予告♯2 はじめましての作家さん紹介 ひがし ちかさん

2014年の「扇子デザイナー」さんのなかには、
今回はじめて「ほぼ日」とごいっしょするかたが
おふたりいらっしゃいます。

販売開始までの予告編で、そのおふたりをご紹介。
まずはこちら、
日傘作家の、ひがしちかさんです。



ひがしちかさんと「ほぼ日」が知り合ったのは、
2013年の「HAVE A NICE T!」がきっかけでした。
ひがしさんは、娘さんの、いろはちゃんといっしょに
Tシャツのモデルになってくださったのです。



このとき、ひがしさんの作品に一目惚れしたわれわれは、
「日傘」と同じように夏を涼しくするアイテム、
「扇子」のデザインをお願いしたのでした。

▲ひがしさんの扇子『Swan』。


完成した扇子のお話をうかがいに、
ほぼ日の扇子チームは
「Coci la elle」のアトリエストアにおじゃましました。



インタビューは、ストア奥にあるアトリエのスペースで。


扇子について
ひと通りのお話が終わったところで、
ふと、ほぼ日の乗組員がたずねました。

「なぜ、日傘の作家になろうと思ったんですか?」

「それは‥‥どこから話せばいいのかしら‥‥」
すこし考えてからひがしさんは、
日傘作家になるまでのことを
ゆっくりと、言葉をさがしながら話してくれました。

その時間が、とても、とてもすばらしかったので、
ここに掲載させていただきます。
よろしければお読みください。

「ほぼ日のいい扇子」は、
たとえばこんな作家さんによってつくられています。



ひがし ‥‥私、美術教育は何も受けてないんですけど、
ずっと絵は好きで描いているんですね。
父親が趣味で
彫刻とか水墨画とか油絵とかしてたんです。
いなかの整備工で板金塗装とかしてた父が、
休みの日になると
「馬の絵を描きに行こう」
「海に行って絵を描こう」って、
私をつれて出かけてくれるんです。
それがすごくたのしくて、絵が大好きになりました。
ほぼ日 いいお父さんですね。
ひがし でも美大というものがあることを知らなかったので、
「ファッションデザイナーになりたい」
と思って長崎から上京したんです。
ほぼ日 お洋服の学校に。
ひがし はい、文化服装学院に。
‥‥なのに、なんか私、
お洋服を作る仕事には
とてもついていけないと思ってしまって‥‥。
なんというか‥‥世の中にはモノがすごくあって、
洋服のことは好きなのに、
どんどん次のものが出てきて、
セールになったりするのがすごい悲しくて。
ほぼ日 ああ‥‥。
ひがし でも、
「欲しい」とか、「素敵だな」とか、
「身につけたい」とか、
そういう気持ちはどうしてもあるんですね。
作っちゃいけない、でもやっぱり何かを作りたい‥‥。
そうやって葛藤している時間が、長くありました。
ほぼ日 なるほど。
ひがし そうこうしているうちに、
結婚しないまま妊娠して、
子どもが生まれてシングルマザーになって、
もうほんと、ほんとうにどうしよう?
っていう人生の岐路に立ったんです。

ハローワークに行ってもぜんぶ落っこちるし。
‥‥情けない話なんですけど、
7社受けてぜんぶ落っこちたんですよ。
それで派遣のバイトをしました。
でも、こんな私だとやっぱりうまくいかなくて、
すぐクビになっちゃうんです。
ほぼ日 クビに‥‥なぜですか?
ひがし 会社の受付をしていたんですけど、
受付しながら絵を描いていて怒られたり‥‥
寝ているのがバレたり‥‥。


ほぼ日 ‥‥会社の受付で。
ひがし 恥ずかしいんですけど、ほんとなんです(笑)。
私はこんなにも、
社会人になるのが難しい人なんだと落ち込みました。
落ち込む日々が続きました。
でも‥‥子どもを育てなくちゃいけない。
落ち込んでる場合じゃない。
ある日、吹っ切れたように、
腹をくくろうと思いました。
「履歴書は二度と書かない」って決めたんです。
ほぼ日 それはつまり、自分でやろうという決意ですね。
ひがし 好きなことをやろうと決めました。
捨てるものは何もないんだから、
好きなことをやろう。

‥‥と、決めたのはいいけど何したらいいんだろう?

文化服装学院に行ってたので、ミシンは使える。
そして、絵を描くのが好き。
私の切り札はこのふたつ。
このふたつで何ができるだろう‥‥?

