Drama
一夜かぎりのくだらなさ。
清水ミチコ/リリー・フランキー/darlingの夜。

第4回 シアトル

糸井 9月には、ぼくもリリーさんも、
仕事ではない用事で
シアトルに行ってたんですよね。
リリー そうです。
糸井 あの事件が起きて、帰れなくなっても、
ぼくは日本とメールのやりとりをしていて。
それで日本から
「リリー・フランキーさんが
 シアトルにいらっしゃるらしいんですよ」
っていうメールが来た(笑)。
リリー ぼくはその頃、酔っぱらって
ホテルのベッドで
テレビつけっぱなしで寝てたんですよ。
目が覚めてしばらくは
「テレビの中で、何かが燃えてるな」
って、ただ思ってた。
何が起きてるのかぜんぜんわかんなかった。
糸井 で、そのメールに
リリーさんの泊まってるホテルの名前と
部屋番号が書いてあったんです。
もしもリリーさんが困ってるんだったら
力になれるかもしれない、と思ったんだ。
これからどうなるかわからない状態だったけど、
とにかく話をすることが
いちばん大事だと思って、電話したら・・・。
清水 うん。
糸井 この「間」で喋っていたからねえ、
リリーさん。
「あ〜。ぼくも、いるんですよね〜」。
清水 緊迫している状態なのに(笑)。
リリー 「何だか戦争らしい」って聞いて。
そしたら糸井さんから電話がかかってきた。
糸井 「・・・どうする?
 ぼくは、東京行くんだけど」
リリー 「じゃあ、そうしようかなあー」
清水 信じられないリズムだわ(笑)。
リリー 糸井さんがシアトルに
いるってわかったから、
いっしょに遊んでもらおうと思ってたんです。
だけど、しばらくしたら
連絡つかなくなっちゃったんですよ。
糸井 とにかく空港に行って帰って、飯を食ったり、
前田日明さんの愚痴を聞いたりする日々。
・・・「前田日明と葉巻はいかが?」
っていうテーマの毎日ですよ。
清水 アハハ、なにそれ。
リリー 糸井さんに
「どなたといらっしゃるんですか」
って聞いたら、
「前田日明さんといっしょなんです」って。
・・・いいなあ心強くて、と思った(笑)。
清水 いや、よくない(笑)。
そういう問題じゃない。
リリー 気分的にいいじゃないですか、
何かあったときにねぇ?
糸井 あ、それはたしかに「ある」ね。
向こうから強そうな人が歩いてきても、
よけたりする気にならないもの。
清水 うそつけ(笑)。よけるさ。
糸井 いや、不思議なもんで、
格闘家の人たちといっしょに歩いてるときって、
直進する傾向がある。直進性が高くなる(笑)。
清水 アハハハ。
リリー そうこうしてるうちに、
糸井さん、先に帰っちゃったんです。
ひとりでポツーン、ですよ。
清水 やることもないのよね。
リリー ぼくは、4日間、足どめをくったんですけど、
もう、ヒマをつぶす手だてが、
日本の空港で買った本を
ものすごく時間かけて読むしかない。

・・・その本、
夏目漱石の『こころ』なんですよ。
糸井 (笑)ハハハハ。『こころ』!
リリー 『こころ』を
アメリカの芝生の上で読んでたら
もう・・・涙がほろほろ出る。
清水 アッハハハハ。
リリー あとは、日本に電話するくらいしか
楽しみがないんです。
清水 誰に電話しました?
リリー 女の子に。
「俺はいまこんな状況になってるんだから
 さぞ心配されてるんだろうな」
って、思うじゃないですか。
もったいつけて電話したら、
向こうはすっごいカラオケの音がうるさくて。
清水 ハハハハ!
リリー 「あ? あ? どうしたの?」
なんて言われて、
ショボーンとなっちゃった。
清水 かわいそうに(笑)。
リリー そんとき、おれ
「もう、どさくさにまぎれて
 アメリカ人になってもいいな」
と、思いましたけどね。
清水 あ、いっそね。
リリー 戦争のどさくさにまぎれて
その国の人になる人って
けっこういるじゃないですか。
糸井 「いいや、どうでも」ってね。
でもリリーさんは結局、居場所があるから
日本に帰ってきたんですね。
リリー そうなんです。
ほんとはあと10日間くらい、シアトルに
長居しなきゃいけないはずだったんです。
でも、人びとがみんな、
空港に列を作ってるのを見て、
俺も真似して並んでみた(笑)。
そしたらツルッと乗れてねぇ。

2002-01-25-FRI
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