三浦史朗さんプロフィール 「わたしのおはし」ができるまで。
             三角屋・三浦史朗×糸井重里

「ほぼ日」が「お箸」をつくります。
毎日の食卓に使うためのお箸。
いつでもお弁当といっしょに
持って行くことができるお箸。
使っているうちに、どんどん愛着がわくお箸。
「これでいいかな」じゃなくて、
「これがいい!」というお箸です。
1年ほどかけて開発したこのお箸、
第一弾の発売を前に、
プロデューサーをつとめてくださった
京都・三角屋の三浦史朗さんと、話しました。
その4 お尻叩いてでも、喧嘩してでも。 その3 茶道具の匠と組みました。 その2 「桐の箱」が意味するもの。 その1 なぜ糸井重里は三浦さんに箸づくりを頼んだのか。2013-08-28-WED
その1 なぜ糸井重里は三角屋に箸づくりを頼んだのか。
糸井 以前、ぼくはお世話になったかたに、
お箸を配ったことがあるんです。
たしか三浦さんにも──。
三浦 はい、いただきました。
糸井 それは「青黒檀」という木を削ってつくった、
江戸伝統の箸でした。
いまも自分で使っていて、気に入っているんですが、
いっぽうで、「ほぼ日でお箸は作らないんですか?」
と訊かれたことがあったんです。
その時、「それは、あるな」と思ったんですね。
その人は「ほぼ日手帳」のように、
愛着という部分でお箸ができないだろうか、
と言ってくれたんですよ。
三浦 なるほど。
糸井 考えてみると、お弁当が流行っていたり、
日常の食事を大事にしようっていう気持ちが
みんなにあるんだけれど、
いざお箸を探すと、観光旅行のコースみたいな、
「これでいいんじゃないですか」
というところに収まっていますよね。
それよりも「これがいいんだ!」って、
使ってるうちにどんどん思えてくるような箸、
ほんとうに気に入る箸って、
どんなもんだろうと考えたときに、
先ほどの青黒檀じゃないけれど、
素材ってすごく重要だぞと。
ならばまずは知識のある人に相談したい。
そこで三浦さんにお声掛けさせていただいたんです。
三浦さんは、お箸を作るというのは、
職業ではないのですけれど。
三浦 もちろん、ないですね。
つくっているのは、家ですからね。
糸井 僕が三浦さんに頼んだ意図っていうのは、
単純にこういうことなんですよ。
家、日本建築、とくに数寄屋は、茶道と同じなんです。
お茶の道と、家をつくるっていうことは、じつは同じ。
この家にどの掛軸が合うだろうとか、
この家の庭はどうつくるべきかとか、
この柱はどうなんだろうかっていうことを、
教養とともに提案しないと、
京都では通用しないんですよね。
少なくとも「この書ですね」とか、
「この花ですね」みたいなことを理解していなければ、
三浦さんは生きて来られなかったはずなんです。
工業製品としてだとか、機能で選んでも、
「その心は?」みたいなところがいつもあるわけで、
「その心は、こうです」
とちゃんと言えるだけの歴史とか知識とかを
持ってるということが大事なんです。
それこそ人間国宝の先生が
「こうしたいんだけど」って言った時に。
「それはどういうことですか」
って聞いてはなりませんから。
三浦 はい(笑)。
糸井 何でもかんでも通じない人は
生きていけないんです、あの世界で。
たとえ、ごまかしごまかしでも。
三浦 そうですね。
糸井 だからお茶の先生から、料亭から、人間国宝から、
つまりお施主さんに呼ばれた時に、
大丈夫ですっていうものを
提案しないといけないっていうベースがある。
そんな三浦さんですから、ぼくたちは、
まず全部大丈夫っていうふうに決めてから、
こちらの意見をまっすぐ伝えればいい。
そうして意見を交換していくと、
新しい本当の伝統が作れるはずですから、
そこにお客さんに来てもらえばいい。
そういう気持ちがあって、
三浦さんにお声掛けをしたんです。
三浦 ありがとうございます。
僕は僕で、これはどういう意図なのか、
どういう思いがあるのかな、ということを、
自分たちなりに整理するのに時間をかけました。
あえて箸は専門外である僕に声を掛けていただいた、
ならばどういうスタートをすればいいかな、と、
僕と三角屋の清水と二人でだいぶ議論をしていたんですね。
糸井 ああ、面白いですね。
三浦 そういうふうな議論をしてる中で、
朝比奈に相談をしたら、もう即答で、
「箸は竹で、箱は桐やろ」と。
糸井 はっはっはっ、そう言ったんですね?
三浦 「それしかないやろ」って。
さんざん悩んでいたのがあっという間に答えが出ちゃって、
それを僕と清水は茫然と聞いていました。
たしかによくわかるんです。
素材の特性を含めて、よくよくわかる。
納得しました。
そこでその答えをもとに、
次にどうやって商品化へアプローチするかを
考えはじめました。
糸井 ぼくはぼくで、三浦さんからの提案で
最初にしびれたのは、そこなんです。
「箱があることが前提」だったことなんですよ。
三浦さんが箱っていうのを
セットで考えられたところにしびれたんです。
── 「箸は竹、箱は桐」。
三浦 そうでしたか。
朝比奈に相談する前に、そこまでは、
僕と清水で組立てていました。
糸井 やっぱり「当然」のように考えているわけですよね。
そうしなかったら、大切にするっていう意識も、
「わたしの」っていう嬉しさも、弱くなっちゃうから。
三浦 そうなんですよ。
糸井 そこにしびれました。
三浦 箱があるのは「エコ」からの発想ではないんですよ。
糸井 理由から来てるんじゃないってことですね。
三浦 初めから言ってたことは、これをやっぱり持ち出す時に、
ちゃんと後ろポッケにピッと挿して歩けるくらい、
スマートじゃないと、持たないよねと。
この姿じゃないと、好きな箸でも、持ち出さない。
糸井 なるほどね。そうですよね。
箸だけを持って歩く人はいない。
三浦さんは、ぼくらが箸を考えた時よりも、
この箱を出したことで、動かしたんですよ。
三浦さんって「人に頼まれた以上は」って、
はっちゃけるんですよね。
しかも桐っていうところの品質感と、
触り心地と、磁石という仕組み。
いいねえって思いながら、
すぐにぼくが言ったのは、
「高くないか?」(笑)でしたね。
もちろんわかっててやってることだから、
受け入れたいと思ったのが前提ですが。
(次回、箱の素材「桐」の話につづきます。)
2013-08-28-WED
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