経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第21回 電子商取引環境って?


イギリスの経済誌「エコノミスト」の調査部が
8日発表した世界60ヶ国の
「電子商取引環境ランキング」によれば・・・
もう、おわかりかもしれないが、
日本の順位はとっても低い。18位。
アジアの中では、シンガポール(8位)、
香港(13位)、台湾(16位)の下。
サミットに呼ばれる先進7ヶ国で、
日本の下はイタリアだけ。
 
お決まりのように、トップはアメリカ、
次いでオーストラリア、イギリス、カナダ。
北欧諸国も順位が高い。
 
知らない方のために言っておくと、
「エコノミスト」は世界で一番権威のある
インテリ向け週刊誌。
海外のエリート(だと自分で思っている人)であれば、
かならず、読まないまでも、デスクの上に置いてある。
 
「電子商取引環境」って、要するに、
「インターネットを使ってモノやサービスを
 売買しやすいかどうか」であろう。
どうやって、較べるのだろうか。
 
僕の見た短信記事では、ランキングの基準は、
「通信インフラ、規制緩和など」としか書かれていない。
インターネットの通信速度、通信費、セキュリティ、
利用者数などは、客観的に比較できる。
 
しかし、「しやすいかどうか」を較べるのだから、
当然、較べる人の主観も入るだろう。
もし、担当者が「出会い」を重視する人だったら、
iモード出会いサイトがいっぱいある日本の順位は
もっと高かったかもしれない。
 
なんてことはないだろうが、
とにかく、私たちは、このランキングの妥当性を
自分で確かめることができない。
「日本のインターネットは、使いにくい」らしい。
でも、1位のアメリカは、どう、使いやすいのか。
どこが日本と違うのか。
ちょっと旅行に行ったくらいでは、
そこまで、わからない。
 
自動車やコンピューター、服やワインなど、
モノであれば、世界のどこで作られた製品であっても、
善し悪しを自分で確かめられる。
しかし、自分の国の通信会社のサービスの善し悪しを、
外国の通信会社と較べることは、不可能に近い。
 
そういう分野で、NTTのような独占企業があると、
「NTTのサービスの水準が当り前」になってしまう。
NTTがどんなに効率の悪い経営をしていても、
利用者である私たちは知る術がない。
というか、当のNTT自身、わからないだろう。
 
だから、アメリカやヨーロッパでは、
独占企業を細かく分割したり、
新しく通信事業に参入した企業を有利に扱ったりして、
競争を作り出す工夫を重ねてきた。
その差がこの「ランキング」に現れているのだと思う。
 
「規制や独占のおそろしさ」は、何をやっていも、
「それで当り前」になってしまうことである。
輸出、輸入できないサービスの分野では、
そういうことが起きやすい。
その最たるものが「政府」のサービスだ。
他の国の政府と較べる基準がないから、
「日本の官僚は優秀」とか
「お役所仕事はムダが多い」とか、
ほとんど「言った者勝ち」の評価しかできない。

2001-05-13-SUN

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