最終回 満足のいく眠りは、ある

高橋 でもね、アミノ酸の研究って、おもしろいんですよ。

糸井 ええ、先生を見ていると、そんな気がします。
高橋 たとえば、タンパク質ってのは
20種類のアミノ酸から、できているんです。
そのなかの11種が、体内でつくれる非必須アミノ酸。
糸井 グリシンも、そこに入りますね。
高橋 ええ。で、残りの9種類が、必須アミノ酸。

これらは体内で生成することができないから
われわれ、食物から摂っているんです。
糸井 でも、そもそもバクテリアなんかは
自前で20種類、つくっていたんですよね?
高橋 ええ、ええ、そこなんですよ。

われわれは、20種類のうちの9種類も
自分でつくるのを、やめちゃってるんです。

つまり、理屈のうえでは、
「このアミノ酸は自分でつくるの、やめ!
 外から摂ることにしよう」って決断が
どこかであったと、考えられるわけですよね。
糸井 ええ、ええ。

高橋 そのときに、そのつど、
残りのアミノ酸が、外注に出したものの働きを
カバーするかのように、動いてきたんじゃないか。
糸井 それを、9回やったと。
高橋 そういうふうに、いま、考えてるんです。
糸井 なんだか、従業員20人の
中小企業の話みたいですね(笑)。
高橋 ああ、そう、そう。似てますね(笑)。

あと、アミノ酸というものには、
非常にたくさんの情報が含まれているんです。
しかもそれが、
20種類でネットワークを形成している。

いままでの医学なんかを見てみると
「1対1」の関係で
対応することが多かったんですね。

これをこうすると、ああなります、みたいに。

ところがアミノ酸は、ある状態に対応するために
ネットワークを全体を変貌させて
新たな平衡状態をつくりだしているらしい。

これは「システムバイオロジー」といいまして、
生物学のなかでも、非常に新しい分野なんです。

糸井 ははぁ‥‥生物学以外の分野でも、
「1対1対応」ではなく「対ネットワーク」の話が
トレンドとして、ありますよね。

自分の会社のことから何から、
そういうふうに考えかたをシフトしたときのほうが
納得がいきやすいんですよ、僕自身。
高橋 脳の研究なんかも、一種のシステムバイオロジー。
糸井 ネットワークだから。
高橋 そうです、そうです。

で、9種類の必須アミノ酸は自前ではつくれないから
もし足りなくなったら、
脳が命令するんです、他のみんなは使うなって。
糸井 オレ以外の部分は、がまんしろと。
高橋 つまり、それが「疲労感」なんです。

疲れたからもう動かないぞという、脳の主張。
具体的にいうと、脳が代謝を下げたりして、
顔色なんかも、だんだん悪くなってきて‥‥。
糸井 そうか‥‥なるほど。
オレは疲れてるんだという、脳の積極的な表現なんですね。

高橋 「ああ、くたびれた」っていっちゃうのが
脳としては、いちばん話がはやい。

だから、脳が「必須アミノ酸が足りない」といって
疲労感を表現してるんだとしたら‥‥
それを補給してやれば、元気になるはずでしょう。
糸井 なるほど‥‥アミノ酸、そうですか。

うまく摂取してやると、
いろいろ、いいことがありそうだと。
高橋 はい、そういうことなんです。

で、そういうアミノ酸のなかでも、
睡眠に関していうと
これまでご説明してきた「グリシン」なんですね。
糸井 つまり「満足のいく眠り」というものは
たしかにあって、
それをサポートしてくれるのが、
グリシンというアミノ酸なんだ、ということですね。
高橋 ええ、もちろん個人差はありますし、
人によって、
ちょうどいい睡眠時間なんかも、さまざまです。
糸井 それは、自分なりに見つけていく必要がある。
高橋 ええ、そういうことですね。

でも、深い眠りを引き出して、
睡眠パターンを健康的なかたちに整えるのには、
グリシンは有効だと思っているんです。
糸井 なるほど、なるほど。
今日はどうも、ありがとうございました。
高橋 いえいえ、こちらこそ。



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2007-11-14-WED


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