逃避めしを作り続けてきた仕事場との別れが近づいている。
育児のため、自宅と仕事場を統合するのである。

すでに電子レンジは人にあげた。
今後使いそうもない食器や、調理用具や、
たくさん貯めこんでいた佃煮などの空きビンを捨てた。
もう基本調味料と、コメ、納豆ぐらいしか
入っていない冷蔵庫も、やがてどこかにもらわれていくか、
処分されることになる。

仕事場で手のこんだ逃避めしを作ることはもうない。
ないが、限られた食材を使い回す喜びがまだ残っている。

【材料】
・コメ
・納豆
・味噌(中辛口の仙台味噌)
・乾燥九条ネギ、かつお節、海苔
・醤油

乾燥ネギを大さじ一ほどの水で戻し、
味噌をとき、納豆、削り節を入れてかきまぜる。
茶碗の底に、ごく少量の醤油をたらし、
その上にごはんをよそう。

味噌で味つけした醤油は、味見すると、
今まで日常的にやらなかったのが嘘のような、
普通のうまさだ。
でも待てよ。
おいしいのだが、醤油の味を思い出し、
さびしくなる瞬間があるのではないか。
けっきょく「やっぱ醤油だよな」という結論に
なるのではないか。
それほどまでに納豆と醤油は深い絆で結ばれている。
数秒考えたのち、茶碗の底に醤油を忍ばせた。

最後に口に入ってくる、醤油がしみたごはんの喜び。
「おおっ!」
と、思わず頬がゆるむ、安上がりなサプライズ。
思いついた自分の軍略を絶賛したい、
すばらしい伏兵であった。

2010-03-18-THU
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