「布のもので絵が描けて、布のもので絵が描けて、
 布のもので絵が描けて、布のもので絵が描けて‥‥」

毎日毎日ずっと考えてました。


ほぼ日 ハンカチとか、靴下とか、カーテンとか‥‥。
しらみつぶしに、布のアイテムを考え続けた。
ひがし ええ。
ある日、「日傘」を思いついたとき、
チラッと光が見えたんです。
日傘の白い布に自分が描いたり刺繍したり‥‥
そういうイメージがポッと出てきて、
「これかもしれない!」って。
そこからはもう、すがるような思いで、
まずは日傘のことを何にも知らないから
ひとつ買ってきて分解したり、
骨はどこで買えばいいのか、
ハンドルはどこで売ってるのか、
「タウンページ」で調べました。
ほぼ日 「タウンページ」?
ネットで検索はしなかったんですか。
ひがし 私、それまでパソコンを持ったことがなかったんです。
ほぼ日 ‥‥それは何年前ですか?
ひがし 3年‥‥いや、4年前くらい。
ほぼ日 最近ですね‥‥すごいなぁ。
ひがし 自分で何かをやろうと思ったときには、
パソコンっていうのは
すごく便利だっていうことに気が付きました(笑)。
いまごろなんです、恥ずかしい話です。
ほぼ日 ということは、
この3、4年で今の状況に‥‥。
ジェットコースターに乗ってるような
日々だったのではないでしょうか。
ひがし そうなんですよ。
もう、もう、「やる」って決めたら、
「やる」しかなくて。
ほぼ日 はい。
ひがし 一歩踏み出したら次の一歩がという感じで
おかげさまでお仕事が続きました。
最初は、母子寮にいたんです。
次はお風呂なしの雑居ビルに移って、
このアトリエに子どもと住んでた時期もありました。
いま住居は別な場所です。
子どもは育ってますし、
なんとか食べていけるようには‥‥。
ほぼ日 すごい、すばらしいです。
ひがし 友だちが応援してくれてたんです。
いろは(娘さんの名前)のために、
私を元気づけるために、応援してくれてたんです。



ほぼ日 すごいなぁ‥‥。
ひがし そんな、必死すぎて恥ずかしい話です。
ほぼ日 いや、すばらしいです。
今はこうして‥‥お仲間は何人いらっしゃるんですか?
ひがし 仲間は、今、4人です。
私を入れて5人。
ほぼ日 5人のチームになったんですね。
この先、こうしていきたいっていう
目標のようなものはありますか?
ひがし それは‥‥仲間がみんな幸せになるという‥‥。
あの‥‥糸井さんの事務所に行ったとき、
私、衝撃を受けたんです。
ほぼ日 え? うちの事務所で?
ひがし はい。なんていうんでしょう‥‥
生きることと働くことって、
やっぱりすっごい繋がっているから。
‥‥私、
「履歴書をもう書かない」と決めたときに、
自分の人生を‥‥その‥‥。
‥‥‥‥。
ほぼ日 ‥‥‥‥‥‥。
ひがし ‥‥ごめんなさい、泣きそう(笑)。
ほぼ日 大丈夫です(笑)。
ひがし 自分の人生を愛したいなって思ったんです。
‥‥そう。
でも、生きている時間で仕事をする時間って、
そうとう長いっていうのがあって。
会社に落っこちていたころは、
仕事の時間が、ただの空白になってるのが、
もうすっごく辛くて、意味がわからなくて。
でも、お母さんでいなきゃっていうのもあって。
自分の欲望でモノを作ったりするのは
違うと思ったり‥‥。
‥‥なんの話でしたっけ‥‥すみません(笑)。
ほぼ日 ぜんぜん大丈夫です。
ひがし すみません、とりとめがないんです。
何を言いたかったのかな‥‥。
そう、
糸井さんの会社には夢があるなぁと思ったんです。
来た人にお食事が出せるって、すごい。
(※給食の日にお呼びしました)
お客さんを呼んで、
食事があって、食器があって、
その場所があるってすごいことだ!
って思ったんですよ。



そのときでした。

ほぼ日のことを褒めてくださったひがしさんに、
「いや、ひがしさんこそすごいですよ。
 生きる時間と仕事をする時間が、
 ここではすてきに繋がっています」
ということを言おうとした、そのとき、
アトリエストアの扉がぱーんと開いて、
いろはちゃん(小2)が、学校から帰ってきました。


▲いろはちゃんの元気さに見入ってしまい、撮れた写真はこの1枚でした。

いろは こんにちはーーーーーーっ!!
ほぼ日 わぁ、こんにちは。
ひがし おかえり(笑)。
いろは こんにちはーーーーーーっ!!
ほぼ日 大きな声だねぇ(笑)。
いろは だってママが、あいさつするときは、
「大きな声で」って言ったんだよ!
ほぼ日 そう。
いろは こんにちはーーーーーーっ!!
ほぼ日 こんにちは(笑)。
いろは ママ、おじいちゃんち、行ってきていい?
ひがし いいよ。宿題は?
いろは 宿題もっていくよ、ちゃんと。
いってきまーーーーす!(外に出て行く)
ひがし いってらっしゃい。
ほぼ日 ‥‥おじいちゃんのおうちが近くに?
ひがし 親戚じゃないんです。
すぐお隣の、
おじいちゃん・おばあちゃんのお宅に
遊びに行くんですよ。
ほぼ日 へええーー、お友達ですね(笑)。
ひがし お友達なんです(笑)。毎日行くんですよ。
おしゃべりしたり、
いろいろ遊んでるみたいです。
ほぼ日 そうですか‥‥。

ひがしさん、
きょうはありがとうございました。
ひがし こちらこそです。
なんかすみません、自分の話をこんなに‥‥。
ほぼ日 いえ。
ほんとうに、ありがとうございました。


考え続け、走り続けて‥‥
ひがしちかさんが手に入れたたしかな「今」を、
インタビューの最後に
見せていただいたように思いました。

「ほぼ日のいい扇子」は、
たとえばこんな作家さんによってつくられています。



【Coci la elle アトリエストア】
 住所:東京都江東区三好2-3-2-1F
 アクセス:半蔵門線・大江戸線清澄白河駅より徒歩5分


2014-04-17-THU
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