なかざと たき

1965年生まれ。
1988年「隆太窯」にて、
父である中里隆氏のもとでやきものを始める。
柿傳ギャラリー(新宿)、伊勢丹(新宿)、
万葉洞(銀座)などで個展多数。
隆太窯の公式サイト



2011年、3月末に、
仙台で個展をすることになっていたんですね。
準備をして、梱包が終わって、
週明けに発送をしよう、と思っていたとき、
あの震災が起きました。

あの時は──、自然の恐ろしさというか
人間の非力さというか、そういうのを感じて。
しばらく落ち込んでいました。
しばらく、やきものじゃ食えない、
やきものつくってる場合じゃないって、
叔父が趣味で畑をやってるんで
そこから耕運機を借りてきて。
畑をつくりはじめたんです。
春はそんなに個展も入っていなかったし、と。
けれども、ダメですね、素人がいくらやってもね。



その仙台の個展はいちど見送ったんですが、
「売る物がないから、すぐにでもやりたいです」
とお声掛けをいただき、5月に実現しました。
当時の仙台の街は、ほとんどの店が閉まってて
電気も点いてないような状態だったそうです。
お店のかたがおっしゃるには、
それがあまりにもいたたまれないから、
売るものはないけれども、
お店をあけて、とりあえず電気だけ点けて、
通る人があったらお茶だけでも出そうと。
そんなときに開いた個展でしたが、
お客さん、とても喜んでくれました。
ずーっと、ガスもない、水道もない、
みたいなところから、
やっと普通の生活に戻りはじめた頃で、
「やきものを見るとほっとしました」
とおっしゃってくださるかたもいて。



自分自身のつくるものへの変化ですか。
それは、ないんです。
注文があれば、なんでもつくります、
という姿勢は変えていません。

前回の「ほぷらす」、
たくさんのかたのところに届いたようですね。
ぼくの大学のヨット部の後輩で、
直接は知らなかった、20くらい下の子が、
「ほぼ日」で器を買ってくれたと聞きました。
なんでも、ぼくが昔つくったヨット部用の、
もう欠け欠けで、とげとげしいどんぶりが
まだ、部室にあるらしくて(笑)、
それで食べたことがあります、
なんて言ってました。



今回は、前回はなかった「三島」を出します。
三島とは判押しで模様をつけたものに
白化粧を施したものです。





この飯わんと湯のみは、
従来のやり方で焼いたもの。
飯わんの判は木で作ったものですが、
湯のみの判は虹の松原の海岸で拾ってきた
貝殻でつけた模様です。



そしてこの飯わんは、還元冷却焼成することにより
素地が黒くなっています。
また判もシンプルな直線なので
従来の三島に比べモダンな感じになっています。
感じは違いますが技法的には三島なんですよ。

2012-03-13-TUE



父(中里隆さん)に弟子入りしたのは
大学を出てすぐ、22か3のときです。

子どもの頃から、父からは、
中学卒業したらやきものをやれって
言われていたんです。
どうせお前、勉強が嫌いだから、
高校行かなくていいぞと。
でもやっぱり、高校ぐらい行きたい。
それで高校に行って、
体育会でヨットをやったら、
高校生のヨット人口というのは少ないですから、
全国大会に行けるまでになったんですね。
その推薦でこんどは大学に入ることになりました。


▲隆太窯の工房にて。

高校のときは自分も
やきものはしないって言ってたんですけど、
大学に行って、だんだん気持ちが変わりました。
理由は、食事です。
体育会の合宿とかって、ひどい飯なんですよ。
プラスチックの器にご飯がついであって、
それに野菜炒めみたいなのがどかっとのっかってる。
それをかきこむようにして食べる。
‥‥2、3分で終わっちゃうんです。

それまで、毎日まいにち刺身という
家の飯がイヤだったはずなんですよ。
大人たちはだらだら酒飲んで、
毎日お客さんがいらして、
お弟子さんもいて、毎日が宴会だった。
それがたまらなく嫌だったはずなんだけど、
たまーにね、東京から夏休みに帰ってくると、
あれ? って思うんです。
刺身があって、酒があって、
器はプラスチックじゃない、やきもので。
‥‥ああ、いいなあと思って。


▲隆太窯の工房は天井がたいへん高く、
大きな窓から明るい光がさしこんでいました。
天井付近の壁には大きなスピーカーがあり、
クラシックがおだやかに響いてます。

大学卒業後、家にもどりました。
バブルの時代ですから、同級生はみな
いいところに就職していくなか、
僕は実家にもどって修業を始めました。
そのころ、遊びに来た友人が驚くんですよ、
みんな就職していい給料貰ってるときに
小遣い銭程度しか貰えなくて、
ずっと薪割りしてる僕を見て
「よくやってるなあ」って言われました。


