カレースター 水野仁輔さん meets 土楽 福森道歩さんカレースター 水野仁輔さん meets 土楽 福森道歩さん

カレー研究家の水野仁輔さんと、
「ほんとにだいじなカレー皿」の作者である
土楽の福森道歩さん。
「ほぼ日」でカレーといえば‥‥のふたりですが、
じつはちゃんと話したことが、なかったのです。
ふだんからカレー皿を使ってくださっている、
という水野さんをお招きして、
道歩さんといっしょに、それぞれが料理をつくり、
ふたりで食べながら、おしゃべりをしました。
もちろん使うお皿は、道歩さんのカレー皿です。
「器の色に合わせて、カレーを考えてきました」
という水野さんは、じっくりと、
自作のスパイスを使ったカレー3種。
道歩さんは驚異の手早さで、カレーと副菜を8種。
料理の色と器のことから、カレー文化のこと、
日本のカレーの原点についてなど、
いろいろな話題がとびかいましたよ。

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とじる

その4カレーライスのルーツって?

──
ところで、世界の他の地域の人は、
カレーをどんなお皿で食べているんですか。
水野
基本的にはステンレスです。
道歩
ちっちゃいおわんみたいなのにカレーを入れて、
大きいステンレスのお盆にナンやチャパティ、
ごはんといっしょにのせて?
水野
そうそう。そんな感じですよ。
インドの南部のほうでは、
バナナの葉っぱをひいてその上に、
というのも、今でもあります。
──
イギリスはどうですか?
水野
イギリスは、もう今やカレーがないんです。
インド料理はあって、それはインドと一緒でステンレス。
でも、日本に入ってきたはずの「カレーライス」の原型は
もう失われているんです。
道歩
日本みたいにカレーが
独自のものとして根付いている国ってあるんですか?
水野
ないですよ。
カレーカルチャーがあるのは日本だけなんです。
道歩
そうなんですね。
──
カレーライスもあればカレーうどんやそばもありますし、
カツカレーみたいに変化したりもするし、
スパゲッティにかけたりもするし、
変幻自在ですね。
カレー味のスナックだっていっぱいある。
──
そんなの世界の他の国には
どこにもないんですよ。
インドにあるのはインド料理だし、
ネパールにあるのはネパール料理で、
スリランカはスリランカ料理、
タイはタイ料理だから、カレーじゃないですよね。
日本だけにカレー文化がある。
ほんとに不思議だと思うんだけれど。
ちなみに日本には150年前に
イギリスから来ているんです。
でも今や、おおもとのイギリスには、
もうそのカレーがない。
日本に伝えたあとに自分たちは捨てちゃったというか、
なくしちゃった。
──
最近、戦前の上海に関する本を読んだんですけれど、
イギリス租界のイギリス人の邸宅では、
夕食に、主食のひとつとして
カレーライスが出た、という記述があったんですが、
本国にはもうないんですね。
水野さん、イギリスまで行って調べたんでしたね。
水野
はい、それをまとめたものが、
8月頭に本になります。
『まぼろしの黒船カレーを追え』という1冊に
まとめたんです。
道歩
面白そう!
水野
ほんとに面白いと思いますよ。
今まで誰も疑問を持たなかったし、
誰も調べなかったことだから。
自分たちのカレーのルーツがイギリスから来てるのに、
イギリスのカレーがどういうカレーだったのかは
誰も知らないんですよ、日本人はだれも。
道歩
こんなにカレー食べてるのにね。
水野
なんか、お父さんがどこにいるのか、
誰なのか分かんないみたいな。
でもおじいちゃんのことは知ってるんですよ。
おじいちゃんはインド料理だから。
そのおじいちゃんがイギリスに行って、
イギリスのカレーが日本に来てる。
そしておじいちゃんは、直接、
もう日本にも来てるから、
みんなおじいちゃんのことは良く知ってるんだけど、
肝心のお父さんのことは誰も知らない。
道歩
なるほど、お父さん。
──
インド料理とカレーは、もう別物として進化してると。
水野
そうですね。
道歩
結局‥‥それは見つかったんですか?
水野
最終的にはね、見つかったんです。アイルランドで。
道歩
えーっ。
水野
もうイギリスにはなかった。
消えてなくなってたけど、アイルランドにはあって。
道歩
行って「なかった」という話じゃなかったんですね。
水野
そうなんですよ。行って「なかった」んです、最初。
3ヵ月行って調べたけれど見つからなくて、
いったん帰ってきて、ダメだと思ってたら、
アイルランドにあるかもしれないという情報が入り、
行ったら、あったんですよ、ほんとに。
道歩
あったんだ!
水野
そう、あったんです。
道歩
面白い、カレー探し。
それが本に載っているわけですね。
たのしみです。
──
ちょっとずれますけど、中国や韓国の方たちは、
日本に来ると昔の古いもの、
渡来文化が残っていることを喜ばれるんですって。
もう母国ではなくなってるものが、みんな日本にある。
正倉院とか、建築様式とか、
全て日本には残存しているから
「よくとっておいてくれた」
っていう気持ちになるらしくって。
“文化の博物館”じゃないですけれど、
そういうなんかこう“とっておく機能”に
日本は長けているのかもしれませんね。
東の行き止まりのこの場所で。
道歩
水野さん、インド料理も追求なさっていますよね。
毎年インドに行って勉強して。
インドのインド料理って、
今、どんなふうになってるんですか? 先端は。
水野
先端はね、‥‥ロンドンのモノマネなんですよ。
道歩
ああ! そうでしたか。
──
一昨年、ロンドンに行った時に、
水野さんと、お友達のパリのジャーナリスト、
川村明子さんからおすすめいただいて、トリシュナというインド料理店に行ったんです。
でね、ビックリしちゃって。
道歩
なになになに?
──
つまり、和食でもフレンチでもイタリアンでも、
先端って素材をどう活用するか、なんですよ、ほとんど。
どれだけギリギリの火加減や塩加減で
素材を活かすかっていうことに、
力をそそいでるのが
最先端の料理のひとつの流れなんです。
インド料理もそうなんだとわかったのが、
このお店のおかげでした。
もう実に巧妙に火を入れたサーモンを
スパイスで調味するわけです。
もしスパイスじゃなくお醤油と酒とかだったら
日本料理になりそうだったし、
ホワイトソースにしたらフレンチになるし、
オリーブオイルならイタリアンやスパニッシュになる。
それだけの違いなのに、完璧にインド料理だし、
ものすごい洗練されてて。
しかもとんでもなくおいしかった。
水野
おいしいですよね、トリシュナ。
──
めっちゃウマい。だからびっくりしたんですよ。
で、それは、ロンドン独自の進化なんだなと思ったんです。
水野
そう、独自なんですよ。
ロンドンは、世界でいちばん
インド料理が進化してるんですよ。
で、今、インド本国が
ロンドンのモノマネをしはじめてる。
道歩
なるほど、そうなんですね。
こんど父(福森雅武さん)が、
ケンブリッジに窯をつくったので、
ときどき行くことになりそうですから、
ロンドンのインド料理も食べてみます。
きょうは、水野さんのカレーを
うちのカレー皿に盛っていただいて、
カレー皿の色がこれだけあるっていうことが、
料理と引き立て合うきっかけになっているとわかり、
とても嬉しかったです。
水野
ほんとにだいじなカレー皿を使うと、
料理をしているときの
“1人でがんばってる感”や虚しさがない。
そこがいいです、ほんとに。
いっしょに作っている感じがします。
道歩
あははは。
──
器を買う時、色を揃いで買っちゃったほうが、
統一感がとれていいのかなって思ってたんですけど、
こうしてバラバラでも楽しいんだっていうのが分かって、
それも良かったです。
水野
この3色は「統一感があるバラバラ」
だからいいんでしょうね。
道歩
基本は、一緒の空気がありますでしょう?
水野
カレー皿は、基本、道歩さんが
手ろくろで作られているんですよね。

