フィンランドにはITEという言葉があります。
イテ。「自分でつくる人生」の略です。
これはひとつの芸術分野「ITEアート」として
今では広くフィンランドで知られているし、
いろんな芸術がある中で、もっとも庶民的というか
裾野の広い受け入れられ方をされてるのではないかな。
どういう芸術かというと、
芸術を専門的に学んだバックグラウンドの有無なく、
「居ても立ってもいられず」
自己流でつくり続けられてきた(表現され続けてきた)
個性的な作品たちのこと。
それがITEアートと呼ばれているものです。
多くが身の回りにある廃材や、
簡単に手にはいるものを使っています。
人に見せたいからでもなく、
有名になりたいからでもなく、
ましてや芸術家になろうと思っていたわけでもなく‥‥
やらずにいられなかったというのが理由です。
ただそれだけ。

中くらいの町に行ったときのこと。
そこには「エドヴィンの小径」と呼ばれる散歩道が
森の中にありました。
あるおじいさんがつくったものです。
そこには使えなくなった機械や部品、
いらなくなったタイヤなど
さまざまな廃材を用いてつくられたUFOがあったり、
SFチックなサンタさんがいたり、
かと思えば森のかわいい動物の集いなど、
楽しいストーリーがたくさんちりばめられた
少しゆるくて、でも精巧なオブジェたち。
そんなものたちが森のなかにたくさんありました。
そういえば、小さなチャペルまでつくってました、
このおじいさん。
大きなカエルなんかは、そこに腰かけて
ゆっくりくつろぐのにもよさそうだし、
エキゾチックな南国の生き物なんてのもいます。

自分の庭に自分の日課であるヨガのポーズを
何態もつくっては庭を埋め尽くしてしまった人もいます。
コレクターもあるときからは、
それが世界を「つくる」行為になっていきます。
そうしてこんなITEの人たちは
フィンランドの津々浦々にひっそりといるのだそうです。
そういう人たちを探し出すことを
自分のライフワークにしている方もいますが、
面白い人たちは、ただ自分のためにやってます。
だから人に向けて宣伝したりもしてくれません。
実は相当いたりするんでしょうね、味わい深い人々。
でも、なかなか見つけにくいんだそうです、
フィンランドでは。

サマーハウスでの夏の日々。
小刀一本を調理に使ったり
枝を切り落とすなどの力仕事にも使ったりと
何でもするそんな器用な大人たち。
子供たちはその様子を大自然の中で見ながら育ちます。
枝に細工を施したり、
少し時間があるときには小刀ひとつで
動物を彫ってくれたり。
子供たちには危ないから、という言葉よりも、励ます。
小刀一本でいろんなことができる大人を
真似ようとする子供たち。
大人はそんな子供たちを見守る、
そんな光景をよく見かけます。
太めの枝にいろんな細工をしてものをつくる‥‥
それは雨の日の素敵な室内遊びにもなるのです。
そしてこの環境でのものづくりは、
学校の宿題や習い事のような「期限」がないぶん、
焦る必要もないし
「他のひとたちにとって」優れたものになるようになんて
気にする必要もありません。
自分でものをつくる、
それから大人といっしょに大きなものをつくる。
家やボートづくりをお父さんやおじいちゃんに混ざって
うろちょろしている小さな男の子たちがいます。
道具のこと、機械のこと、
そんなことを一つひとつ教えてもらいながら、
釘の打ちかただって、
小学生になるかならないかくらいで、
それなりに一丁前だったりするんです。
そりゃあ大きくなったら
自分で家を建ててみたくなるのも
自然ななりゆきかもしれませんね。
いつの間にかどんなに忙しいときも、
時間をかけてゆっくりと自分のペースで自分らしく
「ものをつくること」が
最高のストレス解消になっていくのです。
そうそう、フィンランドのITEアート。
ここ数年で他のヨーロッパ諸国からも、
他に類をみないような独特なアートとして
注目されているそうです。

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