はじめての
志村ふくみ

HOBONICHIのTOBICHIで人間国宝の展覧会を。
随筆家としての志村ふくみさん。
       担当編集者にうかがいました。

TOBICHIでの展覧会場には、
随筆家でもある志村ふくみさんの著作物も
できるだけご用意し、ご購入できるようにいたします。

志村ふくみさんは、どういった文章を書かれるのでしょう。
芸術書全般の出版社、「求龍堂」さんへお邪魔して、
志村さんをご担当されている編集者、
三宅奈穂美さんにお話をうかがいました。

─── 三宅さんは、志村さんの担当になって
ずいぶん長いのでしょうか。
三宅 そんなに長くないんですよ。
2007年くらいからではないでしょうか。
ですから、7年くらいだと思います。
─── でも、7年。
そうですか。
それ以前は、別な担当者の方が?
三宅 吉田弘子という編集者が担当していました。
私の師匠です。大先輩。豪華本専門の。
─── 本棚に志村さんのご本が並べられていますが、
この中にも、その吉田様が編集されたものが?

三宅 ええ、もちろん。
順にご紹介しますと、
いちばん最初が『一色一生』。

『一色一生』
(1982年9月)
※画像をクリックすると、求龍堂さんのサイトで
 詳細をご覧いただけます(以下同)。

三宅 『織と文』。

『織と文』
(1994年10月)
三宅 『母なる色』。

『母なる色』
(1999年3月)
三宅 『篝火』。

『続・織と文 篝火』
(2004年4月)
三宅 と、ここまでが吉田の編集です。
─── 1982年の『一色一生』。
たしかこちらが最初の一冊で、
大佛次郎賞を受賞されている。
三宅 ええ。
吉田編集のこの4冊はいずれも名著です。

本が好きというだけで入って来た私は、
吉田に付いて、編集のお手伝いを続けて、
いろいろなことを学びました。
志村先生の担当を
引き継げるようになったのは、
この先輩のおかげです。

それで、
この『しむらのいろ』という本から、
私が志村先生の担当をはじめさせていただきました。

『しむらのいろ
 ―志村ふくみ・志村洋子の染織』
(2009年10月)
─── 読ませていただきました。
きれいな写真がたくさんの一冊で。

▲クチナシの実と、それに染められた絹糸。
『しむらのいろ―志村ふくみ・志村洋子の染織』より 写真:大石芳野

─── 志村ふくみさんと、志村洋子さん、
おふたりの本なのですよね。

▲これもクチナシの実。爪が藍に染まっているのがわかります。
『しむらのいろ―志村ふくみ・志村洋子の染織』より 写真:大石芳野

三宅 そうなんです。
初めての、おふたりの作品集で。
書名を『志村ふくみ、志村洋子』とするのは
なにかものたりなくて、
こう、志村工房がひとつのメゾンとなるような
言葉を探そうと思いまして、
『しむらのいろ』とつけさせていただきました。
─── 公式サイトの名称も、
「しむらのいろ」ですよね。
三宅 はい。
ほかにも「しむらのいろ」と名のつく展覧会など、
いくつかの場面で
使っていただくようになりました。
ここからなんです。
本だけではなく志村先生の展覧会のこととか、
様々なお仕事で
関わらせていただくようになりました。
ですからこれは、きっかけの言葉だと思っています。
─── 「しむらのいろ」。
ファミリーネームと言いますか、
ふくみ先生と洋子先生が
いっしょに染めて織っている景色が、
その言葉で、すっと浮かんでくる気がいたします。
三宅 ありがとうございます。
─── その後、三宅さんが手がけたご本は?
三宅 次が『白のままでは生きられない』。
これは「生きる言葉」というシリーズ。
シリーズの担当者と相談して言葉を選びました。

『志村ふくみの言葉
 白のままでは生きられない』
(2010年1月)
三宅 二十歳のふくみ先生が、
戦争中に空襲の中を逃げながら書き続けた恋物語、
『美紗姫物語(みさひめものがたり)』。

『美紗姫物語』
(2011年1月)
三宅

洋子先生の、初めての作品集、
『染と織の意匠 オペラ』。
洋子先生とアートディレクターの
柄澤齋さんにだまされて泣く泣く、
着物のモデルもしちゃいました。


『志村洋子 染と織の意匠 オペラ』
(2011年1月)

そして、学校を作られることになったので、
ふくみ先生の哲学を
ひとつにして伝えるような本をと、
『伝書 しむらのいろ』を
編集させていただきました。


『伝書 しむらのいろ』
(2013年3月)
─── 「求龍堂」さんだけでもこんなにたくさん‥‥。
はじめての人は、
どれから読むのがよろしいでしょう?
三宅 順番。
それはやはり、『一色一生』。
─── ああ‥‥まずは最初の一冊を。
三宅 他の出版社さんから出ている本も、
やっぱりふくみ先生のエッセイは
どれもすばらしいです。
会社を超えて編集者同士も
原稿のことなどなごやかにお話してます。
ただ、はじめての一冊となると
やはりこれかな、と。

