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LIFEのBOOK ほぼ日手帳 2017

LOFT手帳部門12年連続NO.1

ほぼ日手帳 2017

かっこいい革ってなんだ? 佐藤卓さんと「革会議」

グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが
プロデュースしている手帳カバー「TS」シリーズ。
ことしも「TS2017」という名で
新たな革カバーを作ることになりました。
ことしのテーマは
「とにかくかっこいい」革のカバー。
そこで、皮革の輸入・販売をおこなっている
「協進エル」の田辺裕貴さんにご協力をお願いし、
さまざまな種類の黒革を集めていただきました。

集まった24種類の中から卓さんが選んだのは、
黒い革の中にまぎれこんでいた、
見た目も製法も特殊な、シルバーの革。
あれよあれよと話ははずんで、
同じ革のトートバッグも作ることにもなりました。
この「Black Domopack」という革が選ばれた
「革会議」の一部始終を、お届けします。

ちなみに、卓さんと田辺さんのお話は
いわゆる「うんちく」っぽい難しさがいっさいなく、
「革のことはくわしく知らない」という方でも
とってもわかりやすいんです。
ぜひ、いっしょに革選びをするような気持ちで
たのしみながらお読みください。

プロフィール

佐藤卓 Taku Satoh

グラフィックデザイナー。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業。
1981年に同大学院修了。
株式会社電通を経て、
1984年に佐藤卓デザイン事務所設立。
「明治おいしい牛乳」などの
商品デザインおよびブランディング、
NHK Eテレ『にほんごであそぼ』の
アートディレクション、
21_21 DESIGN SIGHTのディレクターを務めるなど、
多岐に渡って活動中。

田辺裕貴 Hiroki Tanabe

皮革・皮革製品の輸出入や販売をおこなう
「協進エル」に20年勤務。
皮革の営業・企画のほか、世界約20カ国におよぶ
インポート皮革のバイヤーを担当。
世界各地のレザーショーや
国内外のタンナーのもとを回りながら、
最新情報を収集しつつ、
さまざま顧客のニーズに対応している。

第1回同じ黒革でも、
こんなに違う!

(革がずらりと並ぶ、商談ルームに入って)

佐藤
うわぁ、すごい。
革のいい匂いが漂っていますね。
田辺
今回、ほぼ日さんからのリクエストは、
「卓さんのために、とにかく、
 かっこいい革を集めてください」。
それだけだったんです(笑)。
佐藤
ありがとうございます。
でも、「かっこいい」っていうのも、
難しいですよね(笑)。
田辺
ええ。「かっこいい」は
人によって変わりますよね。
よく、「いい革ってどんな革ですか」って
聞かれることも多いんですが、
個人的には、「かっこいい革」も「いい革」も、
高ければいい、ということでもないですし、
うんちくが多すぎるのも、だめだと思うんです。
佐藤
ああ、そうですよね。
田辺
やっぱり人間性といいますか、
作り手が誇りを持って仕上げている革は
値段に関係なく、長くたのしんで使えるような
いい革なんじゃないかと思っていまして‥‥。
そんな中から今回は、
「かっこいい」という目線でしぼった革を
集めてみました。
佐藤
わあ、うれしいです!
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今回、候補に選ばれた24種類の革。
ひとつひとつ、表情や光沢、色が
微妙に違います。

田辺
単に「黒革」といっても、
本当にさまざまなので、
わかりやすいように
3つのカテゴリーに分けてみました。

Aボックスカーフ(クロームなめし)
B植物タンニンなめし
Cメイド・イン・ジャパン
です。
佐藤
なるほど、なるほど。
田辺
革のなめし方は、大きく
「クロームなめし」と
「植物タンニンなめし」に分けられます。
もともと、革というのは‥‥って、話し出すと
止まらなくなってしまいそうなのですが(笑)。
佐藤
お願いします! まさに、お聞きしたいことなので。
田辺
では、ごく簡単に。
もともと、革をなめす方法には
「タンニンなめし」しかありませんでした。
タンニンというのは、植物から抽出した渋なので、
伸びづらく、水に弱いんですね。
自転車の、昔のサドルなんかを
思い浮かべていただくとわかると思うんですけど、
濡れて、雨ざらしになると
だんだんひびができて割れてきてしまったりします。
佐藤
ええ。
田辺
そこで、第一次から第二次世界大戦にかけて
ドイツ軍が、靴などの軍事用品のために
「もっと水に強く、伸縮性があるものができないか」
と開発し、急速に発展していったのが、
化学薬品のなめし剤を使った
「クロームなめし」の革でした。
タンニンなめしの革に比べて伸縮性に富み、
水に熱にも強いので、靴に使用すると
丈夫で長持ちするんです。
佐藤
戦時中に生まれたんですね。
ところで「なめす」ってよく聞きますけど、
実は我々、あまり理解していないですよね。
どんなことをするんですか?
田辺
なめすというのは、
毛がついたままの獣の皮を
腐らないようにしたり、
固くならないようにすることです。
なめすことで、靴やバッグなどを作るのに
加工しやすくなりますし、
丈夫で長持ちさせることができます。
まず、毛を抜いてから、
毛穴を広げて、よく洗います。
もともと皮に含まれている脂なども、
ここで全部取り除きます。
佐藤
熱を加えたりもするんですか?
煮たりとか‥‥。
田辺
原始時代は、マツなどを使っていぶしたり、
朽ち木を煮出した液に漬けたりしていました。
今は、その代わりになめし剤を使っています。
なめし剤を加えるときには、加熱をしますね。
温度が高いほど、薬品がよく浸透していくんです。
薬品のなめし剤を使うクロームなめしに比べて、
植物タンニンのなめし剤を使う、植物タンニンなめしは
低温でじっくり加熱するので、時間がかかります。
佐藤
なるほど。
田辺
というわけで、革には
「クロームなめし」、「植物タンニンなめし」、
また、その2つの方法を合わせた
「コンビネーションなめし」があります。
今日は、
Aボックスカーフ(クロームなめし)
B植物タンニンなめし
に加えて、「日本の革」という目線もアリかなと思って
Cメイド・イン・ジャパン
も用意してみました。
実際に革を見ながら、特徴を簡単にお話ししますね。
佐藤
はい、お願いします!

