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LIFEのBOOK ほぼ日手帳

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

「ほぼ日手帳2018」の文房具ラインナップに
“本格的な万年筆”が加わりました。
気軽に使えるボールペンや
書いた字を消せる鉛筆やシャープペンもいいけれど、
「未来に読み返す(かもしれない)手帳」に
じぶんの文字を書き込むにあたって、
「書く」ことにしっかり向き合った筆記具を
使ってみたいと考えたことがきっかけでした。

とはいえ万年筆って、値段も安くはありませんし、
なかなか、気軽に手を出しにくい筆記具でもあります。
そこで、万年筆を製造・販売して100年(!)になる
パイロットコーポレーションに、
「万年筆って、どんな筆記具?」「どこがいいの?」
ということを、教えてもらうことにしました。
ふだんはなかなか見ることのできない
工場見学にも行ってきましたよ。
全4回で、お届けします。

お話を聞いた人

パイロット コーポレーション
(左)長谷川清美さん
百貨店の万年筆売り場にて20年以上
対面販売や接客を行う。
現在は本社にて高級筆記具の販売促進を担当。

パイロット コーポレーション
(右)松尾保郎さん
入社以来10年以上、国内営業を担当。

パイロット コーポレーション
(左)六田高広さん
製造部にて企画や広報の仕事に携わる。

パイロット コーポレーション
(右)小池智夫さん
入社以来30年以上、製造部に所属。
筆記具を作る機械の設計などを担当。

1万年筆の誕生。

ーー
今日はよろしくお願いします。
昨年の12月、「ほぼ日5年手帳」の発売にあわせて
万年筆を取り扱いたいなと思い、
いろいろと万年筆を探していたんです。
最終的に「初心者でも使いやすそう」
「わりと気軽に、たのしく使えそう」と選んだのが、
パイロットの「カスタム74」と
キャップレス万年筆」でした。

▲カスタム74

▲キャップレス万年筆

松尾
そうでしたね。
お声がけいただき、ありがとうございます。
ーー
実際に使ってみて
「書く行為がたのしくなった」とか
「毎日、万年筆で手帳を書くようになった」と
感想を言ってくださるかたもいるんです。
今日は、工場見学をしながら、
万年筆のことをいろいろお聞きできればと思います。
長谷川・松尾
はい、よろしくお願いします。

▲お話を聞いたパイロットコーポレーションの長谷川清美さんと松尾保郎さん

ーー
そもそも、万年筆って
どんな筆記具なのでしょうか。
長谷川
まず基本的な特長を言いますと、
書き味のよさ、ですね。
文字を書くときに、すべるようななめらかさを
味わうことができます。
ーー
ああ、インキがするするっと出て、
すごく気持ちいいですよね。
長谷川
それからもうひとつ、
インキの濃淡が出やすく、書いた文字に変化が出ます。
力を入れると濃くなったり、力を抜くと薄くなったり。
その手書きの良さが伝わりやすいという
特長がありますね。
ーー
たしかに、「万年筆で書いた文字」って、
独特の味わいがあります。
長谷川
わたしは百貨店で20年ほど
万年筆売り場に立っていたのですが、
店頭のポップひとつにしても、
パソコンで作るよりも手書きのほうが
お客さんは見てくれるんですよね。
ーー
本屋さんに行っても、
書店員さんの手書きのポップは
つい読んでしまいますね。
長谷川
万年筆売り場では、
手書きのデモンストレーションをしていると
立ち止まって見てくださる方が多かったですね。
やっぱりいちばんの魅力は、手書きの良さを
感じやすいというところだと思います。
ーー
なるほど。
万年筆メモ_01
万年筆の特徴は「なめらかな書き味」と
「手書きの良さが伝わりやすいこと」。
ーー
ところで、万年筆は
どのぐらい昔からあるんですか。
長谷川
実質的な万年筆としては、1884年に
アメリカのウォーターマンという人が
インクの流れを調整できる
実用万年筆を発明したのが最初です。
ーー
ということは、130年以上前からあるんですね。
長谷川
それ以前にもイギリスで
万年筆に近いものが作られてはいました。
ただ、ペンの中にインキを溜めておくことはできても
インキが少しずつ出るような調整ができず、
紙の上にインキがボタボタ落ちてしまうもので、
実用には至らなかったんです。
ーー
ああー。
万年筆メモ_02<br>世界初の万年筆は、1884年にアメリカで誕生した。
長谷川
そして、はじめて日本に万年筆が輸入されたのが
1895年、明治28年です。
いまも書店として有名な「丸善」さんで
当時、筆記具を扱っていた人が
「万吉さん」という名前だったみたいなんです。
その人が広めてくれたから
「万年筆」という名がついたと言われています。
ーー
そうなんですか。てっきり、
1万年ぐらい、半永久的に使える筆記具
という意味かと思っていました。
長谷川
万年書ける、という意味も
かかっているでしょうね。
小説家の内田魯庵がその名付け親だというのが
通説になっています。
ーー
へえー。
万年筆メモ_03 万年筆の万は、万吉さんの万(※諸説あり)。
長谷川
日本の万年筆第1号は1911年(明治44年)、
セーラー社さんのものでした。
パイロットが万年筆を出すのは
その1年ほど後になります。
当時万年筆はとても人気だったそうですよ。
その頃まだ日本には、
ペン先の部分を作る技術がなかったので、
ペン先を海外から購入して、そのほか
軸(ボディ)の部分などを国産で作っていたんです。
ーー
この金の部分が、ペン先なんですね。

