第5回 寝ようが寝まいが、どっちでもいい。

糸井 つまり、京極さんは
とっても「環境順応性が高い」ゆえ‥‥。
京極 寝ない、のかな?

糸井 ものすごく、ひとことで言っちゃうと、
「丈夫な人」ってことでいいんですか?
京極 いや、肉体的には、ふつうですよ。
「鍛えるのは体に悪い」という信条(笑)。
糸井 おかしいじゃないですか。
京極 ‥‥あのね、最近、気づいたんですよ。
若いころには
あんまり気にもとめなかったんですけど。
糸井 なにに?
京極 温度差とか、あまりわかんないんです。
糸井 暑いとか、寒いとか?
京極 たとえば部屋がすごく暑かったりしても、
わりあい、平気なんですよ。
糸井 暑いのが、わからない?
京極 でもね、汗はダラダラ出てるし‥‥
ようするに
「気がついてないだけ」なんですね。

身体は「もうダメだ!」って言ってるのに。

糸井 それって‥‥危ないでしょう!(笑)
京極 危ないですよね。
トイレとかも忘れがちなんですよ。
糸井 なにかに集中していて?
京極 いや、忘れてるの。
平気で丸一日、行かなかったりとか。

事情を知ってる人なんかは
「今日は、トイレ行った?」なんて
聞いてくるくらいですから。
糸井 そのこと自体が「おかしい」ってことは
ご自身‥‥おわかりですか?(笑)
京極 ええ、ぜったいおかしいです。
糸井 おかしいですよね。
京極 丸一日、トイレに行かないとか、
メシ食うのを忘れてるとか、
暑いとか寒いとかがわからないのは、
おかしいです。気づきました。
糸井 じゃ、寝ないというのも‥‥忘れてる?
京極 それが、ぼくの性質なら、きっとそう(笑)。

過去をかえりみるに、多少の苦痛とか苦悩なんかは
克服しちゃってるみたいなんですよ、精神的にですが。
糸井 過酷な状況が、当たりまえだと。
京極 たとえば、会社員だったら
上司との軋轢とか、仕事のストレスとか、
いろいろあるじゃないですか。

そういうのも含めて、
イヤはイヤ、ダメはダメなんだけど、
結果おもしろいなぁと思ってるわけ。
糸井 それは、なんとなくわかるけど。
京極 怒ったり苦しんだりしてる自分が、
またおもしろいですよ。

だから、だいたいどんな仕事も
好き嫌いなく、楽しんでた節がある。
忘れてるのね、なんかしてるときは。

糸井 というか、「克服してしまう」んですね。
暑い寒いから、人間関係から、仕事まで。
京極 克服というのかなあ。
食べものも好き嫌いはいっさいないし。
糸井 それ、本については
はっきりそう言ってましたけどね。

「おもしろくない本はない」って。
京極 ‥‥本以外もそうだったようです。
糸井 最近、気づいたと(笑)。
京極 なんか、モメごとがあったたときなんかに
「俺が我慢すればいいんだろう」なんて、
開き直る人がいるでしょ?
糸井 そういうことじゃないんだね。
京極 ぼくは、我慢はキライだからしませんが、
できることをして丸く収まるなら、
それでいいじゃん、と思っちゃう。

じつは、損してる可能性大ですが。状況優先なの。
糸井 でも、小説を書いたりするときには
なにか軸がないと
読者が不安になるじゃないですか。
京極 軸というと、作者としての?
糸井 うん。だから、こういうこと言ってる人が
ああいう小説を書いてると思うと‥‥。
京極 ははは(笑)。
小説の軸は、読者が勝手にみつけるもんだろうと。
作者の主義主張なんか、見えないほうが
見つけやすいだろうと思うわけです。
糸井 ああ、だから、あんなに登場人物が多いんじゃない?
京極 うん、登場人物はぼくじゃないですからね。
糸井 そうだ、そうだ。
つまり、あの古本屋、あの探偵、あの作家‥‥。
京極 それぞれの軸は立てるんだけど、
それぞれ、ぼくの軸とはあんまり関係ないんですよね。
糸井 その軸どうしに関係性を持たせれば、
ひとつの絵になってくる、と。
京極 ええ、そうです。
糸井 なるほどなぁ。
京極 だって、どっちでもいいことって
多くないですか?
糸井 ええ、そうだとは思いますよ。
京極 右だろうが左だろうが、
大差ないことって、じつは多いですよね?

いや、もちろん「こうでなきゃイケナイ」って
こともあるんですが、
どっちでもいいことって多いでしょ。

そういうときも選択はするんだけど、
その理由は単なる「好き嫌い」とか
「気分」に過ぎないわけで。
糸井 ‥‥寝る、寝ないの決定も。
京極 うん。まぁ、どっちでもいいでしょ。

糸井 すごい「睡眠論」になってきた(笑)。

<つづきます>



2007-12-21-FRI