経済はミステリー。
末永徹が経済記事の謎を解く。

第8回 「カラ売りを買戻しする」とは

先週の月曜日に日銀が大胆な金融緩和を決定して以来、
株価の上昇が続いている。

株価(に限らないが)の上昇する理由は、
突き詰めれば、
「以前より高い値段で買いたい人が現れた」
ことに尽きる。
その人たちが、なぜ、そう思ったか、
本当のところはわからない。
みんなが同じ考えということもないだろう。

今回の急騰は、
「カラ売りの買戻し」、「期末を意識した動き」
などと解説されることが多かった。
実際、そうなのかは別にして、
両方とも、プロにしか関係のない理由なので、
「株って、何かこわそうで、手を出したことがない」
という標準的な日本人にとっては意味不明かもしれない。

「カラ売り」は、
「持っていないモノを売る」ことである。
持っていないモノを売れるかって? 
一、借りてくれば、売れます。
二、「今の値段で買いたい」という人を見つけてきて、
  「受け渡しは後で」と約束すれば、売れます。

一枚、一枚の株券には「個性」がない。
借りてきた株を証券取引所を通して誰かに売る。
株価が安くなったところで、誰か他の人から買って返す。
株券に個性がないから、つまり、
「借りた株券と同じ株券」を返す必要がないから、
こういうことができる。

土地や絵画のように「個性」があるものだと、
「これから値下がりするだろう」
と思っても、カラ売りはできない。
借りて、誰かに売ることは不可能ではないだろう。
しかし、そういう事情を知っている相手から、
安い値段で買い戻すことは難しい。
貸した人に「返せ」と言われたら、困ってしまう。
「似たような絵」で済ませられれば、いいのだが。

用語の問題としては、普通、
この「借りて、売って、買って、返す」取引を
「カラ売り」という。

「受け渡しは後で」と約束して売った場合も、
値下がりしたところで、
他の人から買ってきたモノを渡して、
約束してあった代金をもらえなければならない。
こういう取引を、先渡し(フォワ―ド)取引という。
先物(フューチャー)取引も、原理は同じだ。
「個性」のあるモノでは、こういう取引は難しい。

先物は、もともと、農作物の取引で発達した。
株の先物(「日経平均先物」)は
仕組みが少し違うのだが、ともかく、
「株価が下がったら安く買い戻そう」
と思って先物を売った人たちがいた。

当り前のことであるが、予想に反して株価が上昇したら、
「カラ売り」していた人たちは
「高く買い戻す」ことになって、損をする。
株価が上がれば、上がるだけ、
買い戻した時の損失は拡大する。
「そういう辛い状態から一刻も早く抜け出したい」ことは、
「高い値段で買ってもいい」と思う理由になる。

その前に、どうして彼らが
「株価が下がる」と予想したのか。
次回は、その辺りも含めて「三月期末」の話をします。

2001-03-29-THU

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