乗組員やえの疑問

スカイツリーの照明についてくわしく教えて。

スカイツリーおじさんの解説

心意気の「粋」と、美意識の「雅」という
2つのオペレーションが1日毎に交互に現れる計画
‥‥というのは、きっともうすでに
ニュースなどでご存知ではないでしょうか(笑)


▲「粋」のライティングCG


▲「雅」のライティングCG
(c)TOKYO-SKYTREE

クリスマスシーズンなど、
ご自身で自宅周りをイルミネーションで素敵に飾り、
家族や通行者に楽しんでもらっている方も
いらっしゃいますが、
東京スカイツリーの場合、
かつてない634mの高さで
ランドマークとなるものですから
周到な計画が必要になってきます。

ライティングに関連するところだけでも、
事業主体である東武鉄道株式会社と
東武タワースカイツリー株式会社はもちろん、
照明設計・監理が建築と同じく日建設計、
照明コンサルタントにシリウスライティングオフィス、
タワーの施工が大林組で、
照明器具設置工事をするのが電気興業
ライティング機器のパートナーがパナソニック電工、
といった具合に
複数社、大勢の関係者が協力し合っています。

ライティングには、
タワーの形状を活かしたデザインでかつ周辺環境とも調和し、
長い年月に耐えうる普遍的な価値をもったもの
とするデザインの感性も大事ですし、
色、配光、明るさなど高性能な光を実現する
器具開発や制御システムの導入、
メンテナンス方法や
タワー鉄骨への照明器具の取り付け方法などなどの
各種の高度なエンジニアリングも重要になります。
そこで、
チーム一丸となって知恵を出し合いながら
取り組んでいるというわけです。

さて、「粋」と「雅」の、
東京スカイツリーのライティングには
以下の4つの「手法」が取り入れられています。

(1)ライトアップ

夜間に対象物に光を当てて
美しく浮かび上がらせることを一般に「ライトアップ」
と呼びますが、
ここでいう「ライトアップ」は、
対象物へ向けて下から上に照らす意味です。
建物だったり樹木だったりが
昼間とは違った表情・姿を映し出す、
照明設計でごく一般的な手法です。
「粋」でタワー中央部を淡いブルーに照らすのも
「雅」で外周の鉄骨を紫色に照らすのも、
ゲイン塔頂部を富士山の冠雪のように白く照らすのも
この手法によるものです。

(2)ライトダウン

夜空の星などを楽しむために都市の照明を落とす
という意味でも「ライトダウン」と使いますが
ここでは、(1)の「ライトアップ」と真逆でして
対象物に向けて、上から下に照らし下げることを言います。
この手法、これまでに他では例がないくらい
珍しい手法なんです。
タワーの高さを活かした、
東京スカイツリーならではの逆転の発想
といえるかもしれません。
ゲイン塔下部、第1、第2の展望台下部から
鉄骨塔体に下向きに照射されます。

(3)交点照明

照明器具から出ている光を直接見せる、
いわゆるイルミネーションです。
塔体の鉄骨の交点箇所に設けています。
「雅」のCGで、ところどころ煌めいて見えるのが
この手法による光です。

(4)時計光

展望台の上部を約1秒で1周する光の演出です。
一定の速さで周り続けるこの光は、
時を刻む光の表現でもあります。
これは、順に点灯・消灯をくり返すことで、
光が周回しているように見せるものです。
点灯・消灯の繰り返しといっても、
よく見かける電光掲示板の文字情報のように
単純なON・OFFで動きをつけているのではなく、
調光、すなわち、ごくごく短い時間内で
ゆっくりと明るく点いて、ゆっくりと消える
ことの繰り返しで、
よりスムーズな光の動きをもたらす計画です。

また、「雅」に用いられる紫色も、
照明においては非常に挑戦的な試みです。
紫色自体はその昔、高貴な色とされていましたし、
江戸紫などの伝統色がある色ですが
光においては、表現が難しいということがあります。
例えば、虹の色は
上から順に赤、黄、緑、青、紫となり、
紫は光の波長が短い色で、
人間の目の感度は低い色になります。
また、少しでもバランスを崩すと
品を損ないかねないデリケートな色です。
これを再現するために、
パナソニック電工さんの開発技術を中心に
CIE色度座標というRGB光の混合比で再現される
チャートのようなもので
ターゲットとする色を定量的に把握したうえで、
青色LEDと蛍光体を組み合わせることで
理想の色を実現しました。
文字にするとサラリと、ですが、
これって、かなり難しいことなんです。

合計1,995台の照明器具をオールLED化し、
優れた演出効果を生かすと共に、
照射効率を向上させることにより、
地球環境に配慮したことも
現代における新しいチャレンジです。
同時に、「陰翳礼賛」の思想を汲むデザインでもあり、
先進的かつ伝統的なライティングともいえそうです。

今後、制御システムなどのオペレーション検討や
ライティングの最終調整などを経て実現に向かいます。
きっと、新しい夜の景観が誕生すると思います。
‥‥たぶん、
定番のデートスポットも生まれるんでしょうね(笑)

前へ 最新のうんちくへ 次へ


2011-10-18-TUE