つくっている野菜、300品種以上!鈴木農場の鈴木光一さんに聞く 野菜のおはなし。
第2回
お芋にイケメンシェフの顔が浮かぶ。
──
ちなみに、鈴木さんが栽培されている
300以上の品種というのは、
だんだん増えていって‥‥今の数に?
鈴木
ええ、毎年、新しい品種を
10とか20くらいの数、試すんですけど、
そのなかから
可能性のあるものを残して、この数。
──
「あ、つくってみたいな」と思う品種が、
毎年、そんなにあるんですか。
鈴木
あります。

私、種屋もやっているので、
種苗メーカーさんとのおつきあいの中で、
「こんど、鈴木さんの農場向けに、
 この種はどうですか?」
とか、新しい種をつくる育種家さんから
「この種を栽培してみてほしい」
といったご提案を、多くいただくんです。
──
はじめて栽培する1年目の野菜も、
収穫したら、すぐに商品になるんですか?
鈴木
なりますよ、もちろん。
いいものであれば当然、商品になります。

野菜というのは、
基本的に1年に1回しかつくれないので、
自分が日本で最初につくれば、
その1年間は「独占」できるんです。
──
おお、なるほど。
鈴木
その野菜をお客さんが気に入ってくれたら、
次年度以降、
つくる農家がどんどん出てきます。

新しい品種というのは、
そうやって、世の中に広まっていくんです。
──
では、鈴木さんが最初につくって、
今では全国に広まった野菜も、ありますか?
鈴木
もちろん、ありますよ。
日本中でブレイクした品種が、たくさん。
──
たとえば‥‥。
鈴木
枝豆とか。

郡山ブランド野菜でも
「グリーンスウィート」という商品名で
販売している商品です。
──
あ、あの枝豆ですか!

以前、藤田さんからいただいたんですが、
みんなで茹でて食べたら、
すごく美味しくて、
うちの会社にもファンがたくさんいます。
鈴木
ありがとうございます。

庄内地方の特産品の「だだちゃ豆」って、
あるじゃないですか。
ちょっと、茶色い色のついている‥‥。
──
はい、超美味しいやつ。
鈴木
あの枝豆、味はすごくいいんですけど、
晩成種つまり「おくて」なので、
ビールの飲みたくなる7月くらいだと、
獲れないんです、美味しいのが。
──
なるほど。
ビール党には、少々じれったいですね。
鈴木
でも、グリーンスウィートの場合は、
茶豆の甘みや香りを持ちながら、
早く収穫できて、しかも、色が緑色。
──
ビール党もニッコリ、と。
鈴木
ほんの10年前には、
どこにも存在しなかった枝豆ですけど、
今、日本中の直売所で大人気です。

おそらく、早い時期に出ている枝豆は、
ほとんどその品種だと思います。
──
そんな枝豆の勢力図を塗り替えるような
大ヒット商品が、
鈴木さんの農場から、広まっていった。
鈴木
1年目、全量をうちでやらせてもらって、
いきなり爆発的に売れたんです。

そこで
「来年はぜんぶ郡山でやらせてほしい」
とお願いして‥‥。
──
やはり、そんなに違ったんですね。
鈴木
違いました。あの枝豆に出会えたことが、
郡山ブランド野菜をはじめる、
大きなきっかけになっているんです。

仲間に
「こういう種を入手することができて、
 素晴らしいから、
 どうせなら、みんなでつくって、
 郡山のブランド野菜に育てないか」と。
──
そうやって生まれたのが、
あの「グリーンスウィート」ですか。
鈴木
当時の藤森英二郡山市長に、
いちばんに穫れたグリーンスウィートを
食べてもらったんですよ。
──
ええ。
鈴木
市長は、無類の枝豆好きだったのですが、
「これはすごい!」となりまして。
──
おお、市長のお墨付きが。
鈴木
その場で
「商工観光課の部長を呼んでこい!」
となり、
毎年ドイツの楽団を呼んで開催している
郡山のビール祭りのブース、
ふつうに借りたら何百万というところを、
無料で貸してくださいました。
──
それも、枝豆が美味しかったから‥‥。
食べものの威力とは、ものすごいです。

ちなみに、急に新品種が人気になる場合、
それまで主流だった品種って、
何でしょう、なくなってしまうんですか?
鈴木
そうですね、ガラッと切り替わりますね。

グリーンスウィートは
他の枝豆を市場の外へ追いやってしまう、
「スーパー品種」だったんです。
──
スーパー品種。
鈴木
出るんです、たまに。すごいのが‥‥。
──
たとえば、他には?
鈴木
そうですね、最近では
直売所レベルのヒットですが、インゲン。

郡山ブランド野菜にも入っていますけど、
従来のインゲンの概念を、
まるっきりひっくり返したインゲンです。
──
えー、「ささげっ子」という商品ですね。
どのように「スーパー」なんですか。
鈴木
まず、インゲンが嫌いな人って、
あの「グニュッ‥‥」という鈍い食感と、
緑くささが、ダメらしくて。
──
僕は、インゲンは苦手ではありませんが、
その意見はわかります、何となく。
鈴木
でも「ささげっ子」のインゲンは、
緑くさくなく、むしろ香りがいいんです。

