4年目を迎えた、ミナ ペルホネンとのコラボレーションカバー。2014年版の「ほぼ日手帳」に皆川さんが選んだテキスタイルは、ミナ ペルホネンの中でも長く愛され続けている「tambourine」と、2013年の春夏コレクションで発表されたばかりの「skyful」でした。この2つのテキスタイルに共通しているのは、どちらもすてきな刺繍がほどこされているということ。この刺繍について、皆川さんの言葉とともに改めてご紹介します。

刺繍の可能性に挑戦した「tambourine」

刺繍での表現をはじめて間もないころ、
がたついたり、不揃いだったりして
自由でやわらかい手刺繍というものがあるのに、
機械の刺繍になると、
どうして、均一化された硬い印象のものに
なるのかなぁと思っていて。
機械の力は借りつつ、
手刺繍のような表現ができたら。
そんなふうに刺繍の可能性を感じていたので、
フリーハンドでスケッチを描いて
そのタッチを刺繍に起こそうと試みました。
単純な図形のほうがわかりやすいだろうと思い、
デザインしたのが、「tambourine」なんです。

2000年の秋冬コレクションで
はじめて世に出た「tambourine」。
ベージュの生地とブラウンの刺繍糸という
やさしい色合いのあたたかみのある生地で、
ワンピースなどがつくられた。

丸という単純な図形を刺繍するとき、
今までは均一に刺すのが一般的とされていたのを
ひと粒ひと粒、ちがう形の粒にして
遠くからみると同じような集合体なんだけれど、
よくよく見てみると個体差があるようにしました。

よく見ると、ひとつひとつの粒によって
糸の方向や盛り上がり方、大きさなどが
微妙にことなっているのがわかる。

「tambourine」のポコっとした刺繍は、
ひたすら刺繍糸を重ねてつくっています。
その分、時間も人の手もかかっていくんですけど、
わたしたちミナ ペルホネンは
刺繍をレリーフのように捉えていて、
立体的な刺繍柄をつくるということが
1つの特長になっています。

刺繍糸を往復させることでポコッとした
ふくらみをつくりだしている。
針が往復する分の時間がプラスされ、
13.7mの生地をつくるのに、4時間ほどかけられている。

満点の星空をイメージしてできた「skyful」

前に一度、手書きで星をいっぱい描いた
「galileo(ガリレオ)」というテキスタイルがあって、
それを刺繍でもやってみたいな、と思っていました。
「星」ときいたら、誰もが思い浮かべる
「5つ角がある星型」ではない表現だったら、
刺繍でできるんじゃないかと。
やってみたら、花のようにも見えて、
おもしろいテキスタイルになりました。

「skyful」の元となった、「galileo(ガリレオ)」。
皆川さんが鉛筆で描いた無数の星たちが
ひしめき合っている。

今まで、たくさんの刺繍の柄をつかった
テキスタイルをつくってきましたが、
布全体をここまで密に覆ってしまうほど
刺繍を刺すということは
この「skyful」がはじめてでした。
「tambourine」のようにポコッとした刺繍があったり、
専用のメスで穴をあけてから糸でかがったりして、
柄が単調にならないような工夫も加えました。

生地全面に刺繍が入ることにより、
開発時には、生地が予想以上に縮んでしまうなどの問題も。
生地の伸縮は気候にも左右されるため、
細心の注意を払ってつくりあげられている生地の1つなんだとか。

「満点の星」をイメージしたテキスタイルなので、
光沢感を感じていただけるように、
ブルーとグリーンはレーヨンの糸を、
ピンクとイエローは綿の糸をつかっています。
[yellow mix]と[blue mix]で
だいぶ印象がことなりますが、
実は、イエローか黒かだけのちがいだけなんですよ。
ピンクの色のたちかたも、
この2つでずいぶんちがうように感じられます。
色は、その隣になに色があるのか、
何色といっしょにくっついているのかが
大事だと思っています。

コットンとレーヨンの糸をつかいわけることで
レーヨンの艶っぽい質感が強調され、
夜空に輝く星を表現している。

コラム ミナ ペルホネンの刺繍ができるまで

複雑で精巧なミナ ペルホネンの刺繍生地は、
神奈川県の山間にあるレース工場でつくられています。

2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI

刺繍生地の制作は、
皆川さんがスケッチを描くところからはじまります。
そのスケッチには、
「この丸は平坦で、この丸は盛り上げたい」
「この木の葉は、左から吹いている風に吹かれている」などの
皆川さんの意志が込められてます。

2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI

レース工場の佐藤さんは、
20年以上、皆川さんと刺繍生地をつくってきました。
その経験に基づいて、
皆川さんが描いたスケッチの
色の濃さ、線の太さなどから意志をくみ取り、
機械に命を吹き込むように
プログラムを打ち込んでいきます。

2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI

ミナ ペルホネンの刺繍は
同じ形でも手刺繍のように不揃いだったり、
デザインが複雑だったりするため、
機械は通常の3分の1ほどの速度で
ゆっくりと、ていねいに針を進めていきます。

2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI

刺繍の図案ができあがったら、
皆川さんはすぐにレース工場へ向かいます。
会ってイメージを伝え、
どうしたらそのイメージによりちかいものになるのか
佐藤さんと話し合います。
顔を合わせてイメージを絵や言葉で伝えることが大切だと
皆川さんはおっしゃいます。

2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI

綿密なやりとりを重ねて、
皆川さん、佐藤さんのお互いが
納得がいくところまでにたどり着いたとき。
そのとき、
ミナ ペルホネンの刺繍生地は完成するのです。

2014-01-07-WED