ことしは、最初から様子がちがいました。
有明海の漁協から「海大臣」を仕入れる
築地・林屋海苔店の相沢さんが、
年明けくらいから、ずいぶん興奮していたのです。
まだ入札の前だというのに、
生産地の情報をつかんでいた相沢さんは、
「ことしは、いいですよ!」と、
お目にかかるたびに伝えてくれました。

その前にあった情報は
「海苔が全体的に、不作」というものでした。
昨年が「はずれ年」で、
海大臣レベルの海苔を探すのに
相沢さんがほんとうに苦労したことを覚えていますから、
私たちもちょっと覚悟していたなか、そんなニュース!
「たしかに不作なんです。
けれども、有明海では、
量は多くはないですが、
うまい海苔が穫れているんですよ」

相沢さんは、海大臣の候補がすべて揃う前から、
買い付けた海苔をひとつ、ふたつ、
足しげく持ってきてくださって、
「どうです?」と、ニコニコ。
私たちも、おそるおそる試食をして、びっくり。
それは、10年前、はじめて「海大臣」となる海苔を
頂いたときの感動に似ていました。
厚み、歯ごたえ、香り、
先味・中味・後味、どれもいい。
そして食べる海苔それぞれに個性があります。
「見た目ではなく、味で選んだ」海苔ですから、
すこし曇りがあったり、小穴が多かったりするところも、
初代海大臣を彷彿とさせました。
私たちの驚く顔を見て、相沢さんはさらにニコニコ、
「もっとたくさん、うまい海苔を仕入れますから!」。
私たちは、すべての候補が揃うのを待ちました。

4月、選考会の当日。
相沢さんは、予告していた数よりも
ずっと多くの海苔を持ってやって来ました。
それぞれのパッケージを開けてぱりんと4つに割ると、
焼き立てのこうばしい香りと、
海から吹く風のような匂いがしてきます。
食べる前から「これはいいぞ!」という予感。
このために九州から来てくださった
相沢さんの仲間である弟子丸さんや国崎さんも、
「これほど質の高い海苔が
これだけの種類、穫れることは、
この何年もなかったことですよ。
しかも、いまここに集まっている海苔は、
ことしの最高峰だと言ってもいいくらいです」と。

そうして選考会で候補に上がった海苔。
まず「そのまま」試食をします。
ひととおり食べてから、もういちど食べて、
さらに、お寿司やさんの「はしぐち」さんが
持ってきてくださった酢飯を手巻きにして頂きます。
しょうゆだけつけてみたり、わさびをのせてみたり、
かんぴょうやたくわんをのせてみたり‥‥
そうして食べ比べた味の印象を、
それぞれが選考メモにまとめました。

その後、合評。
こんな選考会は久しぶりでした。
全員がニッコニコして、
「どうしよう、選べないよ‥‥!」。
ほとんどが海大臣にふさわしい味だと言うのです。
それでも、話を詰めていくなかで、
ほんのちょっとの味の濃淡であるとか、
香り、ごはんを巻いたときのちがいや驚き、
歯ごたえ、食べているうちに変化する感じなど、
ちゃんとそれぞれに個性があることが
明確になってゆきました。
もう全部、合格でもいいのかもしれない、
と思いましたが、やっぱり比べてみると
「ほんのちょっとだけ惜しい」、
そんな海苔も、あるように思いました。
おそらく、単品で食べたら、そんなふうには
感じないだろうくらい、おいしいのですけれど、
その数点をあえて海大臣から外すことで、
「海苔ってこんなにおいしいんだ!」
というメッセージがくっきりきわだつことは、
あきらかでした。

そうして候補に残った12点のなかかから、
小穴がより多くて塩味がうすい、
アッサリ目の海苔2点に
「しお」加工をほどこすことにしました。
ちなみにこの「小穴」は、
海苔の繊維がやわらかくからまっていることで、
乾燥させたときに互いを引っ張り合ってできるもの。
「小穴があるから、むしろいい」くらいなのですが、
しおをまぶすときに、
その小穴がちょうどいい具合になじむのでした。

ということで、総計12点が揃いました。
数が少なければ「みぎ」「ひだり」「まんなか」とか、
「東」「西」「南」「北」という名前をつけてきた
海大臣シリーズですが、
12という数は初めてです。
そこで、時計のように、
1から12の数をあてることにしました。
「大字」(だいじ)という、
お札に印刷されている漢数字を使っていますから
ちょっと読みづらいのですけれど、

です。

「壱が、やっぱり、いちばんおいしいの?」
‥‥なんてことはありません。
海苔の穫れた海域のちがいで
「壱」から「漆」までの7つと
「捌」から「拾」までの3つは
同じグループということができますけれど、
そのなかは、ばらばらです。
また、それぞれの海苔は仕入れの数がちがいますから、
「早く売り切れた海苔が、きっと、おいしかったんだ」
ということも、ありませんよ。

それぞれの海苔の説明は、
選考会での感想・評価メモをもとに、
全員の声をなるべくまんべんなくとりこみつつ、
魅力を伝えるよう努力をしました。
それでも、数が多すぎて選べない!
という方がいらっしゃったら、ごめんなさい。
えいや、で選んでいただいても大丈夫ですけれど、
ねんのため、その選び方のヒントになることを、
別項目でまとめましたので、お読みくださいね。

そして、販売方法ですが、今年も
夏・冬の2期に分けて販売します。
例年ですと夏と冬は別々の海苔を紹介していますが、
今年は、同じ海苔を2期に分けます。
夏のぶんは焼いたそばから発送し、
残りの海苔は、「そろそろなくなったころかな?」
というときまで焼かずに、
林屋海苔店さんの専用冷蔵庫で保存しておきます。
夏に食べた海苔が気に入ったら、冬にもういちど。
あるいは夏に食べなかった海苔を、冬に。
そんなふうにお考えいただけたらと思います。

──ああ、なんだかクドクド書いちゃって、すみません。
お伝えできることはすべてお伝えしておきたくて、
こんなに長くなりました。

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