経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第11回 損、得の基準

前々回、株や債券を売買するプロには
証券会社で働く「ディーラー」と
機関投資家で働く「ファンド・マネージャー」がいる、
という話をした。
(英語では「ディーラー(dealer)」ではなく
 「トレーダー(trader)」ということが多い)
世の中のお金の流れとしては、
まず、個人が、当面使う予定のない余裕資金の一部を、
生命保険に掛け金を払ったり、年金を積み立てたり、
投資信託を買ったりして、「機関投資家」に委ねる。
機関投資家は、委ねられたお金で
企業の発行する株式や債券を買う。
企業は、手に入れたお金で事業を行ない、
さまざまなモノやサービスを提供する。
機関投資家は、個人と企業を結び、
企業に経済活動の資金を提供する役割を果している。

あれ、証券会社は必要ない?
いえ、証券会社は、ふたつの面で、
そのお金の流れを円滑にする機能を果している。
企業が株や債券を発行する手助けをして、
企業と機関投資家の
仲立ちをすることがひとつ(発行市場)。
そして、いったん発行された
株や債券の持ち主が変わる際、
古い持ち主と新しい持ち主の仲立ちをする(流通市場)。
金融ビッグバン以前の証券会社は、
さまざまな規制に守られて、
実際に果している役割以上の
手数料を取っていたことは事実ですが。

証券会社のディーラーの社会的な役割は、
証券市場に「流動性」を与えることだ。
ディーラーが活発に売り買いしていれば、
投資家が、株を買いたい、売りたいと思った時に、
相手方を見つけやすい。

もちろん、現実のディーラーは、
自分たちの社会的な役割など考えてはいない。
上がると思えば買い、下がると思えば売って、
市場の変動から儲けを掠め取ることだけを考えている。
ディーラーの基本的なポジションは
「何もしていない状態」で、
損得の基準は「現金でいくら儲けたか」である。

そのディーラーの感覚は、
皆さんが株をやる時の感覚と同じであろう。

ところが、機関投資家のファンド・マネージャーは、
「株を持っている状態」が基本になる。
彼らが扱うのは、「株で運用します」といって
他人から預かったお金だから。
ファンド・マネージャーの損得の基準は
「市場全体の動き」に対する勝ち、負けなのだ。
株式市場全体が下がっている時に、
自分だけ儲ける必要はない。逆に、
市場全体が上がっている時に取り残されたら、まずい。

ネットバブルの時など、プロなら、
誰でも「ちょとおかしいな」とは思う。
しかし、ネット企業の株を持っていないと、
市場全体の上昇に取り残されてしまう。
「おかしいな」と思いながら、買ってしまうのである。

2001-04-06-FRI

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