さらに、甘みがあって、
何より、インゲンのダメな人が嫌がる
あの「グニュッ‥‥」感がなく、
サクッコリッと、いい歯ごたえなんです。
──
登場して何年くらいの品種なんですか?
鈴木
7、8年ですかね。
私も、食べたときにビックリしました。

とある種苗メーカーの育種家さんが、
「インゲンという野菜は、
 和洋中のすべてに使われているけれど、
 どの料理でも、ただの脇役。
 だから
 主役をはれるインゲンをつくりたい!」
という思いで、生み出したんです。
──
そこから、全国的な人気を得るまでには、
どれくらいかかるんですか?
鈴木
さっきの枝豆のグリーンスウィートは、
本当に「スーパー」だったので
広まるのも早かったんですが、
まあ、3年から5年は、かかりますね。

ジワジワという感じです、
ふつう、日本中に広まるまでには。
──
野菜はテレビCMとか、しませんもんね。
鈴木
そう、だからこそ、
他の農家さんに先んじてつくれることが、
大きなアドバンテージになる。

おそらく、今われわれしか知らないけど、
4、5年後には、
きっとブームが来るだろうという野菜も、
いくつかありますし。
──
鈴木さんの手の内には
「まだ有名じゃないけど、これはいいぞ」
という野菜が‥‥。
鈴木
そうですね、たとえば今なら、
ほうれん草で、素晴らしい品種があります。

郡山ブランド野菜に
「緑の王子」という商品名で展開している
ほうれん草があるのですが、
近いうちに、
そっちの品種に変えようかなと思ってます。
──
あ、「緑の王子」は商品名だから、
その正体、
つまり品種は変えられるんですね。
鈴木
そうですね、より美味しくなるなら、
お客さんの期待に、
より応えることができるようになるなら、
どんどん変えていきます。
──
はい、美味しくなっていくぶんには、
消費者としても大歓迎です。

ちなみに、その素晴らしいほうれん草って、
どのような特徴があるんですか?
鈴木
ほうれん草には、
食べたら絶対に美味しいんだけど
「ベト病」という病気に弱い
日本ほうれん草と、
「ベト病」に強い西洋ほうれん草との、
ふたつが、あるんです。

で、今、おそらく、
店頭にならんでいるほうれん草のうち、
95%は、西洋ほうれん草。
──
病気に強くて、つくりやすいから。
鈴木
でも、美味しいのは、日本ほうれん草。

だから私は、メーカーさんに会うたび、
「日本ほうれん草、日本ほうれん草」
と言い続けてきたんですが、
少し前に
「実は、こういう新品種ができたので、
 食べてみてください」と‥‥。
──
おお。
鈴木
そしたら、もう、うまかった。
食べたら「あ、これだね」と。

当然、病気にも強い。
──
それは、素晴らしいほうれん草です。
鈴木
でしょう?(笑)

まだ、少量しかないというので、
うちで全量やらせていただけませんかと、
お願いをして、
今年から「作付け」をはじめたんです。
──
では、近いうちに食べられるんですね。
楽しみですー!
鈴木
これが広まったら、
ほうれん草が嫌いな人も少なくなるかな、
と思うくらい、自信があります。
──
そうやって、鈴木さんが
新しい品種にチャレンジするときって、
どんなことを考えますか?
鈴木
そうですね‥‥自分の中では、たとえば
「ブランコの中田くんなら、
 この芋、よろこびそうだなあ」とか。

ブランコというのは‥‥。
──
知ってます。何度も行ってます。

郡山にある美味しいフレンチのお店の
「ブランコ フクケッチァーノ」のことで、
「中田くん」というのは、
そのお店の、若きイケメンシェフですね。
鈴木
はい、そのとおりです。
後半部分は、わかりませんが‥‥(笑)。
若きイケメンシェフ・中田智之さん。写真提供:藤田浩志さん
──
お芋に中田シェフのお顔が浮かぶように、
それぞれの野菜に、
具体的な人の顔が浮かんでくるんですか。
鈴木
はい、浮かんできます。人やお店が。

「ああ、このかぼちゃは
 東京のラ・ブランシュの田代さんだな」
とか
「こっちのトマトは、
 資生堂パーラーの銀座本店に合いそう」
とか。
──
おもしろいです(笑)。
鈴木
そうやって、私のほうから
具体的に提案できる「絵」が浮かべば、
つくってみようと思えるし、
結果的に、うまくいくことも多いです。
──
なるほど。
鈴木
郡山で開催している「開成マルシェ」の
お客さんなら‥‥とか、
表参道のマルシェに持ってけば、とかね。
──
ええ。
鈴木
逆に、そういうイメージが湧かないと、
おもしろくないし、
あまり、うまく行かないと思うんです。

誰かによろこんでもらえるかどうか、
よくわからないまま、
つくってしまうことになりますから。

<つづきます>
2016-11-21-MON