藤井聡太四段がはじめて負けたのは、
29連勝という歴代単独トップの記録を打ち出した、
その次の対局のこと。
対局相手は、昨年は最多対局賞も獲得した
佐々木勇気五段(現六段)、22歳、
期待の若手棋士でした。
デビュー1年目の中学生棋士の活躍。
勝てば勝つほど面白くて、
藤井四段の対局がある日は
途中経過が気になって時々チェックしていました。
初心者の僕には戦術的なすごさは
あまり理解できないのですが、
予想外の一手に驚いている解説者や、
世間の反応を見るのが楽しくて、
「すごいすごい」という声を、
自分のことのように誇らしく思っていました。
この、物語のはじまりに立ち会えたような嬉しさは、
きっと今、将棋を見ている人は
みんな感じているのだろうなと思いながら、
ふと浮かんだのは、
棋士はどのよう感じているのだろうという疑問。
同じ世界で戦う者として、
自分たちより年下のヒーローである藤井四段の活躍は
手放しで楽しめるものでないような気がしたのです。
藤井四段の連勝が途切れる前の3戦は、
いずれも若手棋士との対局でした。
28戦目は25歳の澤田真吾六段、
29戦目は18歳増田康宏四段、
そして敗れた30戦目は22歳の佐々木五段(現六段)。
藤井四段との対局前のインタビュー、澤田六段は
「私は悪人で結構ですので、藤井くんを応援してください」
とクールに答えていました。
増田四段は
「藤井四段が勝ちすぎている現状があり、
将棋界はぬるい所と思われるのは悔しいです」
と、ライバル感をあらわにコメント。
佐々木五段(現六段)は
その増田四段と藤井四段の対局を
部屋の隅からじっと眺め、自らの対局に備えていました。
それぞれが、それぞれに、かっこよく、
『将棋盤を挟んで、向き合って座る』
将棋の基本的な姿勢が、それぞれの言動に
あらわれているような気がしました。
藤井四段の強さは認めた上で、
勝つべき相手として、藤井四段を捉える。
棋士として生きていくということは、
相手に向き合って座る
ということなのかもしれないと思いました。
「私たちの世代を乗り越えられてしまうと、
私たちが波に飲み込まれてしまう感じがしたので、
大きな波ですが、立ちはだかりたいと思っていました」
藤井四段の連勝を止めた佐々木五段(現六段)は、
対局後のインタビューで
藤井四段についてこのように話しました。
目の前の勝負に勝ちたいという気持ちだけでなく、
同時に抱く、若い世代としての意地。
将棋に向き合ってきた人だからこそわかる、
勝負の世界で生きていくということ。
勝たないといけない勝負があって、
そのために向き合うべき相手がいるということ。
改めて、棋士ってかっこいいなと思いました。
佐々木五段(現六段)が藤井四段に勝った、
次の日の朝のニュースを観ていると、
三枚堂達也四段(現五段)が
昨日の対局についてコメントしていました。
「藤井四段に勝てておめでとうというほど、
佐々木勇気は弱い棋士ではない」
共に戦う仲間への信頼もまた、かっこいい。
(つづく)
2017-08-19-SAT