「将棋について思うことを書いてみませんか?」
そんな連絡があったのは、
「ほぼ日の塾」の第3期が終わって、
少し経った6月の終わり頃。
中学生棋士・藤井聡太四段の連勝記録が、
連日ニュース番組で報道されていた時期でした。
たまたま将棋に関わる仕事をしている僕は、
いま、おそらく将棋ブームの真っ只中にいます。
この盛り上がりの中で感じたことを書くのは
たしかにおもしろそうです。
いろいろなことがつながって、
よくわからないままにここにいる僕ですが、
どうぞ、よろしくお願いします。
ほぼ日の塾、第3期生の松谷一慶です。
製薬会社を退職後、3年間の世界一周を挟んで、
今は将棋に関わる仕事をしています。
自然と音楽とお酒と言葉とトライアスロンと
晴れの日と蝶ネクタイとバンジージャンプと
甘いものとキリンと祭とぶり大根が好きです。
先日、山口恵梨子女流二段を
取材することがありました。
編集を担当することになっていたので、
当日なにか役割があるわけではなかったのですが、
その場の雰囲気を味わいたいと思い
ライターやカメラマンと一緒に
インタビューに同席することに。
取材場所である東京・将棋会館の対局室に入ると、
すでに将棋盤や駒、座布団などがセットされていて、
将棋中継などでよくみる対局の雰囲気そのまま。
ただひとつ中継でみていた対局室と違う点は、
天井に設置されているカメラが、
現場に行くと視界に入るということです。
これは対局状況を上から撮影する為のものなのですが、
天井に設置された無機質なカメラと
そのの真下にある古風な将棋盤
という不思議な組み合わせは、
その場の舞台裏感を演出するには十分で、
その特殊な空間に居合わせる感慨を感じながら、
いつもより背筋を伸ばして
部屋の隅で取材が進むのを見ていました。
インタビューは30分程度で終了し、
撮影まで少し空き時間があったので、
山口女流二段を含めみんなで話していたのですが、
その場にいたうちの一人が
将棋を一度も指したことがないことが発覚。
じゃあ教えましょうか、と山口女流二段。
テキパキと盤上に並んだ駒を一度駒箱にしまい、
教える相手を正面に座らせます。
まずは駒の動かし方からですね、と
王将、飛車、角、と順番にひとつずつ駒を出して、
それぞれの動ける範囲を説明。
ひとつ出しては説明して、説明が終われば駒箱に仕舞う。
またひとつ出しては説明して、終われば仕舞う。
それをそれぞれの駒で繰り返し、繰り返し。
面倒そうにみえる作業を省かずに
流れるような手つきで駒を並べたり、仕舞ったりする姿は
とても美しくて、とても優しくて。
何かを誰かに教えるときに大切なのは
「丁寧であること」ということで、
そのためにも、教える側がそれを好きであることが
大前提なんだろうなと感じました。
そのあと基本的なルールをいくつか説明したあと、
では実戦で試してみましょう、と駒を並べます。
相手側は通常通りに駒を配置するのですが、
自分側は、王と歩を残して他の駒を全て仕舞う、
将棋のハンデ戦の10枚落ちという対局方法。
初心者の場合はこのハンデをもらっても、
負けてしまうのですが、
今回は将棋を覚えるための実戦ということで、
先生である山口女流二段がうまく誘導しながら進めます。
さっき教えた駒の動きを復習したり、
適切なヒントを出したりしながら進めて、
最後はどうやって王を追い込むかという
勝ち方を教えて将棋講座が終了。
これが将棋というものです、と山口女流二段の言葉に
「将棋、面白いですね」の返答。
確かに見ていてもすごく面白く、
複雑なルールがすごくスムーズに説明されていく様子は
絡んだ紐がスルスルと解けるような
気持ち良さがありました。
難しい、というハードルを越えさせることができるのは
きっと丁寧さと優しさで、
それがふとした瞬間にも取り出すことができるのは、
とてもかっこいいことのように感じました。
誰かが自分の好きなものを説明する姿も、
別の誰かがそれを聞きながら楽しそうにしている姿も、
見ていてとても心地よく、
天井のカメラと将棋盤の置かれた畳という
不思議な組み合わせの間で行われているそれを見ながら、
また背筋が伸びるような気持ちになりました。
(つづく)
2017-09-23-SAT