経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第27回 フリーター型社会


「終身雇用型社会」は、
「大学を卒業して就職した時点で
 人生があらかた決まってしまう」社会である。
ゆるやかな身分制だ。
「生まれた時点であらかた決まってしまった」
江戸時代の身分制よりは、ずっとマシだけど。
 
今まで、バイトは「終身雇用型社会」の
最下層の身分として冷遇されてきた。
安い給料で単純作業をやる、
いつクビを切られるかわからない人たち。
どんなに能力があっても、
それを活かすポストは与えられない。
 
企業がバイトを冷遇し、
「契約書のない約束」で
終身雇用した社員を優遇したのは、
「経済成長が続き、企業がどんどん大きくなる」
と予想していたからである。
企業にとって、終身雇用制は、
将来に備えて忠誠心の高い社員を
囲い込むための手段であった。
 
今や、その前提が崩れた。
低成長、デフレの時代である。
これから、企業の人事も変わっていくと思う。
 
バイトは、責任感が薄いから
大事な仕事は任せられない? 
たしかに、今まではそうだったろう。
「終身雇用型社会」では、
能力と意欲のある人は、大学卒業と同時に
いずれかの企業に囲い込まれてしまったから。
いい加減な人しか残っていなかった。
 
これからは、違う。
終身雇用制が崩壊したおかげで、
能力と意欲を備えた人が
大勢フリーターとして存在している。
企業がそういうフリーターを必要に応じて雇い、
仕事に見合った給料を、その都度、きちんと払う。
それが「フリーター型社会」である。
 
「終身雇用型社会」から
「フリーター型社会」への転換。
雇用慣習が変わるだけではない。
フリーターの増加、結婚しない人の増加、
離婚の増加、出産の減少。
これは、偶然の一致ではない。
「フリーター型社会」は、
個人が、集団に束縛されないで
自由に生きられる社会である。
 
ほんの十年くらい前まで、日本の大企業では、
「海外転勤までに結婚しろ」とか、
「離婚すると出世できない」とか、
本気で言ってたんだよ。
「家庭を治められないような人間に組織は収められない」
なんていう、わけのわからない理屈をつけて。
 
会社が擬似的な「家」の役割を果たしていたんですね。
実際、一般職の女子社員は、
「総合職の男子社員の妻にふさわしい」
という基準で採用されて、
結婚と同時に退社させられた。
まあ、それが目当ての女子社員も多かったんですが。
 
出産の減少は、
(移民を大規模に受け入れない限り)、
必然的に人口を減少させる。
そうなれば、日本という国の力は衰える。
しかし、フリーターにとっては、
仕事を巡る競争が楽になるから、
人口の減少は大歓迎である。

(もう少し、続きます)

2001-06-04-MON

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