第三回 「7666」は、90年の重み


新潮文庫は、
現在も刊行を続けている一般文庫の中では、
最古の歴史を誇ります。
創刊は、大正三年(1914)九月。
昨年9月に、90周年を迎えました。
ここは、「エヘン」と
胸を張らせていただきます。

もっとも、戦争を含め三回の休止期間があり、
便宜上、全体を四期にわけています。
第一期 1914〜1917
第二期 1928〜1930
第三期 1933〜1944
第四期 1947〜現在

第一期は、現在の文庫よりさらに小型で、
布表紙の洒落た装丁。
着物の袖に入れられるという意味で、
「袖珍本」と呼ばれたものの一種。
海外の名作を廉価で紹介するのが目的でした。
第二期は、逆に今の文庫本より大きいサイズで、
昭和初期に流行したいわゆる円本の一種でした。
第三期は、ほぼ今の文庫と同じようなラインナップで、
江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』や
岡本綺堂の『半七捕物帳』といった
大衆向け作品やノンフィクション作品など、
幅広いジャンルの書目が加わるようになりました。
そして、戦争を挟んで、
1947年から始まったのが、
現在の第4期というわけです。
しかし、
「読者に、古今東西の良書を、
 廉価(安価)で提供したい」

という目的は、創刊当初から現在まで、
90年の間、まったく変わりません。

さて、みなさん。
この90年の歴史の中で、
新潮文庫の総点数が、
どのくらいになるかわかりますか?

答えを出す前に、
この数字に注目です。



ブドウのマークの下に、
「7666」とありますね、
『オトナ語の謎。』は、
ここが「7665」です。
本屋さんや図書館など、
本がずらっと並んでいるところで
見比べていただくとよくわかるのですが、
タイトルごとに数字が違い、
シリーズものでも巻数によって
数字はばらばらです。

この番号を新潮社では
「入稿番号」と呼んでいます。
入稿というのは、
「原稿を印刷所に入れる」
ことを指す出版用語です。
つまり、この番号は、
基本的に原稿を印刷所に入れた順番なのです。

刊行順ではありません。
刊行の予定は変わることがありますし、
そもそも膨大なタイトル数を整理するには、
印刷所に原稿が入ったところから
番号で管理する必要があるのです。
(もっとも、厳密に言えば本当にこの順番に
 原稿が印刷所に入っているとも
 言い切れないのですが‥‥)

とは言っても、大まかに言えば、
若い番号の文庫は、
古くに刊行された文庫で、
数字の大きいものは、
最近刊行された文庫ということになります。


さて、それでは最初の質問、
「新潮文庫の総点数」ですが、
分かりましたか。

「えーと、今月新刊として
 出たばっかりの『言いまつがい』の
 入稿番号が、『7666』なんだから、
 多めにみて、約7700くらい?」

と考えるのが妥当のようですが。
申し訳ありません。
ひっかけ問題のようですが。
その答えでは「ブー」です。

じつは、この入稿番号がついたのは、
戦後に始まった第四期からなのです。
すでに三期までの間に、
557点を出していましたので、
現在の総点数は、

8200点超!

ということになるのです。
ちなみに、栄えある(?)
入稿番号「1」は、
戦後復活した新潮文庫から
最初に発売された本です。
それは、なんでしょう?
ヒントは、「トンネル」「国境」「雪」。
‥‥そう、
川端康成さんの『雪国』です。
今でも、本屋さんに並んでいる
新潮文庫の『雪国』の入稿番号は、
もちろん「1」です。
機会があったら、ぜひご確認ください。
2005-04-12-TUE
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