ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2007/03/01
 
【19】材料を調達するあの手この手。



地上部から地下を見る。
(クリックすると拡大します)

建築専門誌の記事で建物が紹介される場合、
たいがいはその建物の設計者と
施工者の名前が大きく表記されます。
蟻鱒鳶ルでは岡さんが設計者であり、
施工者でもあります。
しかし岡さんのかかわり方は
設計と施工にとどまりません。
たとえば材料の調達も、大事な仕事です。

日本では建設工事は
建設会社が請け負うというのが常識でした。
たとえ住宅の規模でも、
岡さんのような個人が建てることには、
社会のシステムが対応していません。
材料を購入しようと思っても、
個人の小口注文は相手にしてくれず、
苦労することがしばしばです。

■ホームセンター勝手に作業場計画

岡さんが建築材料を調達するのに愛用しているのは、
ホームセンターです。
最近ようやく日本でも、巨大なホームセンターが
あちらこちらにできてきました。
こういう店舗では、倉庫のような広い空間のなかに、
ありとあらゆる建築関連商品が並んでいます。
釘や工具といった小さなものから、
材木や鉄筋など大きなものまで、
たいがいのものが揃うのです。
日曜大工の人もプロの職人も、
ここでは平等に建築材料を手に入れることができます。

ホームセンターはもともと米国で広まった業態です。
これは米国では建物を建てることが、
やろうと思えば誰にでも
できるものになっていることを意味します。
一方、日本ではそれが専門家に独占されていました。
しかし、本来、建物をつくることは
すべての人に開かれているべきです。
少なくとも岡さんはそのように考えています。

材料の値段も、通常の請負工事だと
工事費と一体のものとして示されたりするので、
不透明です。
建設費を下げるために、どの材料を落とせばいいのか、
なかなかわからない仕組みになっているのです。
しかし、ホームセンターなら、
すべての材料が値段を表示した形で並んでいます。
これなら素人でも、自分のフトコロと相談して
必要なものだけを買うことができます。
誰もが建物づくりにかかわる世の中にするためには、
こうしたオープンな仕組みが欠かせません。

岡さんが日頃、愛用しているのは
埼玉県にあるホームセンターです。
岡さんは月に何度か、掘り出した土を埼玉県まで
2トン車のトラックで運び出しています。
その帰りに、ホームセンターに寄って材料を買い、
トラックに乗せて帰ってくるのです。
鉄筋だと30本で一束になっています。
これを4束ずつ買って運んでいます。

最近は新しいホームセンターの利用法も身につけました。
地下鉄に乗って都内のホームセンターに行き、
鉄筋を買ったら、その場で備え付けの工具を使って
必要な寸法に切断しまうのです。
切断した鉄筋は、無料で貸してくれるトラックに載せて
現場まで運びます。
名付けて「ホームセンター勝手に作業場計画」。
雨の日にやれば、屋根の下で作業できるので快適です。

■産地がはっきりした材料を

ホームセンターが便利とはいえ、
そこですべての材料を調達できるわけではありません。
たとえば、コンクリートの材料となる砂利です。

砂利なんてどれもいっしょと思われがちですが、
実は採れる場所によって微妙に違います。
尖った砂利もあれば丸い砂利もありますし、
水の吸いやすさもいろいろです。
性質が微妙に違うのです。

岡さんは蟻鱒鳶ルの工事にぴったりの砂利を、
コンクリートの専門家のアドバイスを得て発見しました。
扱っているのは、ちょっとこだわりのある生コン屋で、
そこから分けてもらう予定です。

一般に東京で行われる建築工事では、
千葉県から運び込まれた砂利が使われることが
多いのだそうです。
「でも実際はどこで採れたものかはわからないんですよね。
 中国から砂利を船に積んでもって来て、
 千葉県の港に着いたものが使われているという
 噂もあります。本当の産地がどこなのかは、
 だれにもわからない」と岡さんは言います。
「産地のはっきりした材料がいいな‥‥」

最近はスーパーマーケットに行くと
生産者の名前が付いた野菜が売ってたりしますね。
そういう野菜は少し値段が高かったりしますが、
つくり手が品質に自信をもっていることが
わかって安心して買うことができます。
建築材料も同じようなものなのかもしれません。


地上部につくられたミニ倉庫。
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