味わい深い山形県を経て、
今度は遠くに跳んでみたい
「みうらじゅんに訊け!」です。
しかし、県の「語り地図」は
つながる運命にあるようでした。
岩手県 ブームの条件を満たす南部鉄。
みうら
ぼくはわりと日本海側が好きなんですよ。
(県のくじを引く)
今回は小さい県はやめて、
中くらいので‥‥よし、この県で行こう。
ほぼ日
太平洋側です。
北海道に次いで2番目の大きさを誇る、
岩手県です。
みうら
岩手県と言えば、リアス式海岸ですね。
ぼくは、いまから6年ほど前に
何かピーンと来まして、
湾ブームが来る、と言ったことがあります。
ほぼ日
湾、ですか。
みうら
「わん」という響きも、いいじゃないですか。
「湾」と書こうと思って
「港」と書いてしまう
人、いるでしょ。
ほぼ日
はははは。
みうら

人は意外と「港」は書くけど
「湾」はあまり書いていない場合が多いんです。
きっと日本の80パーセントくらいは
義務教育以降、「湾」を書いていないでしょう。



これが「湾」です。
角度が開いた場合には
「灘(なだ)」になります。




岩手県のリアス式海岸のあたりに行くと
「湾! 湾! 湾! 湾! 湾!」
と、なっています。
岩手県はわんこそばもありますもんね。
やっぱり、湾文化なんですよ。
ぼくは車の免許は持っていませんが、
海岸沿いを車で走ると、それはもう
「あ・湾! 湾! 湾! 湾! 湾!」
と、続いていきます。
そんなに「湾」を体験できるところは、
日本では岩手県しかありません。
あとね‥‥あれなんですよ、
ええとね、ちょっと待ってくださいよ。


ほぼ日 (ひそひそ)中尊寺とか‥‥
みうら
あ、そう、中尊寺!
中尊寺は、やたら広いんです。
これは、覚悟したほうがいい。
ほぼ日
うーん、あまり広いイメージは、ないんですが。
みうら

そうでしょう。例えば、奈良の東大寺は
みなさん、広いと思っています。
それはなぜかというと、大仏が大きいからです。
あんな大きい方がおられるということは、
当然、家も大きいじゃないですか。
中尊寺の金色堂は
そんなに大きい建物ではありません。
なのに、中尊寺の境内は、やったら広い。
中尊寺は、説明が難しいんですよ。

ほぼ日 中尊寺の‥‥説明ですか?
みうら

そうです。
あのね、これ。




みなさんは知っているかどうか
わかりませんけれども、
これは朱印帳といいます。
お寺の人に、
朱印というハンコを押してもらって、
ご本尊と日付、お寺の名前を書いてもらう
ノートのようなものです。
いまぼくは、
「中尊寺は、なめられないよ」
という話をしています。

ほぼ日 はい、はい。
みうら 難しいんですよ、この話は。
中尊寺があなどれないのは、
「朱印が1個じゃない」というところです。
朱印は、お布施という意味あいもあって
スタンプを押してもらい、一筆書いてもらうと
300円します。
これはもう、相場が決まっています。
ただ、中尊寺にはね、
金色堂とか、弁天堂とか、なんとか堂とか
「堂」がものすごくたくさんあるんです。
それぞれの小さいお堂ひとつにつき1朱印、
あるわけです。
ほぼ日 あ、なるほど。
みうら

朱印帳を買って境内をぐるぐる回ると、
スタンプラリーのように、
朱印が待ち受けているんです。
全部回るとたぶん
10個以上あるんじゃないでしょうか。
ここでまぁ、おわかりになると思いますが、
単純計算で、3000円です。
はじめは300円くらいだな、と思っていたものが
かさんでくるということは、
つまり、冷や汗かくわけですよ。
ぼくは朱印マニアであることを
公言していましたので、
誰かといっしょのときは
たとえリピーターとして行くときでも
毎回朱印を取り直していましたが、
中尊寺だけは、クラッとくるんです。
お寺に行きなれてない人は
わからないかもしれないけども、
気をつけてもらいたいと思います。

