自分が住んでいるパリについて、
「なんだか好きじゃないんです」
って言われる事があります。
「だって冷たいでしょ?
親切じゃないし、英語通じないし」って。
この言葉を聞くと、なんだか僕は、
パリを背負っているつもりじゃないのですが、
「いやいや、そんな事はないですよ」とか
「まあ、確かにそうですけれど‥‥」なんて
複雑になっちゃう時があります。
結局の所、その人のその時の状態かな?
なんて自問自答をするのですけれど。
じつは、フィンランドに到着する前、
僕はスペインに仕事で行き、
バルセロナの空港でカメラからパソコン、
パスポートまで盗難に遭ってしまいました。
呆然としつつ、その時に思ったのが、
「大好きなスペイン、もう嫌いになっちゃうかも?」
ってことでした。
そんなことってありませんか?
その時にあった出来事で
その国の印象が変わっちゃうことって?


昨年の春、武井さんからこの旅のことを聞いて、
そのテーマが「おじさんになる方法」だと知り、
本当にびっくりしました。
だって「フィンランド」で
「おじさんになる方法」ですよ。
随分と前に「フィンランドに遊びに行くんだ。
カウリスマキに逢えるかもしれないよ」って言われて、
「僕も行きたい!」と懇願したことがあったのですが、
そのこともあって、その時の僕の
「フィンランドのおじさん」の解釈は、
「カウリスマキ映画のようなおじさん」でした。
カウリスマキの映画に出てくるおじさん達って、
もの静かで、ちょっと弱々しそうで、滑稽で、
‥‥やっぱり普通じゃないと僕は思います。
そんなおじさんになる方法なの?
一体、「ほぼ日」で何が起こっているの??
と、思いましたよ。
でも、もちろん、それがすべてじゃないですよね。
パリもゴダールがすべてだったら、困りますもんね。
みんながシェルブールの雨傘やってたら、
悲しいですもん。
そのテーマにびっくりしたのもありましたが、
武井さん、「僕も撮影をします」って言うんです。
(彼は食べるのも好きですけれど、
カメラ好きですから。)
「えーっ、撮影、任せてよ」という気持ちもありつつ、
「お、おじさんがテーマ? カメラふたり?」
最後にはせっかくだし、写真家としてでなく、
個人としても思いっきり楽しもうと。
こんなことは初めてかもしれません。
こういう時は、仕事柄、
いつもカメラを通した目線になってしまうので、
それだけじゃない時があってもいいかもしれないと。

下調べとして、『かもめ食堂』を
日本に帰った時にDVDで見ましたよ。
小林聡美さん、もたいまさこさん。
「やっぱり猫が好き」を、昔、よく見ていたのですが、
いや〜お二人が出ていると、あの印象が強くて、
「懐かしい〜」。
そしてヘルシンキの静けさとあの彼女達の間合の演技、
なんとなく似ていて、それだけで、
「ぷっ」っと笑ってしまいました。
そうして、到着したヘルシンキ。
空港内に、いきなりムーミンショップです。
行き交う人々の表情は笑っているでもなく、
疲れてもいず、でも、何か、こう、
ずっと誰かの話をまじめに聞いてる時のような顔‥‥。
(せっかく到着したというのに。)
お店の内装の明るさに比べて、妙に、アンバランス。
その前に太陽さんさんのスペインにいたので、
ヘルシンキの空の色は濃いブルーではなくて、薄い水色。
街に出れば、なんだかすべてがグレーに見えて、
建物も真四角でスケールが大きくて。
武井さんが出迎えてくれた時に彼が着ていた
でっかい赤いハートのTシャツだけを、
妙に派手に感じておりました。
ホテルのラウンジにもお客は誰もいなくって、し〜んと。
「これがカウリスマキの世界なのか?!」と思いながら、
この静けさに独りはしゃいでおりました。

▲スペインの青い空

▲ヘルシンキの夕方
出発前に、森下さんからご丁寧なメールを
いくつも頂きました。
旅の醍醐味は、行く場所ももちろん、
誰と行くかということもありますよね。
僕が雪山からの写真を送ったら、
かわいいリスの写真を送ってくださって。

▲森下さんの送ってくださった、リスの写真
森下さん、ムーミン研究をされているし、
こんなにかわいい写真をお送りくださるし、
いやはや、物語のような神秘的な方なのかと!
ところが、いざ、3人集まったら、
いきなりげらげらと笑ってばかり。
小学校の遠足のように。昔からのチームのように。
とりあえず、街を見ないと始まらないと
ヘルシンキのマリメッコのアウトレットから遊園地まで
とにかく歩いて歩いて歩きまくりました。
パリも同じです。エッフェル塔に登っても、
本当のおじさんには会えません。
知らない路地やら歩いて覗いてみない事には。
僕のフィンランド。
「カウリスマキ」「グレーな街に赤いハート」
「やっぱり猫が好き」「森下さんのリス」
「3人の笑い」「バルセロナの盗難の痛手」
‥‥自分でもなにがなんだかわからないままに、
この旅は始まりました。
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