第7回 脳にも「遊び場」が必要だ。

糸井 ちょっと「満足のいく眠り」の話から
離れるかもしれませんが‥‥。
高橋 ええ。
糸井 いままでのお話をお聞きしていて、
レム睡眠というのは
「質の低い睡眠」みたいに扱われていた、
というふうに聞こえたんですが‥‥ちがいますか?
高橋 ええ、そのとおりなんですよ。

さきほどもすこし触れましたけど、
われわれが起きて活動しているときには
ある種のストレスが、つねにかかっているわけです。

そのストレスを解放してあげて、
「自由に動いてもいいよ」といってあげてるのが、
たぶん、レム睡眠なんだろうと。

糸井 つまり、記憶の再編成であるとか、
脳の自由度みたいなものを確保することだとか‥‥
そういう役割があるとされはじめたんですね。
高橋 池谷先生の研究されている分野ですが、
ここ数年で、そういうふうに
学問的には解釈されてきてるんじゃないでしょうか。
糸井 でも、もし、僕らが
社会生活を
「自己抑圧的に」営んでいるのだと仮定したら、
その脳のストレスってのは、
人間が群れをなすようになって以降、
どんどん大きくなってるとは、考えられませんか?
高橋 ああ‥‥群れをつくった時点で、
自由におもむくまま、生きられるわけじゃないし。
糸井 だって、ストレスじゃないですか。
高橋 うん‥‥環境要因プラス、
社会生活の人間関係からくるストレス。

糸井 たとえば、10万年前の人間と現代人とで、
その「組成」は変わってないわけですよね。
高橋 遺伝子なんかは、ほとんど変わっていませんね。
糸井 つまり、人間のつくりじたいは
ほとんど変わってないのに
現代人が要求されているものの水準って、
すごく高くなっていると思うんです。

大むかしの人では考えられないほど、
大きな要求にこたえ、ストレスを感じながら、
その見返りとして、
それなりのごほうびを、もらってる。
高橋 つまり、相当ムリしてると。
糸井 だから、脳研究の見地からいったら、
もともと人間は
群れをつくる動物じゃなかったって捉えかたも‥‥。
高橋 ありうるかもしれませんね。

社会不適応ということに対して
すごく厳しいですしね、人間というのは。
そのならいに、従わざるを得ない。
糸井 吉本隆明さんと話しているとき、
「人間って、
 群れをつくるものじゃないと思う」って、
おっしゃってたんですよ。

吉本さんの場合は、どちらかというと
哲学的な意味で捉えるべきなんでしょうけど、
でも、われわれが
群れをなす必要に迫られてきたのだとしたら‥‥。

つまり、レム睡眠的な「自由」のほうが
もし、よしとされていたならば、
人間って本来、「群れない」のかもしれない。

高橋 みんなでちからを合わせて狩りをしないと
食物を手に入れられない、
という歴史がありましたよね。
それを理由にして語った場合には、
群れとは人間の本質である、とは言えるんです。

ですから、われわれが群れをなすまえから
スーパーやコンビニがあって、
食物の獲得に問題がなかったら、
もっと、自由に生きていたかもしれませんね(笑)。
糸井 ああ、おもしろいですね。

人間が「いいことだ」と選びとってることって、
どこか、自己抑圧的に我慢していたりしますから。

その、群れるかどうかということに限らず。
高橋 そうですよね。
糸井 なんというか、
「楽しさ」とか「よろこび」でさえも、
脳にとっては、ストレスなのかもしれない‥‥。
高橋 楽しいのもストレスだっていう言いかたは、
けだし、名言ですよ。
糸井 ようするに、脳にもストレスのない「遊び場」を
つくってあげてる、ということなんですね。

レム睡眠の役割というのは。
高橋 けっして「質の低い眠り」ではないんです。



<つづきます>


2007-11-12-MON


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