経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第30回 ブッシュ減税


6月7日アメリカで大型減税法案が成立した。
アメリカでは、好景気が続いて税収が増え、
財政が大幅な黒字になっていた。
その使い道は、昨年の大統領選挙における
数少ない争点のひとつであった。
 
財政赤字で国が潰れそうな日本にとっては
信じられないような羨ましい話だが、
アメリカでは集めた税金が余ってしまう。
ブッシュは「富裕層への減税」、ゴアは
「低所得者のために教育、医療などの予算を増やすこと」
を主張して、ブッシュが勝った。
 
しかし、御存知の通りの僅差の勝利である。
「金持ち優遇」に対する批判は共和党内にもあった。
経済の専門家は、おおむね、
「過去の借金の返済に当てるべき」という意見。
「票にならない」学者の正論だ。
 
ところが、そのころから急に
アメリカの景気が悪くなったので、
「減税は景気対策にもなる」とブッシュは勢いづいた。
若干、民主党に妥協はしたものの
「十年計画の大型減税法案」が成立したのである。
 
本当に「減税は景気にプラス」だろうか? 
最近、評判の悪い「公共事業」も、
かつては「景気にプラス」とされていた。
二十年くらい前まで、世界中のほとんどすべての
経済学者が公共事業を支持していた。
今では、日本くらいだけどね。
 
「経済学」は、要するに、「環境の変化に応じて、
人間の行動がどう変化するか」の研究である。
ところが、人間は、
外からの刺激に対して、決まりきった反応はしない。
 
天体の運行は、永遠に変わらない
「物理学の法則」に従うから、計算によって予測できる。
人間の行動は「経済学の法則」なんかに従わないから、
景気の予測はよく外れる。
 
「人間は、金利が下がれば、預金を減らして消費を増やす」
という「経済学の法則」が今の日本では通用しない。
減税も、公共事業も、地域振興券も、
日本の消費を増やさなかった。
 
ちょっと不謹慎な言い方だが、
今の日本経済は「経済学」の実験動物として面白い。
一体、どんな刺激を与えれば、
日本の消費は増え出すのだろうか? 
 
小さいメディアの「ほぼ日」ならではの
「大胆な実験」を提案してみよう。
相続税を100パーセントに引き上げてみたら、
どうだろう。
家族に遺産を残せないとなったら、
富裕な高齢者は、「国に取られるよりはマシ」と思って、
お金を使い出すのではなかろうか。
 
「消費するほうが、貯蓄するよりも有利」
と思わなければ、消費しない。
現在の日本人は、
「自分で消費するより、遺産が欲しい
 子供たちに親切にしてもらうほうが有利」
と思っているのだ、という仮説に基づく提案です。

「100パーセント」は冗談だが、
僕は、相続税は、所得税や消費税よりは
マシな税金だと思っている。
だから、「相続税を十年間でゼロにする」という
ブッシュ減税に驚いた。

2001-06-13-WED

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