ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2009/09/04
 

【28】藤森照信さんの本に登場!


藤森照信さんのことはご存じですよね?

建築の歴史を専門とする大学教授として
数々の建築本を執筆すると同時に、
「高過庵」や「ねむの木こども美術館どんぐり」
といったユニークな建物を設計する建築家としても
活躍する才人です。
その藤森さんの著書が、この夏にまた出ました。
『藤森照信 21世紀建築魂
 〜はじまりを予兆する、6の対話』

(発行:INAX出版、定価:2100円+税)
というタイトルで、藤森さんが注目する若手建築家
6組との対談が収録されています。
その対談相手の一人として、岡さんが登場しています。
藤森さんが、新しい建築を切り開いていく
建築家の一人として岡さんを指名し、
対談が実現したのです。
岡さん以外の対談相手は、
建築界で既に評価を得た建築家ばかり。
そこに自分を含めてくれたことを、岡さんは
「こんなに光栄なことはない」と喜んでいます。


▲藤森照信さんの新刊を持つ岡さん

この本には、有名な建築写真家の藤塚光政さんが撮った
蟻鱒鳶ルの現場写真もたくさん載っています。
ぜひ手に取って見てください。
というわけで、ここでは本に収録されなかった
こぼれ話を拾っておきましょう。

■「え、もう帰っちゃうの?」

対談は蟻鱒鳶ルの工事現場で行われました。
藤森先生を迎える岡さんは、前の日から大興奮でした。
「『よぉし』という感じ。
 僕のもっている建築への熱い思いを
 すべてぶつけてやろうと、
 ひとりでヒートアップしていました」

当日、やってきた藤森さんは、まず現場をひとめぐり。
それからいよいよ対談が始まります。
とりとめのない雑談から始り、1時間ほど経って、
ようやく舌慣らしが済んだかなぁ、と岡さんが思うころ、
藤森さんはさらりとひとこと。
「じゃあ、帰ろうかな」

ええっ、一日中ここにいて、
僕と建築について熱く語り合ってくれるんじゃないの?
まだ、何にも話し合ってないのに!

岡さんは焦りましたが、もうしょうがありません。
岡さんは、その日、ちょっと落ち込みました。

でもでき上がってきた原稿を読むと、
藤森さんは聞くべきところは
しっかりと聞いてくれている。
「ちゃんとダンドリを考えてくれていたんだな」
とホッとしたそうです。

本を読んだ友人からは、
「ほかの対談者と比べて、岡くんだけオドオドしている。
 もっと堂々としろ」としかられたそうです。
岡さんは、確かにそうだなあ、と認める半面、
しかたないよな、とも思うのでした。

「だって僕の建築はこの蟻鱒鳶ルが第一作目だし、
 それすらまだ出来上がっていないんですよ。
 自信がもてなくても当然でしょう」


▲建物の工事は道路を見下ろす高さまで進んでいる

■出会いは5年前にさかのぼる

逆に言えば、何の実績もない岡さんを
拾い上げた藤森さんがいかにスゴイか、
ということでもあります。
実は藤森さんが岡さんを高く評価したのは、
今回が初めてではありません。
「SDレビュー」という、
計画段階の建築案を審査するコンテストが
毎年、行われているのですが、その2003年度の回に、
岡さんは蟻鱒鳶ルの計画を出しています。
300余りの応募作の中から、蟻鱒鳶ルは見事に入選。
その時の審査員の一人が藤森さんでした。
しかも藤森さんは、岡さんの案を
個人的にも高く評価して、
独自の〈藤森賞〉を授けています。
「これは凄いやつ出てきたと思った」
と、当時のことをこの本の中で振り返っています。

それから5年が過ぎましたが、
藤森さんは蟻鱒鳶ルのことを忘れはしませんでした。
そして実際に工事を見に来てくれて、
大絶賛とまではいかなかったけれど
(だってまだ完成までほど遠いですから)、
「この現場を見れば大丈夫」と言ってくれたのでした。
当代きっての建築史家からも、
注目を浴びる岡さんなのでありました。


▲2階へと上がる階段もできつつある

 
 
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