土楽さんの工房でカレー皿をつくる道歩さん。

道歩
はい。いまは、土楽の職人たちも
手が慣れてきたので、幾人かで分担して、
わたしのつくった原型に忠実に
つくっているんですよ。
──
もっとカレー皿の色数を増やしてもいいのかも?
という気持ちになりました。
道歩
フードスタイリストの飯島奈美さんが、
カレー皿の形で、色をつけず、白っぽく、
白い釉薬をほどこしたものがあったら、
とおっしゃっていたので、
こんど試作をしてみようかと思っているんです。
──
お弟子さんたちのなかから、
このカレー皿をつくることができる手をもった人が
もっと出てくるといいですね。
道歩
もっともっと、作ることができる職人が
増えたらいいんですけれど、なかなか。
あんがい難しいことなんですよね。
この、匙がひっかかる立ち上がりの部分とか。
水野
手や指先の感覚ですよね。
道歩
そうなんです。手でグッて押し込むんですが‥‥
なかなかうまくできない人もいます。
水野
カレー食べさすしかないよ。
「ほら、ここでしょ」って。
道歩
そう、それで初めて気づく、
「あ、ほんまや」
「米がこぼれてまう」
「これアカンやろ」って。
水野
道歩さんが弟子にそれを伝える時に、
僕が土楽にカレーを作りに行きますよ。
道歩
すごい。じゃあ、今度、
若い子らに教えるときに、
ぜひお願いします。
──
じゃ、いつか水野さんと一緒に、土楽に行きましょう。
水野
匙の引っかかりを学ぶ会ですね。
道歩
来てくださいね。
水野
土楽、行きます!
道歩
ぜひぜひ、うちの若い衆を鍛えてやってください。
きょうは、ありがとうございました。
水野
こちらこそ、ありがとうございました。

(おわります)

2017-08-11-FRI