第2回 人間の眠り、ネズミの眠り。

高橋 いま「眠り」は「大航海時代」なんですよ。
糸井 つまり‥‥「見つけられてない」と。
高橋 ええ、完全なセオリーを見つけられていない。
わたしも、
何も知らないところからはじめたんです。

糸井 大学教授でらっしゃったときは
もともと、動物の方面でらしたんですよね?
高橋 ええ、獣医生理学という分野を教えていました。

より厳密に専門をいうと
生殖生理学とか、生殖内分泌学になります。
糸井 じゃ、ようするに先生は
もともと「アミノ酸」を研究していたわけでは
なかった、ということですね。
高橋 ええ、まったく、ちがうんです。
糸井 でも、今回の「睡眠特集」をやるにあたって、
先生が、生理学のなかでも
動物のほうにお詳しいということが、
かなり、重要なことだと思ったんですよ。

さっきも言いましたけど、みんな「眠り」に対して
極端に「主観的な感想」を持ってるじゃないですか。
高橋 ええ、まさにそうですね。
糸井 睡眠時間が足りてるだとか、足りてないだとか、
今日はちょっと寝不足かも知れないだとか‥‥。
「眠り」についての
いろんな説を耳にはするけれど、
ジャッジしてるのは、結局「自分」なんですよね。

つまり、動物だって眠るわけですから、
先生にお話をおうかがいしたら、
客観的に語った「睡眠論」になるのではないかと。

高橋 なるほど、わかりました。

ではまず、「眠り」について
言っておかなければならないことが、ひとつ。

それは、
わたしたちが「動いている」ということです。
糸井 ええ、動いてますね。
高橋 動物なんだから、あたりまえだと言われそうですが、
この「動いている」ということは、
わたしたちにとって、とてもたいせつな機能です。
糸井 植物は、動けませんね。
高橋 植物の場合は、動けないなりに、
外部からのストレスに対応するしくみを
持っているんです。

で、われわれ人間の場合ですと
「動く」ということが、生きていくうえでの
非常に大きな戦略になってくるわけです。
糸井 ああ、頭でものを考えて、
状況を判断しながら、動いていますから。
高橋 はい。その場合、「神経系」を
あるていど休ませなければならない。

神経系というのは、電気発火みたいな原理で
命令を伝達し、身体を機能させるものですから、
四六時中、活動させているわけにはいかないんです。

つまり、われわれが生きていくうえで
「神経細胞を休息させる必要性」が
生じてきたんだろうと、まずは思うわけです。

糸井 ははぁ‥‥それがつまり「眠り」なんですね。
高橋 そのとおりです。
糸井 「休息させる」というのは
「不活発になる」という意味ですか?
高橋 うーん‥‥反応しないという状態ですね。

で、人間以外の動物の場合、
間歇(かんけつ)的に休んでいるんです。
糸井 つまり「とびとびに」眠っている。
高橋 いっぺんにまとめて眠らない。人間みたいには。
糸井 眠る、起きる、眠る、起きる‥‥を繰り返してる。
高橋 たとえば、ネズミは「夜行性」といいますけれど、
あれは、単純に「昼間、眠ってる」というわけじゃない。

昼と夜の睡眠時間の割合が「2対1」くらいで、
「昼のほうが多く眠っている」ということなんです。

つまり、疲れたら眠る‥‥その繰り返し。
これを僕らは「スプリットして眠る」と言っています。

糸井 人間の場合は「まとめて眠る」わけですよね、
8時間とか。
高橋 はい。それって、ほとんど「人間だけ」なんですよ。

<つづきます>


2007-11-05-MON


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