▲この部分を万年筆の「ペン先」または「ペン」とよぶ

長谷川
1916年(大正5年)に
後にパイロットの創始者となる並木良輔が
日本初の金ペン製造に成功します。
ーー
日本初の金ペン製造‥‥。
ええと、金ペンって、なんですか。
長谷川
金を使って作った、ペン先のことをいいます。
ちょっとまぎらわしいですが、
にぎる部分を含めたペン全体のことではなくて、
インクが出る、ペンの先の部分を指します。
ーー
金って、純金なんですか。
長谷川
パイロットでは14金などを使っていますが、
正確には純金ではなくて、合金です。
ちょっとマニアックな話になりますが、
並木が1908年に完成させた
金とイリジウムの合金「イリドスミン」を使うことで
ペン先の先端部分の
「ペンポイント」という部分の製造が実現したんです。
ペンポイントは、現在でも
万年筆に欠かせない重要なパーツなんです。
工場でも、見学できると思いますよ。

▲金で作ったペン先。金ペンと呼ばれる

ーー
ペン先が作れるようになったということは、
万年筆まるまる一本、
すべて国産で作れるようになったのですね。
長谷川
そして、その2年後、並木らが
「並木製作所」という会社を立ち上げ、
「パイロット」というブランド名で
本格的な万年筆の製造と販売がはじまりました。
万年筆メモ_04
イリドスミンの発明によって、
国産の万年筆が生まれ、広まっていった。
ーー
パイロットは、会社名ではなくて
ブランド名だったんですね。
長谷川
「パイロット=水先案内人」という意味なんです。
並木は、もともと商船学校の卒業生で、航海士でした。
ーー
航海士が、なぜペンを?
長谷川
船乗りだった並木良輔は、
のちに母校の商船大学(現在の東京海洋大学)で
機関科の教授となりました。
ーー
ああ、先生に。
長谷川
製図の授業で「烏口(からすぐち)」という
製図用ペンを使っていたのですが、
これは先端がすぐに減ってしまい、
いちいちインキを付けなければならないんです。
それで、軸にインクの貯蔵部を持つ烏口を開発し、
「並木式烏口」として特許を取ったりもしました。
ーー
ええ。
長谷川
ですが、次第に
使う人間が限られてしまう烏口よりも、
並木の興味は、万人に愛される
「万年筆」へ引き寄せられ、教鞭をとるかたわら、
金ペンの研究に没頭していったそうです。
ーー
そうして国産の万年筆が生まれていったんですね。

(つづきます)