変化と不変 ドナルドとプーさんのお話。
今回のディズニーカバーで採用した ドナルドとプーさんについて ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の 神田茂樹さんにうかがいました。 (約1年ぶりの登場となります)  神田さんは、実際にご自分でキャラクターを描き、 商品の監修もしている方。 そんな神田さんならではの視点のおもしろさ、 そしてその膨大な知識の量をぜひお楽しみください。
神田茂樹さんプロフィール
 
プーさん編 変えないことの魅力、 変えないための努力。
ーー ドナルドに引き続き、
今度はプーさんについて
お話をうかがわせてください。
神田 はい。
今回、こういうお話をする機会があって
プーさんについて
もう一度いろいろ調べ直してみたところ、
おもしろいことがわかったんです。
『くまのプーさん』という作品は
すべて子どもへの愛情から制作されているんです。
ーー 子どもへの愛情‥‥ですか?
神田 えぇ、ひとつずつ説明していきましょう。
まず、制作者のひとり、原作者のミルンさん。
児童文学作家であった彼が
息子であるクリストファー・ロビン※に対して
書き下ろしたのが『くまのプーさん』なんです。
※『くまのプーさん』の主人公と同じ名前。
ーー はい、それは有名な話ですよね。
神田 えぇ。
息子のクリストファーが
実際にぬいぐるみで遊んでいたお話を
具現化して文章にした、と言われています。
で、ウォルト・ディズニーも
娘であるダイアンが『くまのプーさん』に
夢中になっていることを知り、
「アニメーションにして、この世界観を広げたい」と
作ったのがディズニーの『くまのプーさん』です。
ーー ふむふむ。
神田 で、このあいだ調べていてわかったのが、
絵本の挿絵を描いているシェパードさんという方は
自分の息子のお気に入りだったテディベアを
プーさんのモデルとして描いたそうなんです。
つまり、自分の子どもに対する愛情を具現化するために
創りだしたのが『くまのプーさん』であると
言えるのではないでしょうか。
ーー ‥‥すごいです。
神田 それを知ってすごく感動してしまって。
ーー いや、たしかに感動しますね、それは。
そんな思いが込められている『くまのプーさん』は
ディズニー作品においても特別なものに思えますね。
神田 はい。
ディズニーを代表するミッキーたちは
「役者」という存在と同じと考えています。
それこそ、宇宙飛行士にもなれますし、
サムライにだってなれます。
いろいろな役柄を演じられるんです。
でも、プーさんのような、映画作品から生まれた
クラシックキャラクターは
「その作品の世界の中のキャラクター」なんです。
プーさんを宇宙飛行士やサムライに
するわけにはいかないんです。
ーー なるほど。
たしかにそういうプーさんは
見たことありませんね。
神田 だから、プーさんは
ミッキーやドナルドのように
年代でデザインが変わる、なんてことはありません。
当時も今もほとんど同じ姿です。
ーー えー、そうなんですか?!
神田 逆に、変えないことを
プーさんの魅力としてるんです。
だから、この秋公開の映画『くまのプーさん』でも
最初に登場したときと
ディテールにわずかな違いがあるくらいで
ほとんど変わらないです。
ーー 変えないことが魅力‥‥。
なるほど。
ちなみに、プーさん以外で
変わらないキャラクターって誰がいるんですか?
神田 映画作品などから出てきたキャラクターは
ほとんど変えてないです。
唯一ちょっと変えたのがティンカー・ベルですね。
『ピーターパン』の中に出てくる妖精たちに
スポットを当てたシリーズ
『ディズニー・フェアリーズ』を3D化したときに
3Dの良さを出すためにディテールを少し加えました。
でも羽の中に模様を加えたりとかその程度です。
基本の等身であるとか、顔の特徴みたいな部分は
やっぱり変えていません。
ーー そこは徹底してるんだなぁ‥‥。
わ、これとかすごい研究の跡が見られますね。
神田 実を言うと、プーさんはミッキーとかに比べると
描きにくいんですよ。
とくに目が難しい。
ーー あれ? でも、プーさんの目って‥‥
点がふたつだけですよね?
神田 そうなんです。
でも、あれが難しいんです。
その点の位置が少しでもズレると
老けたり、幼くなったりするんですよ。
ーー 点ふたつで
あの神田さんに「難しい」と言わせるなんて‥‥。
神田 (笑)
プーさんはずっと描き手が
変えないための努力、
プーさんであり続けるための努力をし続けてるんです。
ーー 変えないことが魅力であり、
そのための努力があるんですね。
まさに、このファイルは努力の結晶ですね。
神田 あとはお腹の張り出し具合とかの
ボリューム感がつかみにくいんです。
綿が入ってるから。
ーー あ、そうか。
プーさんってくまじゃなくて、
くまのぬいぐるみなんですもんね、
神田 赤いシャツを着ていますが、
シャツの前が少しめくれ上がってますよね。
お腹が出ているせいで
シャツがめくれ上がってるんです。
ちなみに、このシャツは、
ディズニーがアニメーション化するにあたって
付け足した要素なんです。
ーー あ、そうなんですか?!
ということは、もとは裸ん坊?
神田 そうなんです。
元はぬいぐるみですからね。
このあたりはウォルト・ディズニーならではの
エッセンスなんじゃないかな、と思います。
ーー もう今となっては
着ていないほうが不思議なくらいですもんね。
神田 あ、そうだこれも言っておかないと。
ーー なんですなんです?
神田 あと、今回のカバー「プーさんの森」では、
100エーカーの森の地図がモチーフになってますが、
実を言うと、このシーンイラストって
ちゃんとしたものが存在してなかったんです。
つまり、この地図の商品を出すことはできなかった。
で、日本でこれをキッチリとイラストに起こしたんです。
ーー 日本で、ということは、
神田さんが指揮を取って監修したんですね。
そのおかげでこのカバーがある
といっても過言じゃないかも。
神田 だから、僕らもほぼ日さんが
このイラストを選んだと知って
「さすが、お目が高い」と思いました(笑)。
ーー なんか照れますね(笑)。
神田 でも、この地図にはプーさんの「らしさ」が
すごく出ていると思うんです。
個人的にすごく好きなのが、
自分の家の表札に
「ミスターサンダース(MR.SANDERS)」って
書いてあるじゃないですか。
ーー 誰もその名前で読んでくれないんですよね。
神田 あぁいうのすごく好きですね。
ほかにもラビットハウスや
はちみつのスペルを間違ったり※っていうのも
プーさんの最大の特徴だと思います。
※はちみつ(honey)をhunny、
 ハウス(house)をhowse、
 sを逆に書いたりしている。

ーー その間違いを探すのは、
このカバーのひとつの楽しみでもありますよね。
神田 ほんとそう思います。
やっぱりプーさんの世界観っていうのは
独自のものですし、
とっても完成されているものです。
ぜひ、これらのカバーで楽しんでもらいたいですね。
(おわり)
 
 
ほぼ日手帳2012のページ