アトリエシムラHOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アトリエシムラのストール

うつろう色、残る色、いま生きている色。

第2回
今、ここでしか出せない色。
玉ねぎと刈安、野人参(鶯茶、薄香、芥子、若草、花山吹)

鶯茶(うぐいすちゃ)

薄香(うすこう)

芥子(からし)

染料:玉葱

「鶯茶」「薄香」「芥子」は、玉ねぎで染めました。
アトリエシムラで使っている玉ねぎって、
淡路産の立派なものを、
縁あって分けていただいてるんです、皮ばっかり。
収穫のシーズンが違うと色が違うんですよ。
冬越えのものと、春から夏のものとで、
品種も違うんですけれど、色がガラッと変わる。
今回は、春から夏のものを使いました。

冬越えの玉ねぎの色も、元気は元気なんですけども、
もう少し色が――こもりながら光るというか。
そっちはそっちでまた渋くていい色なんですけれども、
今回は、春から夏に収穫されたものを使いましたから、
外向きにぱぁっと弾けるように、
明るくなってくれました。
とってもいい色です。

基本的に玉ねぎって、万能というか、
染色をする者にとってはすごくありがたくて、
いろんな色を持ってくれていて、
媒染剤によって、
すごく色味が変わってくれるところが
魅力でもあるんですね。

▲「薄香」(玉ねぎ+石灰)。¥38,880(税込・販売手数料別)

植物の色って、逃げたがるんですよ。
それを、鉱物の力を借りて、
「ここに留まって」とお願いする。
それが、鉄や明礬(ミョウバン)、
石灰などを使ってする、媒染です。

玉ねぎに明礬を使うと、しっとりとした黄色みが出ます。
でも、ただただ黄色いんじゃなくて、
どこか大地のような。
そういう深いところが魅力的な色だなと、
僕はいつも思ってます。

▲「芥子」(玉ねぎ+明礬)。¥38,880(税込・販売手数料別)

色は、媒染剤と、植物との結びつきで生まれます。
どちらの力も欠かせない。

鉄には、植物の背後にある特性をフルに活かす、
そんな力があります。
今回の「鶯茶(うぐいすちゃ)」の場合は、
ただ媒染剤の鉄の力を借りるというより、
鉄の力を借りたあとに、
玉ねぎの力ももう1回借りよう‥‥
そういう染め方をしてるんです。
自然に出てきてくれるものを、
さらに出るように染めをしてます。

▲「鶯茶」(玉ねぎ+鉄)。¥38,880(税込・販売手数料別)

これを何色っていうかが、むずかしいですよね。
種類としては灰色の何かという感じ。
ちょっと灰色っぽくないんですけど。
これをカーキって言っても、
灰色って言ってもおかしくないですよね。
そして、室内と、自然光の下では、
また全然違う雰囲気になるんです。
見たときの環境で決まるところが大きい。

どうしても、僕ら子どものときから、
絵の具や色鉛筆のように「この色は、○色」って
決められていたもので過ごしてきたので、
その考え方に、はめたがっちゃうんですよね。

絵の具の中にその色がないので、
昔の日本の人はそういう違いにすべて名前をつけて、
すごい量の色の名前になっちゃうんですけど。
草木で染めた色の確定と言いますか、
これがどういう色かっていうのは、
それを持った人、見た人しか決められない。
だから、ワークショップに来た方には、
「染めた色が何色か決められなかったら、
自分でつけたらいいんですよ」と言ってます。

名前をつけるって、やっぱりその「もの」を
大事にするっていうことなんですよね。

若草(わかくさ)

染料:藍、刈安、烏野豌豆

草木の染液から直接、
緑色を染めることはできません。
緑色の草木から、緑色が染まらないって、
不思議に思えませんか?
この「若草」の深い緑は、刈安と藍をかけたものです。
刈安は、ススキによく似た秋の植物で、
黄色の染料ですね。
刈安には、特別な媒染剤をつかうんです。
椿灰汁(つばきあく)というもので、
透明感のある液なんですけれど、
刈安に使うと、すっごく光るんですよ。

▲刈安を煮て染液をつくる。

刈安の黄色は、月の光のような、
内向きに光るような色です。
ちょっと青みがかかってると言いますかね。
それと藍をかけたものなので、沈むような緑だと思います。
そして沈むような緑に呼応するように入っている
新緑の明るい緑色は烏野豌豆(カラスノエンドウ)です。
春先に刈って、水の中に入れて炊き出したものです。

▲「若草」(藍、刈安、烏野豌豆)。¥45,360(税込・販売手数料別)

花山吹(縞)

花山吹(縞格子)

染料:野人参、夜叉五倍子

「花山吹」に使った黄色は、野人参(ノニンジン)です。
葉っぱがニンジンの葉っぱに似てるんですよ。
野人参の黄色は鮮やかです。

▲「花山吹(縞格子)」(野人参、矢車)。¥45,360(税込・販売手数料別)

この野人参は、工房近くのお庭から。
いつもお邪魔して、草を採らせてもらってるんですよ。
そこでたまたま見つけました。
やたら元気に生えてたんで、ちょっと思いつきで
染めてみたらこうなったんですよね。
思った以上に、元気ハツラツだったっていう。

これも出会いなんですね。
だから、ほかのところの野人参で
こういう色が出ますか? と聞かれたら
ちょっとわからないです。
そういうところがあるんですよね、植物染料って。

▲「花山吹(縞)」(野人参、矢車)。¥45,360(税込・販売手数料別)

STAFF
モデル:KIKI / 撮影(モデル):菅原一剛 / 写真(取材):神ノ川智早 /
スタイリング:轟木節子 / ヘアメイク:草場妙子

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