経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第49回 戦争と株価


37年間生きてきて、これほど驚いたことはない。

1987年の夏から一年間、僕は、
ワールド・トレードセンターから幹線道路を渡った
ハドソン川沿いのアパートに住んでいた。
毎日、脇を歩いて通勤した。
展望台にも、最上階のレストランにも何度も行った。

二本のタワーは、
遠くからは細長い角材を並べたようで
華奢に見えるかもしれないが、
近寄れば、一本一本の角材がペンシルビルなみに
太く、どっしりしている。

9月11日(現地時間)、
テレビでライブ中継されながら、
あの巨大な建造物がこの世から消滅してしまった。
飛行機がぶつかって炎上した時は、現実感がなかった。
正直に言うと、特撮映画を見ているようで、
ちょっと興奮さえした。
しかし、二本のタワーが前後してなくなる光景を見て、
僕は、経験したことのない激しい喪失感に襲われた。

「悲しい」のとはちょっと違う。
今までたしかにあったものが、もはや、ない。
こんなことが本当に起るんだ、
という不思議な気分です。

・・・と、個人的な感慨は
これくらいにしましょう。

9月12日、日経平均株価は
17年ぶりに10,000円を割り込んだ。
塩川財務大臣は、それを史上最悪のテロのせいにした。
テロが直接のきっかけとなったのは間違いないが、
本当の原因は、日本経済の状態が悪いから。

1990年の湾岸戦争の時も、
8月にイラクがクェートに侵攻し、
9月に日本の株式市場は暴落した。
あの時もそうだったが、今、株価が下がっているのは、
9月の中間決算を乗り越えられない銀行が潰れて、
金融不安が起るのでは・・・という懸念からである。

株好きの人のために言っておくと、
湾岸戦争の時は、
多国籍軍の空襲が始まって株価は急騰した。
世界経済にとっての脅威は、
テロや戦争がもたらす直接の被害ではなくて、
「ノーマルでない状態」がダラダラ続くことである。

湾岸戦争の時は、
アメリカがイラクに負けるわけはないから、
戦闘が始まった段階で
「ノーマルな状態」が見えたわけだ。

むしろ、残酷ですが、
経験的には「戦争は買い」なんですよ。
自国が交戦してボロクソに負けない限り、
戦争は株価を押し上げる。
日本を例にとれば、日清戦争、
日露戦争、第一次世界大戦、朝鮮戦争は、買い。
当り前だけど、第二次世界大戦は売り。

ただし、これは古い経験則である。
当時は、経済全体の規模が小さかったから、
戦争の「経済効果」が効いた。
グローバリゼーションが進んだ今では、
戦争によって貿易が妨げられる
マイナスの大きさを無視できない。

もうひとつ、
戦争は敵国が降伏すれば終わるけど、
テロリストを「全滅させる」のは難しい。
何かが「ある」ことの証明はやさしいが、
「ない」ことの証明は難しい。
それと同じで、テロリストは、いくら殺しても、
どこかに隠れて残っているかもしれないから、
なかなか「ノーマルな状態」に戻れない。

一応、今回は、アメリカが
アフガニスタン空爆を開始すれば
「先が見える」のかな・・・

(「アストロバイオロジー」の話は、
 次回に延期です。今回のテロに接して、
 教育、とりわけ科学教育の重要性について
 考えさせられたので、そのことを。
 インパク編集部の方々、すいません。
 みなさん、インパク「松井企画」見てくださいね)

2001-09-13-THU

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