YAMADA
はじめての落語。春風亭昇太ひとり会

第5回 落語家を目指した経緯。



糸井 昇太さんは、
ただの落語好きだった学生のときから、
真剣に落語家を目指してたんですか?
昇太 う〜ん、そうですねえ‥‥。
あの、ぼく、中学校のときに、
ブラスバンド部にいたんですね。
で、いちおう3年間やったんですけど、
あんまり音楽の才能がないなって
わかったんですよ。で、高校に入って、
今度はソフトボール部に入ったんですね。
ソフトボール部ができたばっかだったので。
糸井 うんうん。ちょっと楽そうなところを選んで。
昇太 ははははははは。いや、うちの学校って、
すごくスポーツ盛んなところだったんで、
ブラスバンド部やってた者としては、
野球部なんか、とても無理なんですよ。
糸井 (笑)
昇太 それで、高校時代はソフトボールを
やったわけなんですけど、
ま、スポーツの才能ないなって
わかったんですよ。
糸井 あー(笑)。
音楽はダメ、スポーツもダメ、と。
昇太 ええ。で、大学に入って、
たまたま落語研究部に入って。
で、大学2年生のときに、
『全国学生落語名人決定戦』っていう番組を
日本テレビでやってたんですよ。
これ、いま考えれば恐ろしい話ですけどね。
学生の、落研の大会を
テレビで1時間もやるんですから。
糸井 ありえないね(笑)。
昇太 ええ(笑)。で、そこに、
ぼくの先輩が出るはずだったんですけど、
その先輩が気が小っちゃい人で、
大会の直前に失踪しちゃったんですよ。
糸井 失踪(笑)!
昇太 急にいなくなっちゃって、
みんなで探しに行ったりなんかして(笑)。
でも見つからない。アパートには、
どうもいるらしいけど出てこない、
みたいな感じで。
糸井 ははははははは。

昇太 そしたら、「じゃ、おまえが出ろ」
みたいな話になって。
糸井 ほぉ。ってことは、ちょっとこう、
芽があったわけですね?
おまえが出ろって言われるだけの、
ちょっと光るものが‥‥。
昇太 いや、ちょっとあったのかもしれないですけど、
ぼくが抜擢された理由はほかにあったんですよ。
その、ぼくに「出ろ」って言った先輩は、
いま放送作家になってるんですけど、
その人、じつは計算ずくでぼくを出したんです。
それはあとになってわかったんですけどね。
糸井 ほう。
昇太 っていうのは、大会に出てみたら、
ぼく以外は、ぜんぶ大学4年生なんですよ。
ぼくだけ2年生なんです。
2年生っていっても、その、2年の春だから、
要するに1年間しか落語やってないんですよ。
そのときぼくは、2席しか知らないんです。
『子褒め』っていう噺と、
『まんじゅう怖い』っていう噺。
ほんとにスタンダードな落語、
ふたつしか知らなくて。
ほかの人たちはもう、なんでもやれる人で。
で、その大会では、ぼくが優勝したんですよ。
糸井 へえ!
昇太 でもこれは、いま考えるとわかるんですね、
なぜ優勝したのか。
だって審査員はぜんぶ落語家だったんですよ。
糸井 なるほどね。なるほど、なるほど(笑)。
昇太 そうすると、落語家っぽくしゃべる人は、
つまんないんですよ、落語家にとって。
でも、なんか、こう、
素人っぽいぼくなんかがしゃべると‥‥。
糸井 新しい空気があるのね。
昇太 ええ。なんか、こう、
ただ真っ直ぐしゃべってるみたいなやつが
いいな、ってことになったんでしょう(笑)。
だからそのときぼくを推した先輩は、
やっぱ計算したんだと思うんですよ。
糸井 アンダースロー投入、みたいなことだ。
昇太 ええ、ええ。みんな上から投げてるから、
「おまえサイドから行け!」
みたいな感じですよ。
糸井 「ぜんぶカーブで行け!
 だっておまえ、
 カーブしか投げられないんだから」(笑)。
昇太 いや、ほんと、そうです(笑)。
「これやればいいの、おまえは」って。
「時間だけは守れ!」とかね。
糸井 ああ、「時間守れ」かあ。
昇太 ええ。ほかの人は、持ち時間10分のところを
やっぱ20分やっちゃったりするんですよ。
話し切れなくて。
糸井 熱があって(笑)。
昇太 ええ。「この話は20分ないと!」
みたいな感じでやっちゃうわけですよ。
で、その人が言うには、
「これはテレビ番組なんだから、
 それやっちゃダメだから」って言って、
「10分から出ないように!
 おまえはこれだけ守ればいいから!」って。
糸井 いいプロデューサーだねえ、その人は。
その人、学生時代に、それがわかってたの?
昇太 その人はもう、大学5年生ぐらいだったんで。
糸井 5年生っていったってさ、
いま思えば22、23歳じゃないですか。
その歳で、そこまで計算できるやつってすごいね。
昇太 ま、そのころ、すでに放送作家教室とかなんかに
通ってたみたいですけどね。
糸井 社会を知ってたんだね(笑)。
昇太 そうですね。だからもう、
その人の操り人形のようにやって、
あの、全国1位みたいな感じになったんですよ。
糸井 すごいねぇ〜。
昇太 そうなると、中学校のときにブラスバンド部で
音楽の才能のなさがわかって、
高校でスポーツの才能ないなとわかって。
糸井 それで大学2年で落語で優勝、と。
昇太 「オレはもしかしたら
 こっちの才能があるのかもしれない」と、
まあ思うじゃないですか(笑)。
糸井 それは思って不思議はないよねぇ。
まあ、大正解だったわけだけれど。
昇太 だから、大学2年生のときに優勝して、
はじめて、その、職業選択のなかで、
「噺家って手もあるな」と。
糸井 なっるほどねぇ。
昇太 でも、その当時は
ふたつしか話を知らないんですけどね。
しかも、両方とも10分ぐらいの話(笑)。
糸井 ははははははは。
(続きます!)

2004-08-10-TUE

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