▲ろくろ中。
手にしているコテは「牛べら」。
かたちが牛の舌に似ていることから、
そう呼ばれるようになったそうです。


修業を始めて1年ぐらいして、
すこし悩みが出ます。
お皿がやっとできるようになったくらいの時期です。
中里の家に生まれたからといって
やきものをやっていていいんだろうかと。
それで、ちょこっと家を飛び出すんですね。
けれど、結局、どこへ行っても
やきもの屋を覗いてしまう。
そうすると、みなさん、
父のことを知ってるわけです。
こうしていくら飛び出したところで、
結局どこ行っても中里の名前が付いてくる。
ならば、そんなことで悩んでもしょうがないと
思うようになりました。


▲敷地内にいろいろな種類の窯があります。

小さい頃から窯焚きは好きでした。
といっても、じゃがいも持ってって、
砂に埋めてゴハンにしよう、というような
“好き”だったんですけれど。

やきものと料理は、もちろん関係がありますよ。
たとえば魚を焼くも、やきものを焼くも、一緒です。
やきもの屋になるために必要な条件は
焼き魚をうまく焼けることと言ってもいい。

弟子が料理をするじゃないですか。
やきもの、揚げ物は熱いうちに出したいという
父の意向があるから、その場で焼いて出す、
その場で揚げて出す、
っていうようなことをするんですね。
あれも、感性があるんです。
余宮君はもうバツグンにうまかった。
こいつはやるなあというくらいにうまかったです。



魚が焼けないやつは、
もう、いっつも怒られているんですね。
「いちいち、いちいちひっくり返すな」って。
魚は、じーっと待って、こんがり焼け目が付くまで
動かしちゃいけないんです。
ひっくり返すタイミングを知るには、
音とか、香りとか、
そういう五感を働かせないとだめなんですよ。
それはやっぱりやきもの屋にとって
大事なことだと思うんですね、僕は。

やっぱりね、処理の仕方とか、焼き方だとか、
いろんな工程で、
あ、間違った、どうしよう、
っていうんじゃだめなんです。
ばしって一発で決めないと。


▲薪がおいてある建物の向こうに見えるのが
ギャラリーです。
そしてその奥に工房があります。


ふだん作っているものは、
90パーセント、食器です。
今回、出品するものは、
その、ふだんつくっているもののなかから、
「ほぼ日」のみなさんが選んでくださったものです。
刷毛目は、白化粧を刷毛でしゅっと引き、
濃淡が出るもので、その模様が面白い。
粉引も同じ白化粧なんですけども、
液にずぶっと浸けるんですね。
釉薬や、焼き方、
炎の当たり方のちがいで色が微妙に異ったり、
釉薬をわざと薄くして
すこしざらっとした感じを出したり。
あるいは絵唐津といって、
模様を筆で描いたものもあります。
そんなところも楽しんでいただければと思います。


▲隆太窯の敷地内にある
中里太亀さんと隆さんのギャラリー。


使っている土、ですか。
このあたりの山から採ってきた土を
大量にストックして使っています。
じつはね、唐津の人は、こういう土は
あまり使わないんですよ。
鉄分が少なく砂気の多い土を使います。
けれどもそれはじつは、ひきにくいんですね。
僕は、粉引とか焼き締め(南蛮)は、
ストックしている、あたりの山の土を使います。
ふるいにかけ、撹拌していったん泥水にして、
パイプで吸い上げ、フィルタープレスを通して、
土練機にかけて‥‥というふうに加工して使っていますが
そんなふうに機械を使う以外にも、
山から採ってきたものを乾かさずに裏ごしして
手で練って使うこともありますよ。
そういうものは、ほんのちょっとですけれど。


▲これが「フィルタープレス」。
道歩さん(左)は、
中里さん(右)にたくさん質問されてました。


窯もいくつかあります。
ガス窯、電気窯もあるし、
登り窯もあります。
それはちょっと変則的な窯で、
登り窯の後ろに穴窯がくっ付いてるようなかたちで、
後ろの方で焼き締めを焼くんです。
で、手前、3つが釉薬ものを焼く。
自分で設計した、そんな窯もあります。



この、敷地に川が流れているような
窯の環境がいいですねと、
みなさんおっしゃられますね。
夏は暑く、冬は寒いけれど、
この環境にすっかり慣れているので、
夏に冷房の入ったところに半袖でいると
寒く感じてしまうくらいですよ。


▲敷地の中央を流れる小川。

さあ──魚をさばきましょうか。
僕は今は料理はそんなにしないけれど、
魚をさばくくらいは自分でやります。
今日はみなさんに食べていただきたい。
というか、嫌でも食べてもらわな。




▲中里家で夕飯をいただくことに。
木のぬくもりを感じる落ち着いたおうちです。



▲中里太亀さんのうつわで、
太亀さんがさばいたおさしみをいただきました。
ありがとうございました!


2011-02-23-WED
写真:大江弘之 + ほぼ日刊イトイ新聞 

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