ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/12/06
【16】ひとりでニヤニヤする。



地下工事現場の様子
(クリックすると拡大します)


この11月末で、着工してから1周年を迎えました。
工事はまだ地下の構造体をつくっている段階ですが、
着実に進んでいます。
岡さんの思想と行動に共感して、
手伝いにくる人も増えてきました。

「気がつくとひとりで
 ニヤニヤしていることがあるんですよね」
と岡さん。
工事を始めたころは
「本当にできるのだろうか」
と不安でいっぱいだったそうです。
人前ではそれを押し殺して作業を進めていましたが、
内心では怖くて
逃げ出したくなることもしばしばでした。
その不安は今でもなくなったわけではありません。
が、ここにきてようやく、
不安の総量と希望の総量で
バランスがとれるようになってきました。
そして時には、
希望の方がちょっと多くなっているのだそう。
そんなときは、
岡さんの口元も自然にほころんでしまうのです。

これまでの自分を振り返ると、
岡さんはつねに自信がなかったと言います。
心臓病を患って生まれてきて、
いつ死ぬともしれない少年時代。
そのうえ、
絵を描くのが好きにもかかわらず色弱で、
色の使い方がヘンだとなじられてきました。
おどおどしっぱなしの人生だったと言います。

「それが最近は、
 他人から『自信にあふれていますね』
 と言われるんです。びっくりしました」

蟻鱒鳶ルの工事が順調に進み、
様々な人が応援してくれていることが、
どうやら岡さんを変えつつあるようです。


■遠回りだが必要な作業


組み立てられた鉄筋
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それなりにうまくいっている工事なのですが、
一直線に躯体が
できていくというわけではありません。
直接は建物の工事と関係のない、
その周りの仕事に追われる日々でもあります。
たとえば、
敷地から出てきた大谷石を
地下に降ろしたり、揚げたり。
建設工事用のクレーンがあれば
すぐに終わるのでしょうが、
岡さんの現場では、どうやって石を降ろすか、
その方法を考えるところから
始めなければいけません。
滑車を使おうと決めると、
それをホームセンターまで買いに行きます。
そのために
原付バイクをメンテナンスすることも欠かせません。

掘り出した土や廃材を
トラックに積んで運ぶのも必要な仕事です。
トラックに荷物を積むためにロープを結びますが、
その結び方がわかりませんでした。
本を買ってきてロープの結び方を調べました。

「遠回りだなあ、と思うこともあります。
 でもすべて省くことができない
 大事な作業なんです」


■ひとりでつくっているわけではない。

岡さんが蟻鱒鳶ルをつくっていて、
気付いたことがあります。
それは建物を建てるためには、
実に多くの人がかかわっているということです。
岡さんがかつて働いた工事現場でも、
大工や鉄筋工などのほかに、
足場を組む人、掃除をする人、警備をする人、
事務をする人などといった様々な人がいました。
そうした人たちの存在意義について、
あらためて考えさせられたのでした。

「大工や鉄筋工として働いていたときは、
 現場監督って何のためにいるんだろう、
 と思っていたけど……」

岡さんは、
そうしたいろいろな役割を
すべて自分でこなしながら、
ひとりでつくることの大変さを
噛みしめているのでありました。
同時に、建物を実現するために
知恵を貸してくれる人や、
工事を手伝いに来てくれる人のありがたさも。

「連載のタイトルは
 『ひとりでビルを建てる男」
 となっていますけど、
 実際には決して
 ひとりでつくっているわけではないです。
 多くの人の協力があって、できるんです」

岡さんは今、しみじみと謙虚に、そう思っています。


暖をとるための木炭コンロ
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岡さんのプロフィール
磯さんのプロフィール

【磯さんの新刊を紹介します】

『昭和モダン建築巡礼 西日本編』

昭和モダン建築って何? と思われる方も
多いかと思います。
大事にされている建築物と言えば、
お寺とかお城? そして、明治時代の、
赤レンガや西洋建築もの‥‥。
保存運動が起こって移築されたりしているのに、
昭和モダン建築はどんどん古くなって壊されるばかり!

何でもとっておけばいいというものではありませんが、
せめて写真ででもきちんと保存しておかなければ、
建築の歴史そのものがプツンプツンと切れてしまいます。
そういった意味でも、この本は
大変意義のあるお仕事なんです。

(さらにくわしくは、こちらをごらんくださいね!)

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