インタビュー 「中野さんが、いまもトマトをつくってくれていてよかった」糸井重里

中野さんが、いまもトマトをつくっていてくれてよかった

(トマトジュースをひとくち飲んで)
‥‥あらためて、ものすごいものですね。
ぼくはこれをおいしく感じようとするために、
なんの努力もしていないもの。
ただふつうに飲んだだけで、
自然とおいしいという気持ちがこみあげてきます。

このトマトジュースを、
ぼくは邱永漢さんに教えてもらったんです。
かなり昔の話ですが、邱永漢さんと知り合ったころ
ご自宅に招いていただいたことがあって、
そのときシャンパングラスに
このトマトジュースを注いでくれたんです。
一口飲んで、「‥‥なんだこれは!」って
びっくりしましたね。
とにかくおいしかったので、
「どこのトマトジュースなんですか」と聞いたら、
永田照喜治さんという方が提唱している
「永田農法」をもとにつくったものだと。
(※永田農法については、
 こちらのほぼ日のコンテンツをご覧ください)

その後、ぼくは永田先生とも
親しくさせていただいたんですけど、
「永田学校のいちばんの優等生で
 誠実にトマトをつくっている
 中野さんという人がいるんです」
と聞いて、いっしょに北海道まで
畑見学に行かせてもらったことがありました。

中野さんがトマトジュースを
つくるきっかけになった話がまたすごくて、
永田先生が究極のトマトをつくるために
いろんな土地をまわっていたとき、
「ここだ!」と車をとめたのが
その北海道の余市にある、中野さんの畑だったんです。
気候や斜面の具合、土の質といった環境が
たまたまトマトづくりに最適だった。
車を止めた永田先生は、初対面の中野さんに、
「ここで、こういう方法で
 トマトをつくったらいいですよ」と言ったそうです。
そしたら中野さんは、
すごく素直で実直な方なものだから、
「はい」と、そのままつくりはじめた。
それをいまでも、ずーーっと追求しているんですよ。
まるで伝説のような、すごい話でしょう。

それにしても、
この味はなんていうのかなぁ‥‥
トマトジュースだと思わないでください、という感じ。
スープみたい?
いや、でもスープってこんなにおいしいものなの?
お砂糖をいれたみたい?
でも、お砂糖をいれるだけであまくなるものなの?
‥‥とても表現がむずかしいです。
こういう「横綱」に最初に出合っちゃったから、
いまだにこれを超えるものがみつからないんです。

最近は大きいメーカーも努力をしていて
トマトジュース自体がすごく
おいしくなっていますよね。
ぼくもこれまで「おいしい」といわれるものは
ほとんど試してきました。
でも、そんななかでも、
中野さんのトマトは、やっぱり別格だったんです。

とはいえ、しばらく飲んでなかったので、
「もしかしてぼくは思い出を美化しているだけかも?」
と、きょうはすこし心配だったんです。
でも、こうして飲んでみたら、まったく心配ない(笑)。
やっぱり別格です。

このトマトジュースで、
いつかみんなに驚いてほしいと思ってましたけど、
こういう機会がやってくるものですね。
今回、中野さんから連絡をいただいて
このトマトジュースを
「ほぼ日」で販売できることになりました。
それは、「ほぼ日手帳」ではじめて
アンリさんと組めたときのようなうれしさがあります。

これを売ることができるっていうのが、
ぼくたちの誇りです。
中野さんがまだトマトをつくっていてくれて
本当によかったな、と思っています。

糸井重里