CHABUDAI
チームプレイ論。
『ニッポンの課長』から見る仕事と組織。

第16回 職人の技術は、
仕事のほんの一部?

糸井 自前のメディアを持つことって、
趣味の釣りをしていて、思ったんですよ。

魚を釣るための手先の技術がいくらあっても、
魚のいないところでは絶対に釣れない。
結局は、釣りって、
「どこに魚がいるか」
を探る情報戦争になるんですね。

魚がいたとしても、
沢山の人が群がっている場所では
釣れなくなるわけですから。

そういうことに触れていると、
今まで、いかに自分が
何も考えていなかったかに気づいたんです。

「コピーが上手だ」なんていう職人の技術は、
仕事をするという大きな枠のなかの
ほんの一部なんです。


他の、ものすごく大切なところを、
ぼくは、コピーだけをやっていたときには、
人に任せていたんだな、と気づきました。

だったら、
「コピーだけじゃ、売れねぇな」と。
どんなに腕がよくても、
ヘンな場所でクジラを釣りあげることは
不可能だから。

そういうことは、
釣りしてるときに、いろいろ考えてました。
 
重松 そうすると今度は、
糸井さんは自前のメディアを作って、
そのメディアを支える組織を
作らなきゃならなくなる。

そこと、今までの職人仕事との、
いちばんの違いって、なんでしたか?
ラクになった部分とか、
逆に背負わなければ
いけなくなっちゃったものとか……。
 
糸井 最初には、
背負わなければいけないっていうおそろしさを、
強く感じました。

どうしても、はじめは、
親鳥とひな鳥みたいな関係でやっていくしか、
しょうがないですから。

自分のイニシアチブで動くぞ、
と言っているぼく自身が、
よそのイニシアチブで動く仕事をして、
まずはエサを捕ってこなければならない。

そうしなきゃならないときには、
ゲームソフトの印税だとかは、
バカにはならなかったですね。

広告の仕事にしても、
印税に近いような決裁のできる人と組んで
仕事をする、ということを
発明しなきゃならなかった。

オッケーしてくれる会社であれば、
代理店をとばしてそういう仕事ができるんです。
それをできるようになってからは、
ラクになりましたけど、途中では、
「収入源、ないぞ」って思っていましたから。

いよいよタイヘンかもしれないな、
というときには、
「人件費を削減しろ」という声も出てくるんです。
 
重松 エンゲル係数が高いわけですね。
 
糸井 ええ。
そういうときの「人件費削減」の声って、
こちらが貧していますから、
すごい説得力があるんです。

ただ、ほんとうに経営のできる人に、
別の話で会ったときに、こう言われたんです。
「あのね、イトイさん。
 イトイさんの会社って、
 知恵を売る会社ですよね?
 知恵を生み出す原料って、人間ですよね?
 その原料費を下げろっていう話は、
 ぜんぶまちがっています」
と。
 
重松 へぇー。まさに「人が資本」ですよね。
 
糸井 うん。
人件費を削ってはいけないって、
言葉としてはわかっていても、
具体的に追いつめられていたら、
見失っちゃうじゃないですか。

その言葉を聞いた後、
ぼくが具体的に何をしたかというと、
別に何もしていないんですけど、ただ、
「貧して鈍するという流れの中には、
 入っていかないようにしよう」

と、決意だけはしたんです。

だから、バナー広告はしないし、身売りもしない。

もちろん、当時はそれが主流ですから、
いよいよ苦しいし、
いつ潰れるかは知らないんですけど……
でも、ますます、バナー広告に
象徴されるようなことをやめてやれ、
と思ったとたんに、
気持ちが、ものすごい元気になったんです。

バナー広告や身売りに動けば動くほど、
それまでの自分のやってきたことが
まちがいになりますよね。

でも、そんなはずはない、
っていう気持ちがありました。

「ほぼ日」のおおもとの理屈っていうか、
唯一のロジックは、
「祭りを作ったら、焼きそば屋でも商売になる」
ということですから。
にぎわいの中には、チャンスがある。

どこまでも人が寄ってくるようなことを、
命がけででもやれば、ヨーヨー釣りだろうが
金魚すくいだろうが、だいじょうぶ、と。
 
重松 興行屋、ですよね。
 
糸井 そうです。
その上に、いい商品なんかを
販売すればいいわけで。
それで、今はもう、
うまくいっているんですけどね。
 
  (次回に、つづきます!)


『ニッポンの課長』

2004-02-21-SAT

BACK
戻る