ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2009/12/24

【30】美術館で「RC作製SHOW!」


■人知れずスゴイものをつくっている人たち

岡さんの蟻鱒鳶ルが、なんと美術館に登場です。

広島市現代美術館で開催中の
「一人快芸術」という企画展で、
自分ひとりの楽しみのために、
人知れず何かスゴイものをつくってしまっている人々が
集められています。
美術館という制度に乗っかってつくられる作品よりも、
はるかに面白いモノが世の中にはたくさんある。
それに目を向けてみようというのが、
企画者の考えのようです。

登場するのは、ほとんどがいわゆる
美術作家とは異なる人たちです。

知的障がいをもった人、
いわゆるアウトサイダーアートの作家がいます。
駅の案内表示をガムテープによる
美しい書体でつくっている警備員がいます。
島の町を写真に撮り続け、
40万カットもの写真を記録として残してきた
学校教師がいます。
伝統行事でありながら現代美術と見まごう
斬新な造形物をつくっている
平田一式飾のグループがいます。
この連載の前回記事で紹介した
沢田マンションも紹介されています。

これらに混ざって、
自分のおじいさんの写真を撮り続けてきた梅佳代さんや、
自画像を毎日、その日の新聞に描き続ける
吉村芳生さんのような有名アーティストもいます。

その中の一人として、岡さんが参加しているのです。

美術館の大きく真っ白な展示空間。
ここでいったい何を表現すればいいんだ?
岡さんはこの展覧会の話が持ち込まれてから
ずいぶん悩んだそうです。
その時にはたと気付きました。
自分は街にさらされながら
厳しい条件でものをつくってきた。
だから、いまさら美術館という柵の中でつくる時に
ビビることはない。
それでエイヤッと決めた展示テーマが、
名付けて「RC作製SHOW!」。
現場は舞台、働く人はパフォーマー。
建築をつくる面白さを伝えることを使命とした
ロックンロール・ショー‥‥ということだそうです。

■旅をする建築部品

展示室の床上には、
鋼管足場に取り付けられた3つの作品が置かれています。
岡さんによると、これは「広島三部作」という
位置づけだそうです。


▲「広島三部作」の前に立つ岡さん。

その1は「鹿ちゃんアンテナ」。
岡さんが以前に宮島を訪れたときの思い出は、
鹿に追いかけ回されたこと。
そのツノの形を模したものです。
現在は型枠だけがあり、これに今後、
コンクリートが流し込まれて完成。
できあがった物は、蟻鱒鳶ルの
てっぺんに取り付けられる予定です。

その2は「原始力ドーム」。
原子力ではなく原始力です。
楕円の形は、原爆ドームを下から見上げた時の情景が
再現されたもの。その周りには、
ペットボトルにコンクリートを詰めてつくった
こけしのような「ペッコン」がたくさん並んでいます。
この部分は部屋からの脱出口になるそうです。

その3は「雲形照明」。
広島の名物といえばお好み焼きですが、
これは型枠を用いず、
お好み焼きをつくるように鉄板の上に
コンクリートを垂らして、
コテで形を整えてつくったもの。
蟻鱒鳶ルの地下室の天井に設置される予定とのこと。

これらは東京でつくられ、
岡さんが乗るトラックで運ばれて、
広島にやってきました。
そして、この美術館で2カ月間展示された後、
再び東京に戻されて、
蟻鱒鳶ルの建物の一部として使われます。
「建築の部品なのに旅をしているんですよ」
と岡さん。なるほど。

■ル・コルビュジエも「がんばれよ」

一方、壁面の方には、
工事の様子を撮影した写真がずらりと並び、
それに岡さんがマーカーで
大きな文字を書き加えています。
その右端では、「建築がんばれよ!」と
叫んでいるオジサンの似顔絵が。
建築の巨匠、ル・コルビュジエその人でありました。

展示の一画には、テレビモニターも置かれています。
再生しているのは、今回の展示のために
工事現場を撮影した30分のビデオ映像で、
コンクリート打設の様子がよくわかります。

展示全体から、岡さんの仕事ぶりと人柄が
よく伝わってくるものになっていますので、
会期中にぜひ足を運んで下さい。
2月には、岡さんといっしょに
コンクリートを打設するワークショップ
「RC作製しよう!」もあります。
広島近辺の岡さんファンは、本人に会えるチャンスです。


▲アーティスト・トークでは
来場者の前で、蟻鱒鳶ルを説明。

「一人快芸術」

会場:広島市現代美術館
会期:2009年12月19日(土)〜2010年2月21日(日)
開館時間:10時〜17時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日および年末年始12月28日(月)〜1月4日(月)
※1月11日(月・祝)は開館、1月12日(火)は休館。
観覧料:一般 910円、大学生 680円、小中高生 450円
主催:広島市現代美術館、中国新聞社
後援:広島県、広島市教育委員会、
広島エフエム放送、尾道エフエム放送

参加作家:
梅佳代、大段徳市、岡啓輔(蟻鱒鳶ル)、
岡本明才、佐藤修悦(修悦体)、
沢田嘉農・裕江(沢田マンション)、杉本春奈、
武田憲昌、ともひろ、並木運美、西山友浩、
平田一式飾、ひらた蓮の会、宮間英次郎、村上多美、
森謙次、山下陽光、山本尚志、吉村芳生

※岡さんによるコンクリート打設ワークショップ
「RC作成しよう!」も開催されます。
2月13日、14日/ガイダンス、型枠作成、コンクリート打設
2月20日/型枠取り外し、完成
ワークショップ参加には事前申込みが必要です。
申込み方法は広島市現代美術館の
ウェブサイトを見て下さい。
http://www.hcmca.cf.city.hiroshima.jp


▲展覧会の会場となっている広島市現代美術館。

 

 
 
ご感想はこちらへ もどる   友だちに知らせる
©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.