ほぼ日 は、はい。
みうら 好きなお堂に狙いをつけて行く、とか、
次来たときにはこのお堂で、とか、
そうしたほうが楽しみが増えるでしょう。
だから、岩手県は1回で行ってはいけない、
ということですよ。ね?
ほぼ日 なるほど。
で‥‥。
みうら

ちょっと待っててもらえます?
ちょっと待っててもらっていいですか?
(「勝手に観光協会」の
 歌詞カードを盗み読む)


ほぼ日 (これはカンニングでは‥‥)
みうらさん、どの県の解説も
毛穴から自然にパーッと出てくると、
おっしゃっていたような記憶が。
みうら

いやー、出ます出ます、出ますよ。
‥‥ハッハーン。
わかりました!
ここには何のヒントも隠されてなかったです!
おれは、岩手は行きすぎてて、
わからない!

ほぼ日 はははは。
みうら あ! そうだそうだ、岩手と言えば、
やっぱり南部鉄ですね。
南部鉄で最も有名な産物は、鉄瓶です。
しかし、それだけじゃどうだろうということで、
南部もいろいろやっていくわけですよ。
「いま、修学旅行生には
  これがいいんじゃないか、
 若い人にはこれがいいんじゃないか」
そういう企画会議があったんでしょう、
そこでがんばって作った
南部鉄を見ていただけますか。
ほぼ日 はい。
みうら

ぼくはこれをヌーセンと呼んでいます。
南部鉄でできたヌード栓抜きです。
「抜くとこ、ないんじゃない?」
という声も聞かれる昨今ではありますけれども、
南部鉄コーナーには必ず、
ヌーセンがあるんです。
このヌーセンは、ここをひっかけて抜くんだけど
けっこう難しいですよ。




これは、殿方にウケるだろうということで、
製造されたものだと思います。
しかし、やはり若い人にも
ウケていこうということで、
また、いろいろな会議があったんでしょう。




これが入った箱には
「栓抜き野球少年」と書いてありました。
この、歯のすけた感じのところで
抜いていくんです。
このような南部鉄も、いま、売り出しています。

ほぼ日 抜くものもない、しかも抜きにくい。
何重にも苦悩が押し寄せますね。
みうら そして。
ほぼ日 まだあるんですか。
みうら

ぼく、いっとき牛が好きで
牛グッズを集めていたんです。
あれはたしか、4回目に
岩手県に行ったときだったでしょうか。
これが出ました。




南部鉄のホルスタインです。
これに1万5千円の値段がついていました。
うちは別にお肉屋さんではありません、
ただ、牛が好きなんです、ということを
いっしょうけんめい伝えて
1万3千円にしてもらいました。

ほぼ日 すごい出費ですね。
これ‥‥南部鉄なんですか。
みうら はい。とても重いです。
ほぼ日 (持ってみる)お‥‥重!
みうら ええ。これが急須であれば
実用性はあるでしょう。
しかし、いいですか、このように
何の実用性もないところ
「粋」や「おしゃれ」はあるのです。
いま、若い人たちは
実用性のあるもの、
臭いがしないもの、
かさばらないものを
「おしゃれ」としていることでしょう。
しかし、これからは、
南部鉄のホルスタインのような
まったく実用性のないものを
街で持ち歩いたりすることがブームになります。
ほぼ日 はあ。
みうら 時代は、繰り返しです。
その条件を満たすのは
南部鉄であると言っていいでしょう。
これは、やたら重いですから。
いまはペットボトルだって、
カバンのなかがくしゃくしゃにならないように
薄型が発売されたりしています。
これ(鉄の牛)、カバンに入れてみなさいよ。
ほぼ日 ははは。
みうら 岩手県はね、そういうことを
我々に教えてくれているんです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

中尊寺のスタンプラリーに潜む
お財布の危機、
南部鉄が示唆する
智慧の結集とトレンド。
みなさん、岩手県から教わったことを
リアス式のようにくり返し胸に刻み、
この1週間を乗りきっていきましょう。
来週の日曜日、
また次の県に移ります。おたのしみに。
2007-09-30-SUN
 
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい岩手県ご当地ソング
「岩手でガスガスガス」を
どうぞお聞きください。