乗組員やえの疑問

「そり」や「むくり」をもつ
いろいろなものを教えて。

スカイツリーおじさんの解説

前々回にもご紹介しましたが、
まず、はじめに整理しておくと、
「そり」とは、
線または面が上方に凹に湾曲していること。 
「むくり」とは、そりとは逆に、
線または面が上方に凸に湾曲していること、です。

また、「そり」は「てり(照り)」とも呼ばれ、
「そり」と「むくり」が滑らかに連続し、
凹凸の反転曲線(面)を描く形状を
「てりむくり」といいます。

こうした形のものには、
実は、多くの人が赤ん坊の頃に出会っています。
おわかりになるでしょうか?
そう、母親の胸、乳房です。
唇や手のひらの触覚で、この優しいかたちを
心の奥深くに記憶しています。

また、日本の風土に見ることもできます。
山々‥‥特にかつて都のあった
畿内の緩やかな山の稜線、
国土を囲む海の波形に、それらが現れています。
むしろ、こうしたところから、
「そり」や「むくり」が生まれたのかもしれません。

人工物でみていけば、
日本建築の屋根において類型化されています。
屋根の種類には、
切妻(きりづま)、入母屋(いりもや)、
寄棟(よせむね)、方形(ほうぎょう)など
様々な形式がありますが、
屋根面の形によっても大別できます。
屋根面がまっすぐなものは、直線屋根、
反っているものを、そり(てり)屋根、
ふくらんだものを、むくり屋根と呼んでいます。



そり屋根は、寺社仏閣や城郭に多く見ることができます。
むくり屋根は、数寄屋や茶室に見ることができ、
有名なものとしては、桂離宮があります。
いずれも視覚的効果を主な目的にしたものです。

そり屋根は、中国など大陸からもたらされた建築様式で、
格式や荘厳さを表しています。
一方、むくり屋根は格式や厳めしさを抑えた表現として
そり屋根の後に現れたものです。
また、日本は雨の多い国です。
雨後は、屋根の上方(棟)から乾きはじめ、
屋根の端部=軒先は
水が溜って乾くまでに時間がかかります。
ですが、むくり屋根だと、軒先ほど勾配が急になるため
早く水を落とそうとすることができ、
軒先に水がたまって腐食しやすくなるのを
防ぐという機能もあります。

さらに、屋根に用いられる
瓦にも見ることができます。
本瓦葺きに使われる、
平瓦(女瓦とも呼ぶ)は凹の「そり」、
丸瓦(男瓦とも呼ぶ)は凸の「むくり」のあるかたちです。
また、桟瓦(さんがわら)葺きに用いられる、
桟瓦は緩やかなS字断面で、
「てりむくり」のあるかたちです。
屋根

雨の多い日本では、
屋根といえば一般的に勾配のついた屋根を指しており、
後年に生まれた、屋根面が水平で平らな屋根を
陸屋根(りくやね/ろくやね)と呼ぶほどに、
建物を覆う大きな傘としての屋根は、
日本建築に不可欠な存在なのですね。
先に話したような数々の形式があり、
使われる素材も、茅葺き(かやぶき)、檜皮葺き(ひわだぶき)、
板葺き、瓦葺きとさまざま。
それらは、宗教や格式、気候、地域性、生産性などに基づいて
使い分けられてきました。
そしてその連なりは日本の風景をかたちづくってきました。

古来より屋根は、雨や雪、日射から人を守ることはもちろん、
風景を形成する重要な要素でもあったのです。
そこに古くから組み込まれた「てり」や「むくり」が
いかに日本の伝統的なかたちであるのかが、
垣間見えるのではないでしょうか。

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2010-09-07-TUE