こちらは田辺さんが用意してくださった
牛の皮をはいだかたちの、革見本。
田辺さんの務める「協進エル」のロゴマークも
このかたちなのだそう。

A Box calf 高級ブランドでも使われる
上質なボックスカーフ

田辺
では、まずAのボックスカーフから。
さきほどお話したように、
クロームなめしは、世界大戦をきっかけに生まれた、
タンニンなめしよりも使いやすい革です。
その中でも、ボックスカーフと言われているものは
クロームなめしの代表格で、原皮の品質もいいものなんです。
佐藤
質がいい原皮?
田辺
できるだけストレスを受けたり、喧嘩したりしないように
一頭一頭囲われて、大事に育てられた牛から
なめされた革のことを「Box calf」といいます。
また、木箱に入れて出荷されていたというくらい
高級な革という説もあります。
佐藤
ストレスがあると、革の表情まで変わるんでしょうか?
田辺
表情も変わります。お肉も、やっぱり違うと思いますし。
佐藤
人間も、そうなのかなあ。
きれいなお肌の人は、
あんまり喧嘩してない、みたいな(笑)。
田辺
そうですね。
ちなみに、原皮も産地によって違いがあります。
国内に流通している日本製の革は、
だいたい北米原皮か、日本製の原皮が使われています。
牛の、お肉の違いで
表現させてもらうとわかりやすいんです。
佐藤
お肉!
田辺
北米原皮は、大きく、脂がけっこうついている
サーロインステーキ用に育てられている感じです。
革にすると、強くて、厚い革になります。
ヨーロッパ原皮は、あまり脂身のない
ヒレステーキ用に育てているような感じ。
革にすると、しまっていて、筋肉質です。
そして日本の原皮は、ひじょうに脂身が多くて、やわらかい。
革にしても、やさしいイメージの革という特徴があります。
佐藤
なるほど。なるほど。
田辺
ボックスカーフの特徴は、
クロームなめしの中でも高級だということと、
繊維が緻密で、やわらかいけど、コシがあるため
使っていてもへたれない、ということが挙げられます。
こちらが、ボックスカーフの革です。
  • 1

    シャトーブリアン

    フランス

    定番の、柔らかくてなめらかな特徴を持つレザー。

  • 2

    スポーツラックス

    フランス

    ナチュラルなシボを押した、カジュアルなイメージの革。

  • 3

    ラスティーカーフ

    フランス

    ボリューム感が特徴。素上げの革で、使うほどツヤが出る。

  • 4

    リヤード

    イタリア

    コードバン調の革。エレガントな印象があり、使うほどツヤが出る。

佐藤
とかみたいな、マットな革だと、
「TSブラック ベーシック」と
近くなってくる感じはあるかもしれないですね。
みたいな風合いは、
「エルメス」のトートバッグに
ありそうな感じですね。
田辺
そうですね。
は、フランスの一流ブランドがメインで使っている
「デュプイ」というなめし革業者さんなんですよ。
佐藤
そうか。やっぱり「ボックスカーフ」は
どれも上質ですね。高そう!
田辺
高いですよ(笑)。
やっぱり、いちばんの違いは、黒の色の「黒さ」です。
使っている薬品も、黒をより黒くしていこうという
意識で作っているものなので。
佐藤
なるほど。全然違いますね。
この中だったら、がいいかな。
このテクスチャーは、今までのカバーとは
ちょっと違う感じですし。
田辺
じゃ、だんだん候補をしぼりましょう。
(つづきます)

今回選んだ革「Black Domopack」で
トートバッグをつくりました。
受注期間は9/1(木)11:00~9/12(月)11:00です。
くわしくはこちらのページ
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