カレースター 水野仁輔さん meets 土楽 福森道歩さんカレースター 水野仁輔さん meets 土楽 福森道歩さん

カレー研究家の水野仁輔さんと、
「ほんとにだいじなカレー皿」の作者である
土楽の福森道歩さん。
「ほぼ日」でカレーといえば‥‥のふたりですが、
じつはちゃんと話したことが、なかったのです。
ふだんからカレー皿を使ってくださっている、
という水野さんをお招きして、
道歩さんといっしょに、それぞれが料理をつくり、
ふたりで食べながら、おしゃべりをしました。
もちろん使うお皿は、道歩さんのカレー皿です。
「器の色に合わせて、カレーを考えてきました」
という水野さんは、じっくりと、
自作のスパイスを使ったカレー3種。
道歩さんは驚異の手早さで、カレーと副菜を8種。
料理の色と器のことから、カレー文化のこと、
日本のカレーの原点についてなど、
いろいろな話題がとびかいましたよ。

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とじる

その3“カレーを食べてる感”のあるお皿。

道歩
カレーを食べるお皿って、
みんな白やったじゃないですか、昔。
水野
白か、白にブルーのプリント模様でしたね。

水野さんの思い出の「家のカレー皿」。

道歩
そして、オーバル(楕円)も多かったですよね。
オーバルはろくろではつくれませんから、
福森家には、ありませんでしたけれど。
うちは平たい深めの丸い皿に、
カレーをよそっていて、
とくに疑問も感じずにいたものですから、
糸井さんから「カレー皿をつくってほしい」
って言われた時に、驚いたんですよ。
「ええっ?」って。
うちに、カレー皿? って。
──
たまたま道歩さんが上京して、
別の打ち合わせをしているときに、
糸井が「カレー皿が欲しいんだ。できるかな?」って。
道歩
覚えています。
「みんなに『カレーってさぁ、なに使ってる?』
って聞いたらさ、結構みんな適当なんだよ」
っておっしゃって。

「ほんとにだいじなカレー皿」がうまれた経緯を
糸井重里が語りました。
(2009年の記事)

──
適当っていうか、しょうがないですよね、
専用のカレー皿ってものが、ないから。
ハンバーグを盛りつけるようなお皿と
カレーを盛りつけるお皿は同じでした。
水野
そう、カレー専用のお皿っていう概念が、
これまではなかったんですよ。
この形に辿り着いたのは、
なにかヒントがあったんですか。
道歩
ここ(リムの内側の部分)で、
匙にちゃんとカレーとごはんがのって、
はみだすことなくすくえなあかん、
ということは、最初から思っていました。
ごはん一粒でもすくえるようにしよう、
ごはんがこぼれたらあかん、と。
それを考えたとき、あの形は、
しぜんとできていたんです。

リムの内側のカーブは、手ろくろならではのかたち。底面からの立ち上がりが、まっすぐではなく、ほんのすこし内側に入っている。ろくろをまわしながら、すこしだけ指を押し込むようにして形成しているからだ。スプーンを動かし、底面から皿に沿って動かすと、スプーンに米粒ひとつや、わずかなソースまでもすくうことができる。

──
ただ、ちょっと面白かったのが、
道歩さんのいちばん最初のプロトタイプは、
うんと小さなものだったんですよ。
水野
えっ、どうして?
道歩
自分らが食べるカレーは、「〆」なんです。
量がうんと少ない。
──
土楽さんのところは、皆さん酒飲みなので、
最後の〆でご飯をちょっとだけ食べるそうなんです。
カレーだけを大盛りで、なんて食習慣がない。
だからごはん用の器は小さくていいんですよ。
でも、ぼくらはそれ1つで満腹になる大きさを
想定していたので、
作り直しをお願いしたんです。
道歩
びっくりしましたよ。
「そんなおっきいカレー、誰が食べんの?」
みたいな感じでした。
そもそも夜は食べないですし、カレーは。
水野
いつ食べるんですか?
道歩
カレーは昼ですね。
職人さんたちはたくさん食べるけれど、
おかわりしたらええやん、と。
自分がなにしろごはんを食べないほうなので、
ちっちゃくなってしまったんです。
水野
夜はお酒飲んじゃうから。なるほど。
道歩
しかもカレーとビールって合わないと思っていて。
どうですか?
水野
そうなんですよね。酒がね、全般、
あんまり合わないんですよ、
カレーライスって。
道歩
でしょう。
そんなわけで、
「もし自分が食べるとしたらこんなもんやな」
と思ってつくったカレー皿は、
かたちはよかったんですが、
大きさが全然足りなかったんです。
水野
大きくしてくださってよかった(笑)。
高さ、深さが実にちょうどいいんですよ。
今日、僕が持ってきた「家のカレー皿」は、
いわゆる平皿で、やっぱり冷めやすい。
そして、昔はわりとドロッとしたカレーだったけれど、
サラサラなやつを好きになってくると、
平たいお皿ではうまく盛りつけができないんです。
道歩
こぼれそうになりますよね。
水野
それで、フィンランドのアラビアの
シリアルボウルを、カレー皿にしてみたんですよ。
──
カイ・フランクがデザインした、
名作と言われる「Teema」というボウルですね。
いまもイッタラ社が販売をしています。
戦後のフィンランドで物が少ない時に、
重ねられる、壊れにくい、何にでも合う、
というコンセプトで作られたものだそうです。
水野
ファンクショナリズム(機能主義)って
やつですよね。
──
だから、カレーを入れたって、
全然いいと思うんですけれど。
道歩
でも水野さんには小さくないですか?
水野
それはね、おかわりすればいいから、って。
でも、これは、カレーを食べてる気分がね、
ちょっと、ないんです。
機能的には、たしかに平たいよりいいんですよ。
僕はしゃびしゃびカレーが好きだから、
こっちのほうがごはんとよく混ざるし、合ってる。
なんだけど、これだと“カレーを食べてる感”が
ものすごく低いんです。
シリアルボウルだから、そもそもが。
──
“カレーを食べてる感”っていうものが、
みんなの中に、共通して、ありますよね。
水野
そうなんです。
この深さじゃちょっとそれがない。
道歩さんのカレー皿は、
僕の初期の平皿とこのシリアルボウルの
まさに中間ですから、
ほんとに、高さ・深さがいいんですよ。
それにしても道歩さんの料理、
ほんとうにおいしいですね。
ほんとうに「カレーの恩返し」だけで?
道歩
そうです、恩返しだけ。
水野
恩返しのみ?
道歩
のみ、です。
水野
うーん! すごいなあ。
道歩
嬉しい。カレースターに褒めていただいた!

(つづきます。)

2017-08-10-THU