「ほぼ日」に、タカモリ・トモコさんの
あみぐるみのギャラリーをつくることになりました。
いままでの作品とともに、新作を発表する場所として、
そして、作品を販売する場所としてのギャラリーです。

この準備をしているなかで、
大橋歩さんが15年も前に
タカモリさんのあみぐるみを購入していた、
ということを知りました。
そのときの気持ちや、
作品を買うということが
いったいどういうことなんだろう?
ということについて、大橋さんに話をうかがいました。

4月にオープンする「タカモリ・トモコ全集」の
プロローグとして、お読みくださいませ。



第1回 「ひとり預かった」という感覚。
2008-03-25
第2回 この人は毛糸で「描いて」いる。
2008-03-26
第3回 お金でやりとりできる「何か」。
2008-03-27
第4回 ほんとうに欲しい人のところに届けるために。
2008-03-28






ほぼ日 たとえば「浮世絵を買う」ということと、
現代作家のものを買うということは
ちがうんでしょうか。
糸井 浮世絵のような世界はね、
過去が買えるっていうことが
嬉しいということもあると思うんです。
江戸時代に誰かが刷った。
葛飾北斎なり鈴木春信なり喜多川歌麿なり、
ちゃんと名前を知ってる人が描いた。
そのことが嬉しい。
でもね、過去の作品は、
ちょっとわかったような気になると
骨董を買うことと同じで、
知っているふりをしたくなるんです。
舐められなくないと思って、
「ああいいよね」とかっていう
セリフを言っているうちに
買うモードに入っちゃって、
ここでも「酔う」んですよ、やっぱり。
骨董好きのともだちがふたりいるんですが、
ひとりはものすごくセンスのいい人で
本当にお金を使わずにいっぱいいい骨董を買った人。
もうひとりはいっぱいお金使って
骨董界の有名人になった人。
で、彼らが言うには、
骨董というのは悲しいものだって。
悲しい人しか買えないって。
僕はもう全然骨董の世界を知らないから、
「へえ」と思いながらも、そそるんですよ。
やっぱり「買えないもの」と
お金の関係で動いているものって、
ものすごいマジックがあるんですよ。
その味わいは高い服も同じだよ。
だって何回着るのとか聞かれたら困るでしょう。

大橋 本当困ります。本当に。

糸井 それが何か人間のおもしろさだと思うので。
大橋 そうですね。
ほぼ日 糸井さんは作品として
「これは欲しい」と思った
現代作家はいましたか。
糸井 僕は若い頃、アイドルとして
横尾忠則さんを見ていたんです。
あの時代、
横尾さんっていう一つの生き方があるんだ、
って思ったら、勇気が湧いたんですよ。
で、横尾さんが自分と家族を描いたシリーズの
『自分』っていうシルクスクリーンがあって、
それを買ったことがあります。
美術としてということよりも
「横尾さん、僕はあなたが好きなんです」
って言いたかったんじゃないんですか。
やっぱりラブレターですよね。
それから映画監督のデヴィッド・リンチの絵に
魅かれたことがあります。
リンチは絵描きとしては新人で、
映画監督としてはものすごいのに
絵描きとしては自分の心が新人だって
本人も言っていて、
確かにそんな感じがあったんですよ。
自信のなさと自信が両方あって、
いい不安感があるんですよ。
それで、横尾さんのときと同じで
リンチに対するラブレターを
出したみたいに買ったんです。
ほぼ日 買いたかったけど買わなかった、
ということはありますか。
糸井 奈良美智さんですね。
奈良さんって昔から相性として
気になっている人で、
胸騒ぎがするんですね、やっぱり。
そんななか奈良さんの大きな絵を見つけて、
とてもいいなと思って。
買えば買える値段なのだけれど、
よいしょって思い切りが必要な金額で。
日曜日のお昼だったかな、
「買おうかな」って言ったらかみさんが
「買えば」って背中を押してくれて。
でもお金をおろしに行かなきゃならないって
ひと手間があったんですね。
そしたらもう1日頭を冷やして考えよう、
ってなっちゃうので、
そうなると、おしまいになっちゃった。

それはもう買えないくらいに高くなっています。
で、会社に置きたかったの。
みんながその色とか、
あの人の描いた顔の感じとかを、
木を植える代わりにね、見てればいいなと思って。
あるじゃない、中庭に太い木のある会社とか。
それと同じように大きめの絵があれば
みんながよろこぶと思ったんだけど‥‥、
それが最後の所有欲でしたね。

