この春、二作目の小説『空に唄う』を
上梓したばかりの白岩玄さん、25歳。
以前から糸井重里の作品のファンということで、
雑誌、「文藝」誌上にて対談記事が組まれました。
白岩さんの小説について、これからの作家について、
白岩さんと糸井は初対面とは思えぬほど長く話し、
(おもに糸井がしゃべっていたのですが)
つぎに会う約束まで交わしました。
ずっと続くみたいな全13回、
まだちょっと肌寒いころに行われた対談です。
どうぞのんびりお読みください。

白岩玄さんプロフィール

もくじ
第1回 書くって決めてない人
2009-07-21-TUE
第2回 思いついたときがいちばんたのしい
2009-07-22-WED
第3回 書くの好きですか?
2009-07-23-THU
第4回 一般の価値や感覚
2009-07-24-FRI
第5回 好きではじめたこと
2009-07-27-MON
第6回 考えざるを得なくなった
2009-07-28-TUE
第7回 これ以上は書かない
2009-07-29-WED
第8回 平凡とか、普遍とか、低さとか
2009-07-30-THU
第9回 価値を超えた無価値のよさ
2009-07-31-FRI
第10回 ローギアの経験
2009-08-03-MON
第11回 のせないラーメン
2009-08-04-TUE
第12回 ここまでは書ける
2009-08-05-WED
第13回 ホームランになりたい
今日の更新

第13回 ホームランになりたい

糸井 「本業」と「食べていくこと」って、
重ならなくてふつうなんですよね。
たとえば、役者が仕事になってる
音楽家の人ってめずらしくないですし。
白岩 ああ、そうですね。
糸井 思えばそういうのって不思議ですよね。
本人が思いもかけないようなもので
食えるようになったりするじゃないですか。
なんていうか、その人なりの
「食えるパフォーマンス」みたいなものが
才能とは関係なくあるんでしょうね。
白岩 その意味では、小説を書くことを
「食えるパフォーマンス」に
したいなぁと思ってるんですけど。
糸井 そうですよね。でも、たぶん、
それを第一に考えていると
ずれていったりするんだろうなぁ。
白岩 ああ、そうか。
糸井 たとえば、それで食べていくために、
「いまウケてる小説とは?」みたいなことを
リサーチしはじめちゃったりすると、
さっきの「雲の写真」と同じで、
ダメになっちゃうんだと思うんですよ。
白岩 そっかー。難しい(笑)。
糸井 難しいよー。
でも、きみは考えはじめちゃったんだから
最後まで考えなさい、ってオレは言う(笑)。
白岩 はい(笑)。
絶対、考え続けるとは思うんですけど。
糸井 ま、でも、白岩さんは、
ラーメンにね、なにものせたくない限りはね、
絶対食えますよ。
白岩 あ、そうですか。
糸井 うん。チャーシューのせたいとか、
ワインも注文したいとか言い出すから、
食えなくなるんで。
白岩 じゃ、なにものせないタイプの
いまの若い人はみんな、食えるんですか?
糸井 うん。
白岩 そういう可能性持ってる。
糸井 ぼくはそう思います。
白岩 おー、すごくそれは勇気が出るというか、
希望を持てる言葉ですね。
糸井 たぶん、ね。
白岩 たぶん(笑)。
糸井 ラーメンになんにものせないで
生きてくっていうのは、
きっとこれから、おもしろいぞ。
白岩 おもしろいですか?
そんなに?
糸井 きっと、のせない人であるがゆえに
友だちが増えたりもすると思うんですよ。
白岩 そうですね。
横のつながりみたいなものは、
たくさんできていけばいいなと
思ってるんですが。
糸井 そういうつながりが重要になっていく
世の中になるといいですよね。
ぼくは、自分のこととは無関係に、
詩人が食っていけるようになれたらいいな
っていう夢があるんですよ。
詩人って、いちばんすごいんじゃないかと
常々思ってるんですけど、
やっぱり食えないですよね。小説以上に食えない。
たぶん、きちんと食べていけてるのは
谷川俊太郎さんだけで、あとの詩人たちは
詩を応用したようなかたちで食べている。
吉本隆明さんなんかも、
完全に詩を応用した人だと思うんですよ。
詩人としての感性でマルクスを読んでいく、
みたいな道を進んでるんじゃないかと思う。
白岩 そうかもしれない。
糸井 乱暴な言い方だけど、
詩人が食えるようになったときに、
なにもかもがうまくいくんじゃないかなぁ。
それを自分の仕事として、
なにか手伝いたいなっていう気持ちはある。
なんか、食えるっていうことについて、
ちょっと先回りして考えすぎかもしれないけど。
白岩 (笑)
糸井 まぁ、あんまり考えすぎてもね。
食ってく心配については、
ちょっと保留にしといた方がいいかな。
白岩 そうですね。
じゃ、もう、自分の思うように。
それこそ、あんまり、考えずに。
糸井 たとえば小説のかたちじゃなくっても、
なにか、書きたいときに
書けばいいんじゃないですか?
白岩 そうですねえ‥‥。
いまパッとは思い浮かばないですけど。
糸井 いや、ぼくもよくわかんないですけど。
白岩 (笑)
糸井 ま、考えながら。
白岩 はい。今日はこう、
「食べていく」というテーマが
ぐるぐる回りましたね(笑)。
糸井 余計なこと、いっぱいしゃべったような。
白岩 とんでもない。ありがとうございました。
自分の書いた小説について、
外側から本質を突かれたっていうか
言い当ててくださったような感じがあります。
糸井 ああ、それはよかった。
あの、ぼくはずっと前に詩みたいなものの中で、
「ホームランになりたい」って
書いたことがあるんです。
ホームランバッターにでもなく、
ホームランボールにでもなく、
「ホームランになりたい」って。
白岩 「ホームランになりたい」。
糸井 うん。王貞治になりたいっていうんじゃなく、
ホームランになりたい。
つまり、銃弾が撃たれたとき、
弾丸がなくても、
その弾が飛んでいったっていう事実があったら、
それになりたい。
その「こと」になりたいんです。
それが、いちばん、
ウソじゃない気がするんですよ。
その「ホームランになりたい」にね、
似てると思うんです。この小説は。
白岩 ああ、『空に唄う』が。
糸井 ええ。
だからぼくは、おもしろく読めたんでしょうね。
白岩 そっかー。「ホームランになりたい」。
もういっぺん、
自分で読み直してみようかな(笑)。
糸井 いやぁ、久々に、若い人と話した気がする(笑)。
白岩 ほんと、ありがとうございました。
おもしろかったです。
糸井 いつもは、京都にいるんですか?
白岩 京都にいます。
糸井 じゃ、京都で会いましょうか(笑)。
白岩 あ、ぜひ。
また、お話しさせてください。
糸井 こちらこそ、よろしくお願いします。
それにしても、25歳かぁ‥‥。
うちの最年少の社員より若いぐらいですね。
白岩 最年少が25ぐらいなんですか。
糸井 うん。
白岩 へぇー。
(白岩玄さんと糸井重里の話は今回で終わりです。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。)
2009-08-06-THU
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