経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第46回 IT時代の民主主義

すべての国民は「法の下に平等」と憲法に書いてあっても、
「政府が何をやるか」に与える影響力は同じではない。
ただ一票を投ずるだけの「ごく普通の国民」から
頂点の内閣総理大臣まで、
政治に与える影響力のピラミッドが形成されている。

国会議員はもちろん、
官公庁、新聞社、テレビ局で働いている人なども、
ピラミッドの上のほうにいて、
「ごく普通の国民」よりも、自分の意志を強く
政府の決定に反映させることができる。

「ごく普通の国民」ひとりひとりは無力だけど、
その集合体の「世論」が政府に与える影響は大きい。
法律的には、内閣総理大臣は国会議員の多数決で決まる。
しかし、現実には、
世論調査で内閣支持率の低迷が続いたら、
内閣は倒れる。
「ごく普通の国民」が政治に与える影響は、
選挙の一票より、
世論調査を通じてのほうが大きいだろう。

もちろん、選挙の一票があるからこそ、
ピラミッドの上のほうにいる人たちは
世論調査を気にする。
世論調査の権威は、
法律で定められた選挙制度が支えている。

世論調査って、多分、ランダムに電話をかけて
聞き取り調査をやるんだと思うけど、
どれくらい信憑性があるのだろうか?
「普段、家にいて電話に出る人」というだけで、
すいぶん、サンプルは片寄る。 

質問の立て方によっても、結果は変わる。
電話の聞き取りで「五択」のアンケートを取ったら、
最初のほうは忘れてしまって
最後の選択肢を選ぶ人が増えるはず。
ま、その辺は、プロがいろいろ考えるんだろう。

ともかく、税金の使い方の決定に、
納税者ひとりひとりの意見はストレートに反映されない。
そこでは、私たちは、メディアや国会議員に
「編集」された「世論」としてしか、存在しないのである。

「構造改革」は、だから、
なるべく政府を経由して使われるお金を減らして、
自分の自由な意志で使えるお金を増やしましょう、
ということだと何度も言ってきた。

でも、政府をなくしてしまうことはできない。
「世論の編集の仕方」をもっと工夫できないだろうか。

今の政治は「雑誌型の編集」である。
雑誌の内容は、読者(国民)の好みより、
編集者(国会議員、官僚、マス・メディア関係者)
の好みが強く現れる。国民は、
「内閣支持、不支持(=雑誌を買うか、買わないか)」
というような、おおまかな意見表明しかできない。

昔は、技術的にそういう編集方法しか取れなかった。
今は通信技術が進歩したから、
「小泉首相は靖国に行くべきかどうか」
「外交機密費を何割削減すべきか」
というように、論点を絞って
「インターネット国民投票」にかける
「本型の編集」が可能だよね。

「そんな世論迎合でいいのか」
という反論が聞こえてきそうだけど、
実際にやってみれば「論点の絞り方」で
かなり結論の方向が出ると思う。
本だって、編集者の意向は、
読者が想像する以上に入っているんですよ。

2001-08-17-FRI

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