ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/09/06
 
【6】法律的に問題はないのか?



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こんな建設工事を岡さんがひとりでやっていいの?
と疑問に思っている人もいると思いますので、
このあたりで法律にかかわる話を
クリアにしておこうと思います。


■建設業の許可はもってないけれど‥‥

まずセルフビルドに関する問題です。
建設工事を業として行うには建設業の許可が必要です。
このことは建設業法という法律で決められています。
ナントカ建設とかナントカ工務店とかいう
工事業者はもちろんそうした許可を
もっているわけですが、
岡さんは建設業の許可をとっていません。
それでいいのか、という話です。
まず、建設業法では工事金額が
1500万円未満の軽微な工事の場合、
許可は必要ないことになっています。
蟻鱒鳶ルの場合、岡さんによれば
「1500万円未満でいけるでしょう」
ということなので、オッケーということになります。

それにこの建設工事の場合、
岡さんの自分の家が工事の対象ですから、
誰かのための建設工事を業として
請け負うということでもないわけです。
そもそも建設業法というのは、
悪質な建設業者から発注者を守ることを
ひとつの目的としてつくられた法律です。
なので、発注者が建設主体でもある場合のことは、
そもそも考えていないというのが正直なところでしょう。
岡さんに言わせれば
「白川郷みたいな古い集落では
 家の工事を業者が行うのではなくて、
 近くに住んでいる人が
 総出で手伝いながらやってますよね、
 ああいうのと同じだと思うんですけど」


■設計が変わったら申請を出し直せばいい

一方、設計の方はどうか。
現在の建築基準法では、
これから建設しようとする建物に関して
設計図などの資料を揃え、
法令に照らして合っているかどうかを
工事を始める前にチェックしてもらわなければ
ならないとしています。
これを建築確認といいます。
ところが、蟻鱒鳶ルでは
70センチずつコンクリートを打ちながら、
その時ごとに設計を考えながら
つくっていこうとしています。
前もって設計を決めてから着工するという
これまでの建築のつくり方とはまったく違うのです。
これは建築確認の制度と整合しません。
でも、これについても岡さんは
まったく心配していないようです。
「必要ならそのたびごとに
 設計変更を申請すればいいですから」
そうなのです。
着工した後の設計変更という制度があるのです。
それを申請すれば、法律的には問題ありません。
岡さんがつくろうとしている建物は、
現在の建築法令に対立しているというよりも、
少し前に流行った言葉でいえば
“想定外”というべきなのでしょう。
だから岡さんにも、反体制的な意識とか、
ずるいことをしている自覚とかはまったくありません。
実際、岡さんがつくっている蟻鱒鳶ルは
とってもヘンな建物に思えるかもしれないけれども、
法律的には少しも違法ではないのです。




■建物に関する法律は必要なの?

さてここからは建築の法律に関しての私見です。
建築に関する法律はいろいろと決められています。
それは大きく分けて個別の建物にかかわる単体規程と、
周囲の都市環境にかかわる集団規程とに分かれています。
集団規程の方は要するに
建物が大きすぎて圧迫感を与えてはいけないとか、
周りの家にあまり長時間、
影を落としてはいけないとか、
要するに建物が他人に
迷惑をかけないようにするための法令です。
これについては、岡さんのような
自邸セルフビルドの場合であっても
守らなければいけません。
一方の単体規定は個別の建物にかかわるものです。
映画館やデパートのような
不特定多数の人が訪れる建物の場合は
それなり安全につくっておいてもらわないと困りますが、
蟻鱒鳶ルの場合は、岡さんとその家族が住むだけです。
仮に不具合が出たとしても、
岡さんが自分の責任でそれを被るのみです。
自分で自分のために建てるセルフビルドの場合、
本来ならば法律でどうこう縛る必要はないのです。
このように蟻鱒鳶ルは、
法律ってこんなに必要なのか、
とその意味を問い直す建物でもあります。
僕らにとって蟻鱒鳶ルがもし異様に見えたとしても、
それはもしかすると、
法令や慣習にがんじがらめに縛られた
“普通”の建物の方が実は異常なのかもしれません。
次回は、この奇妙な土地を手に入れるまでの
エピソードを紹介します。



 
 
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