ほぼ日の塾から生まれたコンテンツ。
このコンテンツは、「ほぼ日の塾 実践編」で塾生の方が課題としてつくったコンテンツをデザインし直したものです。
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こういう人になりたい。

わたしは昔から、割と健康優良児だった。

大学に入ってからも、熱を出したことがなかった。

一人暮らしを始めてから
体温計を持っていなかったけど、
「あ、絶対に熱がある‥‥」
という体調になったことは一度もなかった。

そんなわたしが、就活真っ最中の4月上旬、
熱を出した。
体調が悪いな、と思い始めた日の夜に
「きっとこれは、明日あたり熱を出す」
という予感がして、
コンビニで体温計を買ったら、
翌日その予感は見事的中した。

熱から始まり咳に終わる、
よくある風邪をひいたわたしは、
そのおかげで、楽しみにしていた
宝塚雪組の「るろうに剣心」を
観に行けなくなり、そして
数件の会社説明会をキャンセルした。
 
わたしが風邪をひいたときは、幸いにも
まだ面接は始まっていない時期だったけど、
実際に面接の時、
「すみません、熱を出してしまったので
面接を後日にしていただけませんか。」
と言って、快諾してくれる企業は、
どれくらいあるのだろうか。

就活生はこういう時、会社はみんな
「自己責任だ、さようなら」
と言うものだと思い込んでいる。
なぜなら、
就活生は内定を「いただく」立場で、
会社の方は内定を「あげる」立場で、
就活生は圧倒的に不利なのが、
今の就活の現状だから。

就活生というか、学生の多くは、
心のどこかで、必要以上に
社会を「人のこころがない世界」だと
思っているんじゃないかなと思う。

わたしも、風邪をひくまでは
そう思っていた。

熱はすっかり下がって、
体も元気になったのに、
咳だけ止まらない日が何日か続いた。

その時に、とある会社の筆記試験があって、
咳をしながら選考会場に行った。

体は元気なのに、
咳ひとつしているだけで
周りは「病人」という目で見てくる。
「無理をして選考に来ているんだ、かわいそうに‥‥」
という目で。
それがわたしは恥ずかしくてもどかしくて、
イライラしていた。

そしてそんなわたしの気持ちとは裏腹に、
体は咳をどんどん出す。

筆記試験を解きながら、
わたしはどんどん惨めになっていった。

その時、ひとりの女性の社員さんが来て、
わたしの机に、のど飴を2つ置いて、こう言った。

「大丈夫ですか?
水とか飲んでも大丈夫ですからね。」

正直に言えば、ただでさえ咳で目立っている
わたしの恥ずかしさを助長することだったけど、
基本的に「社員>就活生」という場面にあって、
こんなに優しくしてくれるのか、と思い、
「社会って意外と優しさも存在してるんだな」
と生意気なことを思いながら、
ありがたくそののど飴を舐めた。

それから数日経ったあと、
風邪でセミナーを欠席してしまった企業から
郵便物が届いた。

何事かと思い開けてみると、
欠席したセミナーで使った資料だった。

「企業研究に役立てていただければ幸いです」
という添え状つきだった。

更に、後日その会社の面接に行った時には、
採用担当の方から
「わざわざ欠席の連絡くれてありがとうね。
資料届いた?」
と言われて心底びっくりした。

こちらの都合で休んでしまったのに、
資料を送ってくれた上に、
実際に会ったら連絡をくれたお礼まで言ってくれた。

「こういう人になりたい」と思った。
 
社会って、表面では
お金とか、モノとか、お堅い部分で動いているけど、
根本のところは、人の優しさでできているんだなと思った。

社会ってもっと、機械的なものかと思っていたけど、
だから、社会に出たり、大人に会って話すことすらも
ちょっぴり「こわい」と思っていたけど、
社会に「優しさ」があるなら、
「社会に出る」って、案外悪いことじゃないかもしれない。

「こんな人になりたい」「こうやって働きたい」
という理想と出会いながら、
社会に出た時の自分の居場所を探す旅が
「就活」なのだとしたら、
もしかしたら、就活は世間で言われているような
辛くて大変なものじゃなくて、本来はもっと、
前向きな活動なのかもしれない。

(つづきます)
2016-09-08-THU