ほぼ日 それと、タカモリ・トモコさんのあみぐるみは、
また違う意味がありますよね。
糸井 違いますよね。
この間、南伸坊の展覧会があって。
僕は友だちとして
伸坊とずっと付き合っているんだけど
伸坊の絵を買うっていうのは
何か友だちの手紙を見るみたいで
いいなと思ったので、
一つ置く場所考えてみようかなって思ったら
全部売約済だったんです。
で、伸坊の値段の付け方も
なかなかかわいい付け方で、
控えめだけどバカにすんなよの値段で。
ああいう作品の扱い方っていうのも
悪くないですね。
大橋 たぶん、作家の側として
作品に値段をつけるって
すごく微妙なんですよね。
あんまり低い値段だと本当にそれこそ自分が。
糸井 いためつけられてる気がしますよね。
大橋 そうそうそうそう。
で、あんまり高いとまたそれもそれで、
ちょっとなんか。
でもわたしは思うのは、
このテディ・ベア、数万円だったと思いますが、
もしも3000円だったら、
わたしのところいなかったかもしれないということです。
作品に値段をつけるっていうのも
すごく微妙なんですけど、
どの子もちゃんとした適正の値段で
相手に渡してほしいという思いがあるんですよ。
作るとか描くとかっていう側からすると
やっぱり誰かに買ってもらって嬉しいけれども
なるべく長いこと
生きててほしいと思うじゃないですか。
で、安い値段だとやっぱり
ぞんざいに扱われちゃうっていうことも
なくはないと思うんですね。
人間ってすごく不思議なもので、
ある値段になると簡単には捨てれないっていう、
すごく嫌なところもあると思うんですね。
糸井 それ、とても重要なことですよね。
大橋 ですよね。だからこのあみぐるみたちが
ちゃんとした値段で、
欲しい人の手の渡ることは大事だと思います。
わたしは作家の人に、
「絶対に作品をタダであげちゃダメ」
って言っているんですね。
あげちゃダメ。
あげたらもう行方不明になっちゃうよ。
すごく気に入ってくれているのなら
ちゃんと買ってもらいなさいって言うんですね。
糸井 なるほどね。
大橋 やっぱり買うということもすごく大事な要素。
すごく不思議な、微妙なものですね、お金って。
糸井 何でしょうね。あげちゃったらなくなりますよね。
大橋 なくなりますね。
糸井 心だけをやり取りしてるって、
やっぱりものすごく
不確かなところがありますもんね。
結婚だってハンコ押さなくても
いいんだと思うんですよ。
だって愛し合っているんだから。
だけどあのハンコがなかったら
きっと違うんですよね。
大橋 どっか違うんですね。
糸井 違うんです。押さないなら押さないっていう
意思がやっぱりあるんですよね、きっとね。
大橋 あるんですね。不思議ですね。
糸井 何だろうね、おもしろいね。
タカモリさんにしても、
今回、編み図を離れて、
自由につくってくださいということで
生まれた作品があるんです。
いままでは、人が同じものを作れるように
編み図を書きながら作品作りをしてきたのを、
思うままに編んでみてくださいと。
それを「ほぼ日」で
はじめて公開するわけなんですけれど。
まだまだこの人の毛糸を使った
イラストレーションというか、
毛糸を使った彫刻っていうか、
さらに可能性があるような
気がしているんですよ。
大橋 ええ。
タカモリさんは手芸の先生の仕事も
していらっしゃるけれど、
作家さんだと思っていました。

糸井 いい意味で作家の変さがあるんですよね。
で、それはもうわかるんですよ。
この人作家だって。
作家が、学校の先生をしていたんです。
大橋さんに学校の先生をやれっていったって
無理でしょう。
大橋 無理ですねえ。以前展覧会に
古着の洋服でつくったくまを出品したら、
それを図にしてくださいと言われたんですよ。
そのときの具合でしか作ってないし、
そんなものはできないわけです。
タカモリさんも、
図をちゃんと描かなきゃいけなくて
誰かがこの図を見ていけばちゃんと作れますよ、
みたいなことをずっとなさっているとしたらば、
やっぱり不自由だと思いますね。
だから今回のように、爆発されていいと思います。
糸井 タカモリさんのあみぐるみは、
大橋さんのイラストレーションと同じで、
印刷されて仕事になるもの、
撮影されて仕事になるものだったんですよね。
で、もう悲しい話なんだけど
そうやってつくったものを、
ずっと置いておいても、
この先も作らなくなっちゃうから
ほどこうと思ってたんですって。
大橋 あら。そんな‥‥。
糸井 ゴッホとか、昔の画家は
一つの絵の上に描きましたよね。
同じですよね。
で、僕たち、それを聞いて
止めようと思ったんです。
大橋 止めてもらわないと。本当。

糸井 それで「ほぼ日」紙上で
展覧会を開いて、
みんなに見せたいと思ったんです。
このあと、「あみぐるみ展を、紙上だけでなく、
じっさいにできないだろうか」という話になり、
大橋さんのもつ、イオグラフィックギャラリーを
1週間、お借りして、実現することに。
それが今回開いている「タカモリ・トモコ全集展」です。
そして、「ほぼ日」の「タカモリ・トモコ全集」は
2008年4月、「ほぼ日」紙上にオープンします。
毎月すこしずつ、発表していきますので、
どうぞ、たのしみになさっていてくださいね。





2008-03-28-THU


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN