています。
記事によると確かに
リック・ギブニーというパイロットが
ノースダコタ州空軍にいます。
ただし、少佐じゃなくて中佐です。
で、9-11当日に彼は何をしたかというと、
彼の同僚は確かにラングレーにいたのですが、
自身はノースダコタにいました。
9-11の緊急事態が発生すると彼は命令を受け、
当日モンタナ州に出張中だった
ニューヨーク州緊急事態対策部長
エドワード・ジャコビーさんを迎えに行き、
複座F16にのせて
モンタナからニューヨークへ彼を送り届けました。
ジャコビーさん本人がその事実を確認しています。
ノースダコタからユナイテッド93便が墜落した
ペンシルバニアまで1700Kmあります。
寄り道している時間は当然ありませんでした。

ギブニー“少佐”が撃墜犯であるという
ガセネタを流した
グラン-プレ元大佐の肩書きなのですが、
検索すると“元陸軍大佐”だったり“元空軍大佐”だったり
“元海兵隊大佐”だったりと一定していません。

また、9-11の真相についてこの“元どこかの大佐”は
「9-11はラムズフェルドを含むネオコン一派による
 文官クーデターだったんです」とも断言しています。
ちなみに9-11の朝、ラムズフェルド国防長官は
旅客機が突っ込んだ瞬間
ペンタゴンの建物の中にいました。
自分で起こしたクーデターで
めちゃめちゃ自分が攻撃されてます。
仮に陰謀だったとしても、
どんな手違いがおこるか
わかったもんじゃありませんから、
大爆発がおこるのが確実な建物の中にいるのは
命がけです。
ラムズフェルドは自分で自分の命を危険にさらすほど
間抜けなんでしょうか?
グラン-プレさんは9-11に関する情報とやらを
提供する前に、
基本的な情報を整理してから
発言して欲しいと思います。
パイロットの階級と当日の行動とか、
9-11当日のラムズフェルドの所在とか、
自分自身の経歴とか。

折角なので
ユナイテッド93便に関連して指摘しておくと、
乗客の英雄譚が怪しいとされる根拠のひとつに、
"携帯電話で状況を知ったというけど
 飛行機で携帯電話はつながらないんじゃいか?"
という疑問がありました。

これに関しても、
ポピュラー・メカ二クス誌が取材しました。
携帯電話会社クアルコムの
技術担当者他に取材したところ、

・2001年当時でも電波は
 30000〜35000フィートまでは余裕で届く。
 普通は50000フィートまでは届くはず。

・飛行機で携帯の使用を禁止しているのは、
 飛行機の電子機器に悪影響があるかもしれないという
 点のほかに、
 複数の中継局が携帯の電波をひろってしまい
 地上のシステムが混乱するという理由もある。
 具体的には、通話の中断や音声の途切れがおこる。

ということだそうです。

ユナイテッド93便の最高の飛行高度は40700フィート。
機内からの通話の多くは途切れがちで、
夫が奥さんに電話して名前を呼びかけた瞬間に切れて
それきりになってしまったという通話もあったそうです。

白状するとすずきちも携帯が
飛行機からでも通じるのかな?
と内心疑問に思っていました。
ところが今回このことをあらためて調べてみて、
陰謀論者の話を受け売りして
"疑問だ、疑問だ、怪しい、怪しい、陰謀だ"と
騒ぐこと自体が既に大変な暴力なんだと気づき、
ちょっと恥ずかしい気持ちになりました。
名前を呼んだだけで切れてしまった電話が
最後の会話になってしまった夫婦がいたことを、
もう一度思い起こしておきたいと思います。

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
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2006-09-11-MON

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