『新装改訂版 一色一生』(2005年1月)
─── こちらは、新装改訂版。
三宅 文庫でもありますが、
この新装改訂版の特徴は
多くの漢字にルビがふってあるんです。

─── あ‥‥ほんとだ読み仮名が‥‥。
三宅 実際に、ふくみ先生がぜんぶ、
ルビをふっていったのだそうです。
─── はあー。
なんて言うのでしょう‥‥読みやすそうで、
本の表情が、やわらかく見えます。
三宅 そうですね。
ふくみ先生は日本語の語彙が
とても豊富な方なので、
これを読むことで
日本語についても学ぶことができると思います。
─── まさしく、はじめての人にふさわしい一冊です。

「はじめての」ということで言いますと、
志村ふくみ先生にはじめて触れる人に、
そのお人柄をひとことで伝えるとすれば、
三宅さんはどのようにおっしゃいます‥‥?
三宅 そうですね‥‥(考える)‥‥
一言で申し上げられないのはもちろんなのですが‥‥
あの、
ふくみ先生は、『フレデリック』という絵本が
大好きでいらっしゃるんですね。
─── 『フレデリック』。
レオ・レオニの、『フレデリック』ですか。
三宅 そうです、そうです。

『フレデリック
 ―ちょっとかわったのねずみのはなし』
(好学社)
著:レオ・レオニ 翻訳:谷川俊太郎
※画像クリックでamazonへ
三宅 主人公のねずみは、
色と光と言葉を集めてるんですよね。
寒くて暗い冬の日に、
みんなに楽しい時をもたらすために。

だから、ふくみ先生は、
フレデリックなんじゃないかなと思ったんです。
─── ああ!
三宅 光と色を集めて着物をつくり、
すてきな言葉を集めて本をつくる。
その「集める」ときの発見に、
心を熱くしてる方なのだと思います。
そして、
「心を熱くして生きないで何の人生か」
ということを実践してる方なのだと。

─── なるほど。
三宅 ‥‥私、うまく説明できてます?
その「はじめての志村ふくみ」というテーマで。
─── もちろん。とてもわかりやすいです。
三宅 大丈夫かな‥‥
ふくみ先生に怒られちゃうかな。
容姿のことじゃないですよ。
お美しい方ですから。
フレデリックはまずかったかなぁ‥‥。
いや。
でも、先生がほんとに好きな絵本だから。
─── はい(笑)。
フレデリック、かわいいと思います。
三宅 心が熱くなったことを
自分だけで抱えるんじゃなくて、
人にも伝えたいって思ってらっしゃる方なんです。
たとえばひとつの例でいうと、
ふくみ先生はとても字がきれいで、
手書きでこういう原稿をいただけるんですよ。
これはコピーなのですが。

─── ‥‥すごい。
熱さが伝わってくるような‥‥。
三宅 はい。
ほとんど修正なしで一気に書かれます。
─── もうひとつ、うかがいたいことがあります。
ふくみ先生がつくる着物には、
どのような美しさの特色があると思われるでしょう?
三宅 ‥‥それは、すみません。
たとえば、
「美しい『花』がある。
 『花』の美しさという様なものはない。」
という小林秀雄の言葉について、
ふくみ先生はよくお話されます。

ふくみ先生の着物の美しさの特色ですか‥‥。
私に語れることではないと思います。
的確に表現できるかどうかわかりませんので。
─── わかりました。
こちらこそ、
乱暴な質問をすみませんでした。
三宅 いえ‥‥。
‥‥あ、そうだ。
「はじめての志村ふくみ」なんだから
小林秀雄の言葉で煙に巻いちゃいけませんね。
ちょうど、その答えになる資料があります。

志村ふくみ先生はこの度、
第30回の京都賞を受賞されました。
その受賞理由を、ぜひお読みください。
今のご質問の答えになることが、
すばらしい文章でまとめられています。
─── それは、
京都賞の公式サイトなどで読めるのでしょうか。
三宅 読めます。
紬織りというのは、
昔、上流階級のものではなくて民のものだった。
志村ふくみの作品は、
日本の民衆の間で普段着として織られてきた
紬織りを芸術の域にまで高めた。
というようなことが記されています。
─── あとでしっかり読みますが、
つまり、両方なんですね。
芸術を求める人と、普通の人と。
三宅 「普通の人」というか、
日々の生活の営みを大切にすることというか。
「民の知恵」と「芸術」と両方。
でもこれは両極じゃない。

ですから、
ほんとうにふくみ先生の着物を
みなさんに着ていただきたいと思うのはですね、
平織りでつくられているんですよ。
─── 平織り。
三宅 最も原初的で根源的な織り方と言われています。
綾織りなどの、いろいろな技術を使わないで、
縦糸と緯糸のシンプルな交差だけで、
これだけの自然の景色だったり、
心象風景を織り込むことができるのは‥‥
ああ‥‥失礼。
お読みいただいたほうがいいですね(笑)。

