ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/10/04
 
【10】工事はいつ完成するのか?



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蟻鱒鳶ルの地下工事に取り組んでいる岡さんが
今、一番心配しているのは梅雨のことです。
雨が降ると思わぬところから水が出てきたりしますから、
大雨に降られる前に
地下の工事を終わらせたいというのが岡さんの願いです。
果たして天は、岡さんに味方してくれるでしょうか。
今後の工事の順番としては、
まず鉄筋コンクリートの躯体を建ち上げます。
躯体(くたい)とは、設備の工事や仕上げを行う前の、
“素”の状態の構造体のことです。
蟻鱒鳶ルでは、仕上げのことは決めないままで
躯体をまずつくって、
できた躯体を眺めながら
仕上げや造作のことを考えようとしています。

■2年間で完成させたい、その理由

さて、気になるのは工期です。
この建物はいつ完成するのでしょうか。
岡さんに尋ねると、口をモゴモゴさせます。
「計算したこともないですから、
 はっきりと言えないんですよね。
 まず地下工事がいつまでかかるかわからない。
 それが終わってしまえば、
 躯体の打設工事に1年ぐらいかな、どう思う?」
「そんなにかかりますかねえ」
答えたのは工事の手伝いに来ていた藤巻さんです。
「半年で躯体はできるよ、
 と言ってくれる人もいるんですよね。
 こんな小さい建物で、1年もかかるわけないよと」
いずれにせよ、よくわからないようです。
通常の建設工事なら、工程表というのをまずつくります。
躯体工事はこの月までに終わって、
そこから設備や仕上げの業者が入って、
などと工事の順番とスケジュールを決めたものです。
これがないと、いろいろな業者が分担してやっているので、
工事がめちゃくちゃになってしまいます。
でも、セルフビルドの岡さんは、
そのあたりも成り行きまかせです。
「地下工事を別にして、躯体1年と仕上げ1年、
 合わせて2年でやり遂げたいです。
 そうすれば、このやり方でほかの人の家も
 つくれるんじゃないかと思うんです。
 5年はかかりますでは、頼む客はいなさそうだけど、
 2年ならね」。
岡さんが言うのは、その家がいったい
何年使えるのかを考えてみたらどうでしょう、
ということです。


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聞くところによると、大手住宅メーカーの家ですら
30年ぐらいしかもたないそうです。
岡さんが建てる家は、その2倍はもつ自信があります。
それを思うと、2年ぐらい余計にかかっても、
確かにたいしたことはありません。
「この建設方法を、自分の家だけで
 終わりにするつもりはありません。
 次につなげていけそうな気がするからこそ、
 やっているんです」

■もうひとつの期限も

工期に関しては、もうひとつ大きな問題が‥‥。
実は今、岡さんたちが住んでいるアパートメントが、
あと3年後に取り壊されてしまうのです。
それまでには新しい家が完成して
住めるようになっていないと困ります。
「もしそのときまでにできていなかったら、
 オレひとりだったら工事中の家だって住めるけど、
 妻が困りますよね。
 何を言われるかわからない。あぁぁ」
なぜか頭を抱える岡さんでした。


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写真=丸井隆人
 
 
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