経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第36回 余計なお世話だけど・・・

 
この間、たまたまチャンネルが合った
テレビの討論番組で、某ネット企業の経営者が
「日本の個人金融資産は、
 あまりお金を使わない高齢層に偏って存在している。
 贈与税を一時的に引き下げれば、財産は、
 死亡による相続を待たずに若年層のものになり、
 消費が増えて景気がよくなる」
という趣旨のことを言っていた。

前後の議論を聞いていないから、
どうして彼にそんな話が振られたのかわからない。
それで口を挟むのは気が引けるが、
正直なところ、
「おいおい、お金を使いたがらない高齢者に
 お金を使わせるにはどうすればいいか、
 それを考えるのが経営者の仕事だろう」
と思った。

彼の会社は、
ネットバブルのピークに大量の資金を調達した。
それまで現金で保有されていた
「個人金融資産」の一部が、
彼の会社の株に替わったのである。
その後、株価は大幅に下落したから、その分、
みんなの「個人金融資産」は減少したことになる。

彼は別に悪いことをしたわけではない。
しかし、彼個人と彼の会社が、
大勢の人の犠牲の上に
巨額の現金を手に入れたのは紛れもない事実である。
政治家みたいなことを考えたり
しゃべったりしているヒマがあったら、
株主から預かったお金を増やすために働いたらいかが?

ま、それは「余計なお世話」というものだが、
贈与税の負担を軽くしたら、
本当に消費は増えるだろうか?
ちょっと疑問。

まず、現在でも
年間110万円までの贈与に税金はかからない。
ちなみに、30歳で子供ができてから
75歳で死ぬまで
毎年60万円づつ贈与すると仮定すれば、
その合計は2700万円にもなる。
普通の規模の財産なら、
そうやって無税で子供の代に譲り渡すことができる。
 
だいたい、老後の不安におびえる普通の人々が、
贈与税が軽くなったからといって
子供に財産を譲るだろうか。
「贈与税が軽くなったから子供に財産を譲る」
なんてことを考えるのは、
ごくごく一部の大金持ちだけである。

しかも、それによって消費が刺激されるのは、
「贈与を受ける人が、
 それまで、十分な稼ぎがなかった」
場合に限られる。もともと稼ぎがある人なら、
もらった財産はすぐに消費しないで貯金する。

つまり、
「親は大金持ちだが、本人は無能で稼ぎがなく、
 親が死んで財産が転がり込むのを待っている」
ロクデナシの消費が増えるだけである。
そんなロクデナシを優遇してまで
経済を成長させることもないだろう。

日本は、今、将来のために
「痛みを伴う改革」をやろうとしている。
本来なら、恵まれた地位にある者は
率先して苦痛を甘受すべき時である。
王の子が全軍の先頭に立って闘わなければ、
王の威令は行き渡らない。
「特権は義務を伴う」のである。

ネット長者は現代の特権階級なんだから、
この非常時に
「税金をまけてくれ」なんて言って欲しくないなあ。
本当に余計なお世話だけど。

2001-07-05-THU

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