─── はい(笑)。読みます。

それでは三宅さん、
最後に、いま編集中のご本について
お話をいただけますでしょうか。
三宅 『つむぎ おり』についてですか。
─── はい。
三宅 長くなってしまいます(笑)。
─── かまいません。
ぜひ、教えてください。
志村ふくみさんの
集大成のような一冊になるとうかがいました。
三宅 ありがとうございます。
そうですね。
『つむぎ おり』という作品集をつくっています。
2015年の春に発売予定です。

『つむぎ おり』(2015年春発売予定)
三宅 京都賞の受賞と卒寿を記念して、
ふくみ先生の集大成となる作品集を
つくらねばならないということを思いました。
それでまずは、
ふくみ先生ご自身に、
いままで織られた着物の中から
集大成に入れるにふさわしい作品を
100点ほどリストアップしてください、
とお願いしました。
─── 100点。
三宅 先生はそれを選んでくださいました。
さて、
選んでいただいた作品をどう並べるか。
どのような章立てで構成するか。
─── 編集の仕事です。
三宅 志村ふくみ先生は、
着物と、そして文章の両方がすばらしい方です。
ですから集大成となる本は、
その両方を伝える本にしなければならない。
他の作家には、できないことですから。

そういうことを考えながら、
4つの章分けで構成しました。
ふくみ先生から教えていただいた
『源氏物語の色』という
伊原昭先生の本がヒントになって
この章立てを思いつきました。
─── その、4章というのは?
三宅 第1章は、
「あはれ えまき」としました。
源氏物語をテーマにした着物の章です。

夕顔/志村ふくみ   滋賀県立近代美術館蔵
『つむぎ おり』(求龍堂/2015年春発売予定)より

三宅 『源氏物語』を学ばれているふくみ先生は、
この平安の物語を
「色絵巻」のように感じていらっしゃって、
そこからイメージを引用した作品を
何点もつくられています。
絵巻といっても人物像など具体的にではなく
形のない色のイメージの連続というか‥‥。
ふくみ先生独自の感性なのでしょうね。

そして、第2章は「にほひ しらみ」。
闇に匂いたつ光を表現した着物です。

光の湖/志村ふくみ  東京国立博物館蔵
『つむぎ おり』(求龍堂/2015年春発売予定)より

三宅 それはつまり、琵琶湖です。
先生が近江八幡の出身でいらっしゃるんですね。
なので、琵琶湖は特別な風景なんです。

第3章は「こなた かなた」。
世界の物語や詩歌を織り込んだ着物です。

マルコ/志村ふくみ  群馬県立近代美術館蔵
『つむぎ おり』(求龍堂/2015年春発売予定)より

三宅 「こちら」と「あちら」というテーマです。
今生の世界と浄土だったり、
ふくみ先生ご自身の「過去」と「現在」だったり、
「日本」と「世界」だったり。
世界の物語や詩歌に、
先生はお詳しくて、大好きなので、
そういったものの「こなた かなた」もここで。

最後、第4章は「をかし おといろ」。
色と音を表現した着物です。

イエローシティ/志村ふくみ  写真:安河内聡
『つむぎ おり』(求龍堂/2015年春発売予定)より

三宅 この章はわかりやすいですね。
様々な色と、そして音を感じる着物たちの章です。
─── 「あはれ えまき」「にほひ しらみ」
「こなた かなた」「をかし おといろ」
章のタイトルだけで、わくわくしてきます。
三宅 そしてこれらの着物たちに、
ふくみ先生の言葉がつきます。

先週の日曜日でしたか、
お電話をいただいて「書けたわ」と。
でも推敲するからもうちょっと待ってと。
─── いよいよですね。
三宅 はい。
とはいえまだまだ、
2015年の春の発売になるのですが。

でも、そうですね、完成はもうすぐです。
そして、実はこの本も、
「はじめての志村ふくみ」になるのではないかと。
集大成であり、入門書でもある本だと思います。
─── そんな『つむぎ おり』は、
TOBICHIでの会期中、
会場で予約を受け付けることにしました。
TOBICHIでご予約いただいた方には、
志村先生のサインカード入りで本をお送りする、と。
三宅 はい。
いい本になると思うので、
ぜひ、ご紹介をよろしくお願いします。
─── いえ、逆です。
こちらからお願いです。紹介をさせてください。

本日はどうもありがとうございました。
三宅 ありがとうございました。



(この特集は、もう1回つづきます)

京都賞受賞記念・卒寿記念出版
織と文の集大成

『つむぎおり』
著/志村ふくみ

A4変型 上製本 252頁(カラー228頁)輸送用ケース付
刊行 : 2015年春
定価 : 38,880 円(本体:36,000 円)
ISBN978-4-7630-1444-3 C0072

TOBICHIで予約すると、
志村ふくみさんのサインカードを
本に入れてお送りします。


「はじめての志村ふくみ。 着物から小裂から。」
会期中に、TOBICHIにてご予約を受け付けます。
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※別途、配送手数料がかかります。



2014-11-27-THU

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