「ほんとにだいじなカレー皿」は、
「土楽」の四女で陶芸家の道歩さんが、
1年以上かけてつくりあげました。
試行錯誤のなかで、
おおきな割合を占めていたのが、陶土選びです。




「これだ! というかたちになるまで、
 半年以上かかったと思います。
 軽すぎても重すぎてもいけないですし、
 じょうぶでいながら、
 繊細でふくよかなラインを備えたかたちづくりは、
 一番苦労した部分かもしれないですね。」

道歩さんがかたちを決めるまでに作ったカレー皿は、
300枚をくだらないとか。
使う陶土を変え、ろくろのひきかたを変えて、
なんどもなんどもつくりなおして、
焼いてためしたそうです。



じょうぶな陶器。
それは、焼きしまり度合いで決まります。
とはいえ、硬く焼きしまる陶土でつくった器は、
やわらかな印象やふくよかなラインを出すことが
なかなかむずかしいそうです。
何種類もの陶土を試し、
その配合を試行錯誤するなかで、
最終的に4種類の陶土と
長石を配合することが決まりました。



「ほんとにだいじなカレー皿」につかう
4種類の陶土。
いずれも伊賀でとれた土です。



さらさらとした粒状の長石。
ガラス質を多く含み、これをつかった器は
しっかり焼きしまるそうです。



「土練機(どれんき)」とよばれる機械で
4種類の陶土と長石をあわせて練ります。


実は、「ほんとにだいじなカレー皿」を
よりじょうぶにするために、
道歩さんは量産がはじまり1ヵ月たったところで、
できあがった器をなしにして、
陶土をもう一度見直しています。
ろくろでつくった陶器は、
磁器や量産品の機械で作った器より、
デリケートにできています。
そこで、ろくろでつくった陶器に
なれていないかたにも
気軽に使っていただけるように、
さらにじょうぶにすることにしたのです。




「釉薬が服、絵や染め付けがアクセサリーだとすれば、
 陶土は人そのものです。それほどたいせつなものです。
 そもそも、そこに土があるから、窯元があるのです。
 そして、土であったり、釉薬であったり、窯であったりは、
 その土地、その土地で工夫され、
 長い歴史のなかで、多くの職人がたずさわり、
 改良してきました。」と道歩さん。

伊賀で陶芸がはじまったのは、
奈良時代、聖武天皇の頃だといわれています。
古代、琵琶湖の底だったという伊賀周辺は、
全国でも有数の良質な陶土が堆積していました。
耐熱性と保温性にすぐれた土は、
「世界中を探しても、
 このような粘土はおそらく伊賀にしかない」
と言われるほど。

とはいえ、ただ地面を掘り起こせば
よい陶土が出てくるとわけではありません。
器や土鍋、それぞれに最適な粘土層を見ぬき、
そこを掘りあてる選択眼が必要となります。
道歩さんは、信頼している地元の粘土屋さんを
ひんぱんに訪れ、
自分が求める陶土を、その場で吟味しています。
陶土の目利き、とでもいいますか、
道歩さんが陶土を選ぶときは、
おいしい魚や野菜を吟味するかのように、
「ああ、これはねばりがたらんわ」
「これはちょっと赤みが出るかな」
と、たのしそうです。



焼きしまっていて、じょうぶでありながら、
ふくよかで、あたたかみを感じる
「ほんとにだいじなカレー皿」。
このかたちは、道歩さんが
陶土に工夫をこらしたことでうまれました。
ろくろでしかうまれないかたちを、
食卓でたのしんでくださいね。

2009-09-29-TUE