経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第45回 選挙と市場(続き)

国民は国の「主権者」ではあるが、
「その権力は国民の代表者がこれを行使する
 (日本国憲法前文)」ことになっている。
税金の使い方を決めるのは私たちの「代表者」である。
代表者って誰か? 国会議員です。

この仕組みは、株式会社によく似ている。
国民が選挙で国会議員を選ぶように、
株主は株主総会で経営者を選ぶ。
国会議員は国民の利益が最大になるように、
経営者は株主の利益が最大になるように、
行動する義務を負う。

法律上は間違いなく「会社は株主のもの」なのだが、
現実の株式会社の経営は、株主の利益より、
経営者や社員の利益が優先されることが多い。
これも、議員と国民の関係にそっくりだ。

裏切られてばかりだから、
選挙も、株式投資も、日本では人気がない。
「投票率」も低いし、
「個人金融資産に占める株式の比率」も低い。

株式会社も選挙も、近代ヨーロッパで
同時期に発達した制度だから、
似ているのは当然かもしれない。
両方とも、面倒なわりに、うまく機能しなくて
イライラさせられることの多い制度である。

しかし、それ以前の制度にくらべれば、
はるかにすぐれている。
それ以前は、少数の特権的な人たちが
政治も経済も取り仕切って、利益を独占していた。
チャーチルが
「民主主義は、最悪の制度であるが、
 他のすべての制度よりはマシである」
というようなことを言ったらしいが、
本当にそうだと思う。

今は、政治家には
「後援会や支持団体を怒らせるようなことを
 やると、次の選挙に落ちる」
というプレッシャーが、経営者には
「あんまり怠けていたら会社が儲からなくなって、
 株価が下がる」というプレッシャーがかかる。
これは、とてもよいことなのだ。

でも、こうやって比べてみても、
政治家にかかるプレッシャーは甘いよね。
いや、選挙に通るのはとても大変そうで、
それは尊敬するんだけど、
「国民の利益が最大になるように行動する」
プレッシャーがかかっているとは、とてもいえない。

「構造改革」は、要するに、
「今まで政府がやっていたことを、企業にやらせる」
ことである。民主主義と株式会社は、
どちらも、近代ヨーロッパの偉大な発明だが、
株式会社のほうが、少し、出来がいい。
だから、政治の関わる分野を少なくして
株式会社に任せれば、世の中が少しよくなる・・・ 

実際、イギリスやアメリカでは、そうなった。
小泉さんがやろうとしているような改革は、
イギリスではサッチャーが、
アメリカではレーガンが二十年くらい前に始めている。

日本もそうなるか?
これは、しばらく経ってみないとわからない。
「世界でいちばん当る予言者」
である株式市場は下がりっぱなしで、
「ちょっと違うんじゃないの」と言っているが。

2001-08-17-FRI

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